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「座席を動かすとき、先に声をかけて」中古車査定で出会った奥様が、妙に慎重だった“意外な理由”

  • 2026.10.24
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出典:photoAC(※画像はイメージです)

中古車の買取を担当していた頃、査定では持ち主ご本人だけでなく、ご家族が立ち会われることも少なくありませんでした。査定は、担当する側には日常の作業でも、見守る方にとっては大切な愛車をどう扱われるか、不安や気になる点があるものです。

ある日のこと、AT車の査定に、持ち主であるご主人に代わって奥様が立ち会ってくださったことがありました。作業の前に、奥様からお願いがありました。

「座席を動かすとき、先に声をかけてもらえますか?確認したものも、元に戻しておいてください」

「承知しました。動かす前にお伝えしますね。ほかにも気になることがあれば、おっしゃってください」

大切な車の扱いをきちんと確かめておきたいのだと受け止めましたが、奥様がここまで慎重にお願いされた背景には、「心配」だけではない意外な理由がありました。

奥様にご安心いただけるように

私は、奥様が安心して見ていられるよう、お願いされた点を留意して作業に入りました。

「そこは、何を確認するんですか」

確認を始めると、奥様から質問がありました。その箇所について説明している途中で、別の箇所についても尋ねられました。

「こちらは何を見るんですか」

私はその都度、手を止めてお答えしました。ただ、説明が終わる前に話題が移ると、どこまでお伝えしたか分かりにくくなってしまいます。そこで、私のほうから先に確認する項目と順番をご説明したほうがよいと考えました。

「ほかにも気になるところはありますか。先に伺ってから、確認する順番をご説明しますね」

気になる点を伺い、これから見る項目と順番をお伝えしました。

「では、こちらから順番に見ていきます。何を確認しているかも、その都度お伝えしますね」

「お願いします」

その後は、一つずつ説明しながら査定を進めました。

「座席を少し動かして確認してもよろしいですか」

「はい、お願いします」

確認が済んだら座席を元の位置に戻し、そのこともお伝えしました。最初にお約束したとおりに作業を進めて査定を完了。買取条件については持ち主のご主人本人にも確認し、売却の手続きへと移りました。

買い替え先も「同じ車種」

奥様とお話しする中で、車の扱いを気にされていた理由を伺うと、「夫が大切にしている車なので、ちょっと気になってしまって」と教えてくれました。

車の買取では、買い替えについてもお話を伺うようにしているため、次のお車のご予定を尋ねました。

「次のお車は、何かお考えですか?」

「次も同じ車種にしようと考えているみたいです。ただ、今度はオートマではなく、マニュアル車にしたいそうなんです」

AT(オートマ)とMT(マニュアル)は、車の変速装置(トランスミッション)の種類を表す言葉です。ATはクラッチ操作や変速を自動で行い、MTでは運転する人がクラッチペダルとシフトレバーを操作してギアを切り替えます。同じ車種であっても、運転操作やドライブの楽しさは大きく変わります。

「ご主人がMTに乗ってみたいと思われたのは、何かきっかけがあったんですか?」

「私が乗っている車はMTなんです。その運転を見ていて、夫もMTに乗ってみたくなったみたいで」

奥様は、ご主人とは別にMT車を持っていました。ご主人の買い替えのきっかけは、その車を運転する奥様の姿だったのです。

「車種は気に入っているので、次も同じのがいいって言っています」

好きな車種には乗り続けたい。そして今度は、自分でMTを運転してみたい。奥様のお話を聞いて、同じ車種への買い替えにも、ご主人なりの楽しみがあるのだと分かりました。

次の車で、楽しみにしていること

MTに乗るための準備についても伺いました。AT限定の普通免許は、運転できる普通車がAT車に限られています。MT車を運転するには、その条件を解除しておく必要があります。

「ご主人は、免許のAT限定を解除されているんですか?」

「はい。教習を受けて、限定解除も済ませたんです。次はMTに乗れるように、準備していたんです」

この査定の時点で、ご主人はすでにAT限定を解除していたそうです。「乗ってみたい」という気持ちが、教習に通うところまでつながっていました。

奥様の運転を見てMTに興味を持ったご主人が、次は自分でハンドルを握ろうとしていました。

ご主人がMTに乗るきっかけをつくった奥様は、「次の車では助手席に乗ることを楽しみにしている」と話していました。


ライター:三枝 雄太
自動車アフターマーケットや自動車流通の分野で長年、販売・買取、店舗運営、接客、スタッフ育成などに携わる。カー用品や車のカスタムにも幅広く関わり、現場で培った経験をもとに、クルマに詳しくない人にも伝わりやすい言葉で、カーライフや懐かしい車文化を紹介している。


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