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「大丈夫」と言えなかった私が、退職の日に後輩へ残した失敗の記録

  • 2026.10.2
ハウコレ

大丈夫という一言は、新人の頃に誰からももらえなかった言葉でした。同じ順番で間違える後輩へ、私はそれを別の言い方でしか差し出せずにいました。

20年近く前の手帳を通勤の鞄に入れたのは、これで3度目でした。前の2度は家まで持ち帰れず、引き出しへ戻しています。退職の日、鞄の底で角の丸くなった表紙が、また指に当たりました。

新人の頃にもらえなかった言葉

新人の頃の教育係は、間違いを直しはしても、それ以上は口にしない人でした。封筒の宛名を間違えた日も、直された封筒だけが机に戻ってきました。手帳に「宛名、様と御中を両方書いた」と書き、余白に「誰も何も言ってくれない」と足しました。

2年前、隣に来た後輩が同じ封筒を作りました。口から出たのが「新人の頃の私にそっくり」です。ここから20年やってこられた、だからあなたも大丈夫。そう言うつもりの言葉でした。

伝えたいことを言い換えられずに

言うたびに後輩が封筒を裏返すのは見えていました。目が合わないことも、返事が短くなっていくことも。それでも言い換えられません。大丈夫、と口にしてみると、自分がもらえなかった言葉のせいか、どうにも軽く聞こえてしまうのです。

見積書の桁を間違えて先方から電話が入った日、また同じ言葉が出ました。「新人の頃の私にそっくり」。後輩はプリントアウトを机に伏せて、こちらを見ずに言いました。「私は先輩じゃないので」。見積書から目を上げられないまま、少し置いて「そうね。ごめんなさい」とだけ返しました。

最後のページに書いた「大丈夫」

その日の帰りに、手帳の最後のページへ1行を書き足しました。「同じ順番で間違えている。だから大丈夫」。読ませるつもりだったのかは、自分でもはっきりしません。退職の日、机を空にして、手帳だけを一番下の引き出しに戻しました。「引き出し、一番下だけ片付けきれなかったの。悪いけど、お願いね」と言ったのは、そう言う以外に渡し方が思いつかなかったからです。花束を受け取って、エレベーターに乗りました。扉が閉まる間、後輩はこちらに一度頭を下げただけでした。

そして...

新しい家の机の上の段に、新しい手帳を1冊入れました。間違えたことを、20年前と同じ書き方で書いています。あの子があの1行を読んで嫌な顔をしたのか、封筒を裏返さずに済んだのか。知らないまま、今日も1行を足しています。

(40代女性・営業事務)

本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。

(ハウコレ編集部)

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