1. トップ
  2. エピソード
  3. 「自分が好きでやってるだけだから」と30年。2度断っても届く、隣の奥さんからのバレンタイン5箱

「自分が好きでやってるだけだから」と30年。2度断っても届く、隣の奥さんからのバレンタイン5箱

  • 2026.9.30

毎年2月に届く5つの箱

妻と二人で暮らす家の隣には、70代の奥さんが住んでいる。

私がまだ20代で、この家に越してきたころからの付き合いだ。

その奥さんが毎年バレンタインデーになると、チョコレートの詰め合わせを持ってくる。しかも1箱ではなく、決まって5箱。

それがもう30年、一度も途切れずに続いている。

私はもともとチョコレートがあまり好きではない。最初のころはお返しもしていたが、毎年選ぶことがだんだん負担になっていった。

十数年前の2月、いつものように玄関先で箱を受け取ったとき、思い切って伝えた。

「毎年ありがとうございます。でも、もうお気遣いなくて大丈夫ですよ」

すると奥さんは笑って言った。

「いいの、いいの。私が好きでやってるだけだから。気にしないで」

そのまま帰っていった奥さんだったが、翌年の2月14日にも、いつも通りチョコレートを持ってきた。

数年後、私はもう一度「本当に、もういただかなくて大丈夫ですよ」と伝えた。それでも返ってきたのは、やはり「自分が好きでやっているから」という言葉だった。

お返しをやめても続いた贈り物

それから私は、お返しをするのをやめた。こちらから何もしなければ、そのうち自然に終わるかもしれないと思ったからだ。

けれど翌年も、5箱のチョコレートは届いた。

さらに、バレンタインだけではない。お彼岸にはおはぎ、夏には果物、年末には干し柿と、ことあるごとに何かが届くようになった。

ある日、妻が台所で言った。

「今日もお隣から。玄関の前に置いてあったよ」

「チャイム鳴った?」

「ううん、気づかなかった。出なかったから置いていったのかな」

「そうか」

私が玄関に出なかったとき、包みはドアの前に置かれている。雨がかからないように、軒の下の同じ場所へきちんと寄せてある。奥さんらしい置き方だった。

妻がふと思い出したように聞いた。

「前に、もういいって断ったんだよね?」

「うん。二回。でも、『自分が好きでやってるだけだから』って」

「そうなんだ……」

妻もそれ以上は何も言わず、包みを冷蔵庫へしまった。

今年も玄関に並んでいた

奥さんから嫌がらせをされたことはない。お返しを求められたことも、何かを責められたこともない。道で会えば、今でも明るく挨拶をしてくれる。

だからこそ、どう受け止めればいいのか分からない。

2月が近づくと、「今年も来るだろうか」と玄関を気にするようになった。

今年の2月14日の朝、新聞を取ろうとドアを開けると、足元にきれいに包まれた箱が5つ、まっすぐ並んでいた。

チャイムの音も、門が開く音も、聞いた覚えはない。

奥さんには奥さんなりの気持ちがあるのだと思う。それでも、二度断ってからも続いている贈り物をどう受け止めればいいのか。30年たった今も、私には答えが出ていない。


※本記事は、GLAMが独自に実施したアンケートで寄せられた50代男性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

元記事で読む
の記事をもっとみる

注目コンテンツ