1. トップ
  2. パリを拠点に世界にチャレンジする気鋭の建築家・田根 剛

パリを拠点に世界にチャレンジする気鋭の建築家・田根 剛

  • 2026.9.26
Hearst Owned

※2018年初出『リシェス』No.26に掲載されたアーカイブ記事を再編集して公開します。

長年、パリを拠点に活動している建築家、田根 剛さん。フランスでの新旧がぶつかる緊張感が創造の源になっていると語ります。その田根さんに、パリで建築の仕事をすることについて聞きました。

Yuji Ono

<Profile>
田根 剛(たねつよし)/建築家
建築家。1979年東京生まれ。ATTA - Atelier Tsuyoshi Tane Architectsを設立。2006年より、フランス・パリを拠点に活動。場所の記憶から建築をつくる「Archaeology of the Future」をコンセプトに、現在ヨーロッパと日本を中心に世界各地で多数のプロジェクトが進行中。主な作品に『エストニア国立博物館』(2016年)、『弘前れんが倉庫美術館』(2020年)、『ヴィトラ・ガーデンハウス』(2023年)、『帝国ホテル 東京・新本館』(2036年完成予定)など。フランス芸術文化勲章シュヴァリエ、フランス建築アカデミー新人賞など多数受賞。
URL/at-ta.fr

もともと興味がなかったフランスに住み、働くと…

パリ市庁舎前広場で2018年11月に開かれた風呂敷を紹介するイベント「Furoshiki Paris」で巨大な風呂敷の形のパビリオンを設計。市庁舎の建物に取り付けられた偉人の彫像も風呂敷を持っています。 (c)Atelier Tsuyoshi Tane Architects / photo : MARC VERHILLE

わずか26歳で「エストニア国立博物館」の設計競技で最優秀賞を獲得したのを機に、パリで共同の設計事務所を開いた建築家、田根 剛さん。その前はスウェーデンやイギリスで経験を積んできました。今もパリで自身の事務所を経営していますが、もともとフランスにはそれほど興味はなかったそう。でも住んでみて、「歴史や芸術を第一に考える、その奥の深さに惹かれるようになりました」と言います。

元シードル工場を改修した「弘前れんが倉庫美術館」。 (c)DAICI ANO

「古いものに敬意を払うことが前提になっていて、新しいものとの間に緊張感がある。実際に暮らしてみて、そのありようが腑に落ちました」

年の3分の2ほどはパリで、3分の1は日本やヨーロッパ各国に滞在して仕事をしています。日本での仕事も増えてきましたが、当面はパリに拠点を置くつもりです。

「世界にチャレンジしたいんです。これから経験値を積むためには、日本にひきずられないようにしたい」

長年パリで建築の仕事をしていて感じるのは、やはりフランス人が文化・芸術を大切にしていることだと言います。

「生活や経済などさまざまなものがある中で芸術が第一に考えられている。建築に携わっていると特に、文化・芸術に対する敬意や思想がフランスを支えているということを実感します」

ものづくりに関してもフランスは独特だ、と田根さんは感じています。

「とても分析的なものづくりをする国だと思います。ただ美しく作ればいいというものではなく、なぜそのものが必要か、ストーリーや文脈に意味があると考えている。そういった知性を大事にしています」

田根さんはパリだけでなく、仕事やオフで訪れた国ではできるだけ蚤の市やアンティークショップを巡って、昔の道具やお祈りのための像などを買い求めています。

「Todoroki House in Valley」。世田谷区等々力にたつ住宅。緑に囲まれ、渓谷の風が内部を通り過ぎます。 Yuna Yagi
Yuna Yagi

「以前は、過去のものは過去に属している、と考えていたんです。でもそのうちに記憶は過去のものではなくて、未来をつくる原動力なのではないか、と考えるようになった。記憶は単なるノスタルジアや思い出ではなくて、膨大な情報量を持っています。建築は未来をつくるものです。記憶がそのための力になる」

こんなことを考えるようになったのも「認めたくはないけれど、フランスにいたからかもしれませんね」と田根さんは笑います。

「エストニア国立博物館」は旧ソ連の軍用滑走路の跡地に作られた歴史と民族に関する作品を展示する博物館。“負の遺産”を「メモリーフィールド」(場所の記憶)と名付けポジティブな場に変えた。 photo : YUJI ONO / image courtesy of DGT.

「歴史や文化の蓄積と新しいものとが拮抗している環境で日々暮らしているうちに、刷り込まれたのかもしれません」

新旧の対比がクリエイターをさまざまに刺激してくれるパリ。思いがけずそこに根を下ろすことになった田根さんも、パリが見せるたくさんの表情に引きつけられています。

初出:リシェスNo.26 2018年11月28日発売
PHOTOGRAPHS:YUJI ONO

元記事で読む
の記事をもっとみる

注目コンテンツ