1. トップ
  2. エピソード
  3. 「カーテン、明るくなったね」部屋に入れたことのない女性が、昨夜替えたものを知っていた

「カーテン、明るくなったね」部屋に入れたことのない女性が、昨夜替えたものを知っていた

  • 2026.9.29

挨拶を交わすだけだった女性

30代の私は、アパートで一人暮らしをしている。

同じ階には40代くらいの女性が住んでいて、廊下で会えば会釈をし、ときどき天気の話をするくらいの間柄だった。

「おはようございます。今日は冷えますね」

「ほんとね。いってらっしゃい」

いつも穏やかに笑う人だった。廊下の端にチラシが落ちていれば黙って拾っていることもあり、私は「よく周りを見ている人なんだな」と思っていた。

ところが2年ほど前のある朝、玄関を出た瞬間、廊下にいた彼女が笑顔で声をかけてきた。

「昨日、帰るの遅かったね。23時くらい?」

思わず足が止まった。

前の晩、残業で帰宅が23時を回ったのは本当だった。

しかし、帰宅時間を彼女に話したことはない。その夜も遅い時間だったので、なるべく音を立てないように鍵を開けたつもりだった。

「あ、はい。ちょっと仕事が長引いて」

そう返すと、彼女はいつもと変わらない笑顔で「いってらっしゃい」と手を振った。

階段を下りながら、私は昨夜の廊下を思い返した。人とすれ違った記憶も、誰かの気配を感じた覚えもなかった。

週に3回ほど続いた一言

それから、以前より彼女と廊下で顔を合わせることが気になるようになった。週に3回ほど、玄関を出ると彼女がいて、私の暮らしについて短い言葉をかけてくる。

「最近、朝はパンなんだね。いい匂いしてる」

確かに、その頃は朝食をトーストに変えていた。

別の日には、

「今日は洗濯しないんだね」

と言われた。

「ええ。雨が降りそうなので」

私はそれだけ答えたが、胸の奥に小さな引っかかりが残った。

そして、ある晩に部屋のカーテンを淡い色のものへ替えた翌朝だった。

私を見るなり、彼女は目を細めた。

「カーテン、明るくなったね。いいね」

私は一瞬、何と返せばいいのか分からなかった。

彼女に責められたことも、嫌がらせをされたこともない。ただ、どうしてそこまで分かるのか、それだけが分からなかった。

時間を変えても、そこにいた

次第に、玄関を開ける前に廊下の気配をうかがうようになった。

一度だけ、いつもより早く家を出た朝もある。それでもドアを開けると、彼女は廊下に立っていた。

「おはよう」

いつもと同じ声だった。

私は今も、そのアパートに住んでいる。

今朝もパンを焼き、洗濯機は回さず、玄関の前まで来たところで少し手が止まった。

今日は、何を言われるのだろう。

ドアを開けると、廊下には彼女がいた。

「おはよう。昨日は帰るの、早かったね」

そして何事もなかったように、

「いってらっしゃい」

と小さく手を振った。

私は今も、彼女がどうして私の暮らしをそこまで知っているのか、聞けずにいる。


※本記事は、GLAMが独自に実施したアンケートで寄せられた30代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

元記事で読む
の記事をもっとみる

注目コンテンツ