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「高級車なんじゃないかしら」相手が9割悪い事故で、被害者30代女性が痛感した“たかが1割”の重さ

  • 2026.11.7
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出典:photoAC(※画像はイメージです)

「こっちはまっすぐ走っていただけなんです。相手が急に曲がってきて…」

契約者のAさん(30代・女性)は、事故の状況をそう説明しました。相手は、道路沿いの店に入ろうと右折してきたBさん(50代・男性)です。過失割合は10:90(Aさん:Bさん)で、Aさんにも1割の過失がありました。

相手が9割悪い事故なら、自分の過失は1割です。

「1割であれば、たいした額にはならない」。そう考える人もいるかもしれません。しかし、Aさんが相手に賠償する額は約15万円。Aさん自身の車の修理費の半分にあたる金額だったのです。

今回は、損害保険会社で事故対応を担当していた私が、実際に担当した路外に出る車との接触事故を紹介します。

店に入ろうとした右折車との接触事故

事故が起きたのは昼ごろ、片側1車線の道路でした。Aさんが直進していたところ、対向車線を走っていたBさんの車が、道路沿いの飲食店の駐車場に入ろうと右折してきました。

Aさんはブレーキをかけたものの間に合わず、Aさんの車の前部とBさんの車の左前部が接触。Aさんの車はバンパーやヘッドライトなどが損傷し、修理費は約30万円です。

「でもBさんの車、あまり見たことがないような車でした。もしかしたら高級車なんじゃないかしら」

Aさんは私に事故当時のことを説明しながら、そう振り返っていました。

直進していたAさんにも1割の過失がある理由

道路沿いの店などに入るため右折するときは、対向車線を横切ることになります。

道路交通法第25条の2第1項では、ほかの車両などの正常な交通を妨害するおそれがあるときは、道路外の施設や場所に入るための右折をしてはならないと定められています。つまり、右折する側には、直進車の進行を妨げないよう十分に確認して進路を変えることが求められるのです。

こうした交通ルールや過去の裁判例などをもとに、道路沿いの店などへ右折する車と直進車の事故では、10:90(直進車:右折車)が基本の過失割合とされています。

右折車に大きな過失がある一方、直進車にも前方の状況に注意して危険を避けることが求められます。右折車がウインカーを出して減速するなど、進路を変える動きを確認できる状況であれば、直進車にも減速して事故を避ける余地があるためです。こうした点から、直進車側にも基本として1割の過失が設定されています。

今回のケースでは、ほかに過失割合を修正する事情はなく、基本どおり10:90(Aさん:Bさん)となりました。

「私にも1割の過失があるんですね。でも、1割なら金額的にはそんなに大きくはならないですよね?」

しかし、この事故でAさんの負担額を左右したのは、「1割」という割合だけではありませんでした。

1割がかかるのは「相手の損害額」

Aさんが事故現場で感じたとおり、Bさんの車はいわゆる高級車です。

センサー類が組み込まれたバンパーやヘッドライトなどの交換が必要で、修理内容はAさんの車と大きく変わりません。しかし、部品代が高額でした。

修理費は約150万円。AさんがBさんに賠償する額は、その1割にあたる約15万円です。

「え!150万円もかかるんですか!?」

車の損害では、事故前の状態に戻すために必要な修理費が賠償の対象になります。一方、修理費が事故時の車の時価額を上回る場合は、原則として時価額が賠償額の上限です。今回は、約150万円の修理費がBさんの車の時価額を下回っていたため、その修理費をもとに賠償額が決まりました。

このように、同じ1割でも、相手の損害額によって実際の賠償額は大きく変わります。

一方、Aさんの車の損害は約30万円でした。Bさんから9割にあたる約27万円の賠償を受けるものの、Aさんは車両保険に入っていません。そのため、残る約3万円は自分で負担することになります。

差し引けば15万円は消える?

ここで、Bさんへの約15万円について、Aさんの対物保険を使うかどうかを検討しました。対物保険を使えば3等級ダウン事故となり、翌年以降の保険料にも影響します。

「相手からも27万円もらえるんですよね。そこから15万円を引いてもらえば、保険を使わなくて済むんじゃないですか?」

Aさんはそう提案しました。

Aさんの言うとおり、双方の賠償額を差し引き、Bさん側からAさんへ差額の約12万円だけを支払う「相殺払い」という方法もあります。Aさんが対物保険を使わなければ、今回の事故で等級は下がりません。

ただし、相殺払いでは、本来受け取る27万円から15万円が差し引かれます。Aさんが15万円を負担することに変わりはありません。

そこで判断材料の一つになるのが、15万円を自分で負担する場合と、対物保険を使った場合の今後の保険料です。

Aさんの契約条件で試算すると、保険を使った場合と使わなかった場合の保険料差は約10万円でした。15万円を自分で負担する場合と比べると、金額差は約5万円です。

もちろん、保険を使うかどうかは金額だけで一律に決められるものではありません。今回は、こうした試算結果も踏まえたうえで、Aさん自身に判断してもらうことになりました。

「等級を下げないほうがいいと思っていました。でも今回は、保険を使ったほうが負担は少ないんですね」

Aさんはそう言って、対物保険を使うことを決めました。Bさんへの約15万円は、保険から支払われることになります。

「1割なら大したことないと思っていました。相手の修理費次第で、こんな金額になってしまうんですね…」

示談解決後に私が報告したときに、Aさんはそうつぶやきました。

「たかが1割」の重さ

今回の事例から、事故後の負担を考えるうえで押さえておきたいのは次の2点です。

  • 過失割合が小さくても、賠償額が小さいとは限らない
  • 保険を使うかどうかは、今後の保険料も含めて考える

賠償額は「相手の損害額×自分の過失割合」で決まります。相手の車の修理費が高ければ、1割の過失でも負担が大きくなる可能性があります。

また、保険を使うか迷ったときは、自分で支払う賠償額と、保険を使った場合の保険料への影響が判断材料の一つです。保険会社や代理店に今後の保険料を試算してもらうと、自己負担額との違いを比較しやすくなります。

もし自分の過失が小さいと思われる事故に遭ったときでも、「過失割合の数字だけでは、自分が負担する金額は見えない」という点は覚えておきたいところです。


ライター:スライカズヤ
保険・自動車分野を専門とするライター。損害保険会社で事案担当者として10年間、示談交渉・損害査定・自動車修理の協定業務に携わり、数多くの事故対応の現場に立ってきた。初級技術アジャスター、3級ファイナンシャル・プランニング技能士、損害保険事業総合研究所 本科講座修了。専門性の高い知識を、正確に、分かりやすく伝えることを信条とし、「当事者にならないとわからない」事故と保険のリアルを読者に届ける。


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