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30年前、【ロックの歌姫】が見せた哀愁のもう一つの顔 4年寝かされミリオンヒットとなった“最初の一曲”

  • 2026.10.31
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1997年3月、NHKホールで行われた相川七瀬のライブより(C)SANKEI

鳴り出したエレキギターが、最初の一音から泣いている。尾を引く哀しい旋律は遠い異国の古い歌を思わせ、その足もとでは踊れるリズムが休まず脈を打つ。歌が始まる前に、ギターがもう一つの歌を歌い終えてしまうような始まり方だ。

そこへ相川七瀬のハスキーな声が、低いところから入ってくる。少女の反抗をぶつけるように歌い、ロックの看板を背負ってきた声が、ここでは夜の渚に立つ人のように恋の行方をじっと見つめる。少女とも大人ともつかない声の色が、旋律の哀しさに溶けていく。

これが、あの尖った相川七瀬の歌なのか。初めて耳にしたときの落差を覚えている人は多いはずだ。

相川七瀬『恋心』(作詞・作曲:織田哲郎)ーー1996年10月7日発売

ロックの彼女を印象づけた曲は他にいくつもある。それでも最も多くの人に届いたのは、この短調で紡がれた恋の歌だった。

尖った少女の次に差し出された哀しい横顔

『夢見る少女じゃいられない』から『BREAK OUT!』へと続いたシングルは、どれも反骨の勢いで挑みかかるロックだった。強い目線と突き放す歌い口こそが、相川七瀬という存在の手ざわりそのものだった。

5枚目のシングル『恋心』は、その流れから見るとはっきり毛色が違う。短調のミドルテンポ。勢いで押し切るのではなく哀愁で引き寄せる曲調は、ロックの看板に対する「もう一つの顔」であり、結果としてキャリア最大のヒットとなった。

強気な看板が先立っていたからこそ、ふいに差し出された哀しい横顔は深く刺さる。突っ張っていた少女が、ふと夜の窓辺で黙りこむ。その一瞬を見てしまったような感覚が、この曲の広がりにはある。

この順番から聴き直すと、代表曲の表情はずいぶん違って見えてくる。

大人びた歌は声が育つ日をじっと待っていた

実はこの曲、織田哲郎が相川のために「最初に書いた曲」だった。

作られたのは相川がまだ17歳の頃。相川自身も17歳でデモテープを受け取ったことを振り返っており、デビュー前から手もとにこの旋律はあった。だが、10代の彼女が歌うには大人っぽ過ぎるという判断から曲は未完のままストックされ、約4年を経て5枚目のシングルとして世に出る。

曲を寝かせる判断には、歌い手への確固たる信頼がうかがえる。ロックを何枚も歌い込むうちに、相川の声が曲の年齢に追いついていく。最後に現れたもう一つの顔は、実はいちばん最初から用意されていた顔だったのだ。

北国の民謡と太いギターを踊れるリズムに乗せて

作詞・作曲・編曲からプロデュースまで、この曲はすべて織田哲郎の手による。

組み合わされた素材は三つ。サビに宿るロシア民謡のようなノリ、ボストンを思わせる太いアメリカンロックのギター、そしてディスコビート。出どころの違う音楽が一曲のなかで美しく溶け合う。哀愁の旋律、骨太なギター、軽快なリズム。哀しい曲なのに重く沈まないのは、この魔術的な配合のおかげだ。

胸に迫るのはサビの入り口だ。低音域で語るように進んできた歌が、サビで一気に開け、民謡調の節回しが顔を出す。小さな部屋の恋の話が、急に広い夜の景色へ変わるところで背筋が伸びる。その重層的なサウンドの上で、ロックで鍛えた芯のある声が、哀愁を甘く流さずに太い線のまま運んでいく。

別れの前とも後とも決めない夜の歌

詞も織田が書いている。描かれるのは夜の景色だ。波の音、月明かり、青い影。夜と水辺のモチーフが一行ごとに静かに積み重なる。

二人はまだ寄り添っている。それなのに、そのあいだにできた隙間へ思い出のかけらがひとつずつ落ちていく。夜にはぐれたまま、主人公は愛を探し続ける。

この恋がもうすぐ終わる予感なのか、すでに終わったあとの夜なのか。詞はその答えを出さない。

結末を決めつけないからこそ、聴く人は自分の夜をそこに重ねられる。別れを知る人には追想の歌として、恋のさなかにいる人には胸騒ぎの歌として届く。一つの曲が、聴く人の数だけ違う夜を映す鏡になっている。

最大のヒットは書いた人の声にも帰っていった

『恋心』は、三貴のジュエリー「銀座ジュエリーマキ・ラプソワモ」のCMソングとして流れた。売上は累計110万枚を超えた。相川七瀬にとって、シングルでは唯一のミリオンセラーだ。

その後、曲は他の声にも渡っていく。2006年には織田自身がセルフカバー作『MELODIES』で民族楽器を多く使った編曲で歌い直し、2010年には稲垣潤一&杏子が『男と女3』でデュエットし、2011年には中川翔子が『しょこたん☆かばー4-2~しょこ☆ロック篇~』の1曲目に据えた。

書いた本人が歌えば異国の匂いがいっそう立ちのぼり、男女で分ければ濃密な恋の歌となり、ロックのカバー集では先頭を飾る。歌い手が変わっても曲の顔が崩れないのは、旋律の骨格がそれだけ太いからだ。

作り手が隣でギターを鳴らす舞台

2025年、相川の30周年ツアーに織田が帯同した。2026年2月20日に東京で行われた織田のライブ『幻奏夜Ⅹ』では、『恋心』がストリングスに2番からパーカッションが加わる編曲で演奏された。書いた本人の手もとでも、この曲は新しい姿を見せ続けている。

2026年夏からのZeppツアーでは織田がバンドマスターを務め、マーティ・フリードマンとツインギターを組んだ。

17歳でデモテープを受け取った少女が、いまはその曲を書いた人をバンドの真ん中に迎えて歌う。

最初に書かれ、4年待たされた曲が、いまも二人のあいだで鳴り続けている。その巡り合わせを知ってから聴くイントロのギターは、30年前よりも少しだけ温かく聞こえてくる。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。

(文・篝火花かほり )

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