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隣家の60代男性「大事に育ててきた木なんだ!」柿の木と愛車が接触も…隣人が放った“思わぬ要求”

  • 2026.10.24
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出典:photoAC(※画像はイメージです)

「大事に育ててきた柿の木なんだ。根が傷ついているかもしれないじゃないか。植え替えてもらわないと困る」

隣に住むBさん(60代・男性)は、契約者のAさん(40代・男性)にそう求めました。Aさんの車がBさんの柿の木の枝と接触し、枝を折ってしまったのです。

しかし、Bさんの木の枝は道路にはみ出していました。そんな場合でも、車で枝を折ってしまえば、車側がすべて責任を負うしかないのでしょうか。

今回は、以前に損害保険会社で示談を担当していた私が対応した、木の枝をめぐる隣人同士の事例を紹介します。

先送りされていたせん定

「普段は明るく挨拶をしてくれるような、気さくな人なんですが…」

事故の状況を確認すると、Aさんはそう切り出しました。

ただ、Bさんの家の柿の木は、以前から枝が道路にはみ出していました。AさんはBさんに「秋になると、毎年実の重みで枝が垂れ下がるから危ない。せん定しておいてほしい」と伝えていたそうです。

Bさんの返事は、いつも「いずれやる」だったとのことでした。

結局、それから手がつけられないまま、季節は秋になりました。

柿が実ったことで、一部の枝は実の重みで垂れ下がり、車道側へ低くはみ出す状態になっていたそうです。

ハシゴに引っかかった枝

Aさんの車は、車高がやや高いワンボックスタイプ。ルーフにはキャリアを設置し、法定基準内の高さで、仕事で使うハシゴを積んでいました。

Aさんが自宅から車を出して、少し走ったときのことです。Bさんの垂れ下がった柿の枝が、ルーフのハシゴに引っかかりました。Aさんは接触に気づかないまま走行を続け、枝は車に引きずられる形で折れてしまいました。なお、現場は片側1車線の公道で、見通しは悪くありません。

Aさんの車やハシゴ、キャリアにも傷がついたものの、損傷はごく小さなものでした。

一方で、Bさんが求めたのは、柿の木そのものの植え替えです。

Aさんは私にこう話しました。

「実際に接触はしているので、賠償する必要はあるかもしれません。でも、今までの経緯もありますし…あまり納得はしてないですね」

木の持ち主に問われる管理の責任

私はBさんへ連絡する前に、Aさんに今回の事故の考え方を説明することにしました。

自宅の木の枝が道路にはみ出していたからといって、それだけで木の持ち主が事故の責任を負うわけではありません。ただし、枝が通行の妨げになると知りながら放置して事故が起きれば、木の管理に過失があったとして、持ち主にも賠償責任が生じる可能性があります。

今回のポイントは、Aさんが以前からBさんに、枝が道路にはみ出し、秋には実の重みで垂れ下がることを伝えていたことです。

Aさんの話のとおりであれば、Bさんも枝が車道側へ垂れ下がると通行する車と接触する危険があることを認識していたことになります。それでもせん定は行われず、秋になって実の重みが加わったことで、枝はさらに低い位置まで垂れ下がっていました。

こうした事情から、Bさんにも木の管理上の過失があると判断される可能性があったのです。

民法には、損害を受けた側にも過失があれば、その事情を考慮して賠償額を決める「過失相殺」という考え方があります。

今回のようにBさん自身にも過失があると考えられるケースでは、柿の木に生じた損害のすべてをAさんに請求できるとは限りません。Bさん自身の過失にあたる分は、Bさん側の負担です。

同時に、Aさんの車やハシゴに生じた傷については、Bさんもその過失に応じて賠償する立場になります。

Aさんにも求められていた注意

一方で、枝の危険を知っていたAさんにも、接触を避けるための注意が求められます。

Aさんの車は車高が高いうえ、ルーフにはハシゴを積んでいました。こうした車を運転する以上、車体だけでなく、積み荷を含めた高さにも注意して走行する必要があります。

現場は見通しが悪い場所ではありませんでした。枝の位置を確認しながら走行していれば、接触を避けられた可能性があります。

木の枝との接触事故には、車同士の事故のように、事故の形だけで決まる一律の過失割合があるわけではありません。枝の管理状況や道路の状況、双方が危険をどこまで認識していたかなど、個別の事情から判断されます。

今回のケースでは、枝が車と接触する危険を知りながらせん定しなかったBさんと、その危険を知っていたAさんの双方の過失が問われる状況でした。

「植え替え」は認められるのか?

私はBさんに連絡しました。

まず私は、枝が車と接触する危険を以前から認識していたことや、Aさんからせん定を求められていたことをBさんから確認しました。そのうえで、木の管理状況によっては、Bさん側も責任を問われる可能性があることを説明します。

やり取りの当初、Bさんはこう話していました。

「でも接触したのはAさんなんだから、賠償してほしい」

そこで私は、Aさんが賠償責任を負うとしても、枝が折れたからといって、柿の木そのものの植え替え費用まで当然に賠償の対象になるわけではないことも説明しました。

損害賠償の対象となるのは、事故によって実際に生じた損害のうち、「必要かつ相当と認められる範囲」です。木そのものを植え替える必要があるのか、それとも折れた枝への対応で足りるのかは、実際に生じた損害の程度を確認したうえで判断する必要があります。

「理屈は分かりました。まずは木の状態をもう一度確かめておきます」

私との電話を終えた後、Bさんはあらためて柿の木の状態を確認したそうです。

「よく見たら折れたのは枝だけで、根自体は大丈夫そうです。賠償は必要ありません」

Bさんは、植え替えの要求を取り下げました。これを受け、Aさんも車やハシゴについた小さな傷については請求しないことにしました。

「つい感情的になってしまいました。すみません」

後日、AさんはBさんからそう声をかけられたと、私に教えてくれました。

「しばらくは挨拶も気まずいですね…」

Aさんは、静かにそう話しました。

「危ない」と伝えていたことは、自分にも返ってくる

隣家の木の枝などが道路にはみ出していて危険だと感じたら、早めに持ち主へ伝えておくことが大切です。一方で、相手に危険を伝えたからといって、自分が注意しなくてよくなるわけではない点は忘れないでおきたいところです。

なお、同じような事故でも事情によって判断は異なり、一律に木の持ち主、あるいはドライバーだけに責任があるとは限りません。

確かに、せん定を頼んでいたという事実は、相手が枝の危険を知っていたことを示す材料になります。しかし同時に、自分もその枝の危険を知っていたことを示す材料になるのです。


ライター:スライカズヤ
保険・自動車分野を専門とするライター。損害保険会社で事案担当者として10年間、示談交渉・損害査定・自動車修理の協定業務に携わり、数多くの事故対応の現場に立ってきた。初級技術アジャスター、3級ファイナンシャル・プランニング技能士、損害保険事業総合研究所 本科講座修了。専門性の高い知識を、正確に、分かりやすく伝えることを信条とし、「当事者にならないとわからない」事故と保険のリアルを読者に届ける。


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