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「これくらいなら大丈夫」車のボンネットの小さな飛び石傷、元自動車メーカーの塗装担当が“放置しない”理由

  • 2026.10.11
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出典:photoAC(※画像はイメージです)

休日のドライブのあとや高速道路を走ったあと、ボンネットやフェンダーに点のような飛び石傷を見つけることがあります。遠くから見ればほとんど分からない程度なら、「これくらいなら、そのままでも大丈夫」と考えてしまう人もいるでしょう。

しかし、自動車の塗装は、ボディをきれいに見せるためだけのものではありません。金属製の車体をサビから守ったり、飛び石などによって車体が傷つくのを抑えたりすることも、大切な役割の一つです。

筆者はかつて大手自動車メーカーで、塗装ラインの構築や塗装品質の確認に携わっていました。塗装工程を知っている筆者が傷を見るときは、大きさだけでなく「どこまで深く達しているのか」も気になります。

小さな傷でも、塗膜を突き抜けて金属まで達していれば、そこからサビが始まる可能性があります。

車体は“色を塗る前”からサビ対策が始まっている

自動車の製造では、ボディカラーを塗るより前からサビ対策が始まっています。

内装やガラスなどがまだ取り付けられていない、鋼板を溶接して組み上げた状態の車体に下塗りを施します。一般的に使われるのが「電着塗装」です。車体そのものを塗料の入った槽へ浸し、外側だけでなく、車体の内側や細かな部分まで塗料を行き渡らせます。そのうえで電気の力を利用して、鋼板表面に塗膜を形成します。

筆者が塗装ラインに携わっていた際も実感しましたが、こうした工程で形成された塗膜は、完成車の外観からは見えません。しかし、むしろ見えなくなる部分まで塗膜で覆うことが、車体を長く使うためには重要です。

スプレーで表面だけを塗るのとは違い、複雑な形をした車体の広い範囲を下塗りで包み込み、その上に塗装を重ねていくことで、鋼板を外部環境から守っています。つまり、飛び石などで傷が深く入り、この防錆を担う層まで失われると、そこだけ鋼板を守る仕組みに穴が開いた状態になるのです。

小石の衝撃を受け止める、見えない塗膜の役割

下塗りの上にある中塗りにも、単なる「色を塗る前の準備」以上の役割があります。

中塗りには、表面を滑らかにしてボディカラーをきれいに見せるための土台を作る役割があります。しかし、見た目を整えることだけが目的ではありません。

車は走行中、砂や小石などが当たる環境で使われます。そこで求められる性能の一つが、小石の衝撃によって塗膜が簡単に欠けないようにする「耐チッピング性」です。チッピングとは、走行中に飛んできた小石などが車体にぶつかり、塗膜が欠けること。ボンネットや車体前方にできる点状の傷も、その一例です。中塗りには、こうした衝撃を受けたときに、その下の塗膜や鋼板まで傷が届きにくくする役割があります。

こうして考えると、車の塗装は一番外側の色や艶だけで成立しているわけではないことが分かります。下塗りや中塗りなど、普段は目に入らない層まで含めて車体を守っています。

そのため、見た目には同じ小さな傷でも、表面付近だけで止まっているものと、複数の塗膜を貫通したものでは意味が違います。

点だった腐食が、塗膜の内側へ広がることも

塗膜が失われ鋼板が露出した部分では、水分や酸素などの影響によって腐食が始まる可能性があります。ここで注意したいのは、サビが「最初に傷がついた場所」だけで進むとは限らないことです。

腐食が進むと、鋼板の表面状態が変化して塗膜との密着が弱くなることがあります。さらに、傷の縁や浮いた塗膜のすき間から水分が入り込めば、外からは塗装が残っているように見える部分でも、その内側で腐食が進む場合があります。やがて周囲の塗装が膨れたり、浮いたり、剥がれたりすれば、さらに水分が入り込みやすくなります。長期間腐食が続けば、鋼板自体も徐々に薄くなります。状態によっては穴が開くほど進むこともあります。

こうなると、最初に傷がついた一点だけを処置すればよいとは限りません。腐食した部分を取り除き、状態のよい下地まで戻してから塗膜を作り直す必要があるため、補修する範囲も大きくなります。

小さな傷の段階で対応する場合と比べ、放置して腐食が広がったあとのほうが、補修が大がかりになりやすいのです。

筆者が見るのは、傷のサイズだけではない

筆者が車体の傷を見るときは、「何cmあるか」だけでは状態を判断しません。塗装が欠けて下の素材が見えていないか、金属らしき部分が露出していないか、すでに茶色いサビが出ていないか、傷の周囲で塗膜が浮いていないか、といった変化を確認します。

ただし、目視だけで「クリアまで」「中塗りまで」と正確に判定するのは難しいものです。塗膜の構成や色は車種や仕様によって異なるからです。

また、バンパーのような樹脂製品では、塗装が剥がれても樹脂そのものがサビることはありません。同じ塗装傷でも、傷がついた部品の素材によって意味は変わります。

金属面が見えている、すでにサビが出ている、塗装が周囲から浮いてきているといった分かりやすい変化があれば、「小さな傷だから」と長く放置せず、早めに状態を確認して補修を検討したほうがよいでしょう。

車の塗装は、表から見える色や艶だけのものではありません。完成すると見えなくなる塗膜が重なり、その下で鋼板を守っています。点のような傷を見つけたときも、見た目の大きさだけでなく、金属の露出やサビ、塗膜の浮きといった変化がないか確認してみてください。小さく見える傷でも、早めに補修したほうがよい状態に気づく手がかりになります。


筆者:jaco

大手自動車メーカーで、自動車の塗装ラインの構築に携わった。車体の塗装面に色むらや異物がないか、品質検査を行った経験もある。現在はITエンジニア兼Webライターとして、ものづくりの現場で得た経験を生かして執筆している。趣味はキャンプ、登山、旅行。フリーランス時代には年間50泊ほどのキャンプを楽しみながら、アウトドアやIT系の記事を執筆していた。


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