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「乗車券、あんたが取っただろ」酔った男性客に疑われた運転手。だが、乗車券が見つかった結果

  • 2026.10.30
「乗車券、あんたが取っただろ」酔った男性客に疑われた運転手。だが、乗車券が見つかった結果

夜のバスで大きくなっていった歌声

二十代のころ、仕事帰りに夜のバスに乗っていたときのことです。

車内の乗客はまばらで、私は後ろのほうの窓際に座っていました。

通路を挟んだ斜め前には、缶のお酒を手にした中年の男性が座っていました。

男性は乗ったときから独り言が多く、しばらくすると小さな声で歌い始めました。

最初は鼻歌程度だったのに、だんだん声が大きくなっていきます。

周りの乗客も気になっているようでしたが、誰も声をかけません。私もできるだけ目を合わせないようにしていました。

そのうち、走行中の男性がふらりと立ち上がりました。

すぐに運転手さんの声がマイクから流れます。

「お客さま、まだ走っています。危ないので座ってお待ちください」

男性は運転席のほうを見て、面倒そうに答えました。

「分かってるよ。ちょっと立っただけだろ」

「急に揺れることがありますので、お願いします」

運転手さんは淡々とした声のままでした。

男性は何かぶつぶつ言いながらも、再び席に腰を下ろしました。

「俺がなくすわけないだろ」

しばらくしてバスが停留所に着くと、男性が立ち上がり、運賃箱の前まで歩いていきました。

ところが、そこで上着やズボンのポケットを何度も探り始めます。

「あれ…乗車券がない。どこいった?」

運転手さんが振り返りました。

「ポケットやお荷物の中にありませんか?」

「ないって。さっきまであったんだよ」

「お席の周りに落ちているかもしれませんので、一度確認してみてください」

すると男性は、急に声を荒らげました。

「乗車券、あんたが取っただろ」

車内がしんと静まりました。

運転手さんは少し間を置いてから答えます。

「私はお客さまの乗車券には触っていません。まず、落ちていないか確認しましょう」

しかし男性は納得しません。

「いや、あんたが取っただろ。俺がなくすわけないだろ」

二度目は、さらに大きな声でした。

それでも運転手さんは言い返さず、

「分かりました。車内を明るくしますので、座っていた場所も見てみてください」

と声をかけました。

車内灯がつくと、薄暗かった足元までよく見えるようになりました。

男性が座っていたのは、私の斜め前です。

何となくその足元を見ると、座席の脚の陰に小さな券が落ちているのが見えました。

「あの……これじゃないですか?」

私が拾って前まで持っていくと、男性は乗車券を見たまま一瞬黙りました。

「……ああ」

それだけ言って受け取ると、先ほどまでの勢いが嘘のように静かになりました。

運転手さんは責めることなく、

「見つかってよかったです」

とだけ言いました。

男性は運賃を支払うと、何も言わずにバスを降りていきました。

私が席へ戻ろうとすると、運転手さんが小さく頭を下げました。

「ありがとうございました。助かりました」

「いえ、大丈夫です」

私がそう返して席へ戻ると、扉が閉まりました。

「お待たせしました。発車します」

いつもと変わらない落ち着いた声がマイクから流れ、バスは再び夜の道を走り始めました。

強い言葉を向けられても言い返さず、まず一緒に確認しようとした運転手さん。その姿が、今でも印象に残っています。


※本記事は、GLAMが独自に実施したアンケートで寄せられた20代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

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