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定型の返却通知に「続き、入荷しました」と1行足した司書の私が、そのあと確かめなかったこと

  • 2026.9.27
ハウコレ

下巻を新着の棚に並べてから、私は数日、あの人に知らせる方法がないか考えていました。誰かに先に借りられれば、それで終わりのはずの本でした。

送信の前に添えた1行を、私は消しては、また打ち直していました。

「ないんですね」の声

私はこの図書館で司書をしています。利用者との連絡は返却期限を知らせる公式のチャットが中心で、文面は決まっています。上巻を返しにきたその人のことを、私は覚えていました。

「下巻は、ないんですね」

検索機で調べたあとの声には責める色がなくて、それが逆に引っかかりました。

「申し訳ありません。当館では上巻しか所蔵がなくて」

そう言って頭を下げると、その人は「そうですか」とだけ返して、本を置いて帰りました。その日のうちに、私は下巻を購入候補に上げました。予算の審査があるので、通るとは限りません。それでも出さずにいるほうが、私には落ち着かなかったのです。

新着の棚に並べた日

下巻が届いたのは、それから3週間ほどあとでした。私はそれを新着の棚に並べました。予約は入っていません。誰かに借りられれば、それで終わりです。取り置く理由はありませんでした。それでも、棚の前を通るたびに背表紙を確かめている自分がいました。数日が過ぎて、その人の返却期限の通知が送信の予定に上がりました。公式のチャットには、定型文の下に資料の案内などを書ける欄があります。使ってよい欄ではあります。ただ、私はこれまで定型文しか送ったことがありませんでした。あの人が続きを探していたことを、こちらから持ち出していいのか迷いました。私は案内欄に1行を打ち込みました。

「続き、入荷しました」

本の名前も、自分の名前も入れませんでした。打っては消して、3度目に送信しました。

送ったあとの画面

送信したあと、画面には何の変化もありませんでした。公式のチャットには既読の表示がなく、返信も届きません。余計だと感じたかもしれない。そもそも読まれていないのかもしれない。カウンターに立ちながら、そんな想像だけが続いていました。返却カウンターの前にその人が立ったのは、送信からそれほど経たないうちでした。サンダル履きで、肩で息をしていました。

「あの、メッセージに、続きが入荷したって」

「はい。新着の棚にあります」

棚まで案内すると、下巻はまだそこにありました。その人は私の名札を見て、それから「ありがとうございます」と言いました。なぜ連絡をしたのかは、聞かれませんでした。聞かれていたら、うまく答えられなかったと思います。私はカウンターに戻りました。

そして...

その日の閉館前、新着の棚を見ると、下巻はもうありませんでした。誰が借りたのか、貸出の記録を確かめることはしませんでした。

(30代女性・図書館司書)

本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。

(ハウコレ編集部)

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