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杖の女性の前で目を閉じる会社員に「お休みみたいですから」と言った私→終点で知った事情

  • 2026.9.22
ハウコレ

優先席で目を閉じたままの男性を、私は寝たふりだと決めつけていました。ところが終点でも席を立たず、ホームの駅員へ片手を上げたのです。

優先席で目を閉じている男性の右の靴は、紐がほどけたまま座席の前に投げ出されていました。

杖の音に、まぶたは動きませんでした

残業を終えた帰りの電車で、私は扉の脇に立っていました。目の前の優先席には、スーツ姿の会社員が鞄を膝に載せ、目を閉じたまま座っています。

2駅目で、杖をついた女性が乗ってきました。女性は優先席の前まで進み、つり革をつかみました。杖の先が床を打つ音は、はっきり聞こえます。彼のまぶたは動きませんでした。

ただ、鞄の持ち手を握る指に力が入ったのは見えました。起きている、と私は決めました。

「お休みみたいですから」

女性は何も言わず、揺れるたびに杖を持ち直していました。私は女性のほうへ身体を向けて、彼に届く声で言いました。

「お休みみたいですから、こちらは無理ですね」

女性は小さく笑って首を振りました。彼の目は閉じたままで、顔が私のほうを向くこともありませんでした。ほどけた靴紐が、電車の揺れに合わせて床を滑っています。

足を投げ出して、杖の音にも知らないふりをする人。そう決めつけて、私は3駅ぶん、彼の靴の先を見ていました。女性は、そのまま座れずに降りていきました。

説明する義務はない、と彼は言いました

終点に着き、乗客が扉へ流れていきました。私もホームへ出てから、車内を振り返りました。彼はまだ座っていました。終点なのに、まだ寝たふりを続けるのかと思いました。

ところが目は開いていて、ホームにいた駅員に向かって片手を上げています。何をしているのだろうと見ているうちに、駅員が車内へ入り、彼の腕を自分の肩に回して立ち上がらせました。右足が、床につかないまま浮いていました。私は、ほどけた靴紐と前に投げ出した足を見直しました。鞄を握っていた指にも、力が入っていました。感じが悪いと思っていた姿が、痛む足をかばうためだったと分かりました。

「足をひねっただけなので、タクシー乗り場までで大丈夫です」

その声で、3駅前に自分が言った「お休みみたいですから」が戻ってきました。聞こえるように言ったことまで、全部です。私は鞄の持ち手を握り直して、2人のところへ歩いていきました。

「さっき、聞こえるように言いました。すみませんでした」

「聞こえてました」

彼は駅員の肩を借りたまま、私を見ました。

「でも、別に説明する義務はないと思ってたので」

私は顔を上げました。決めつけたのは私です。目を閉じていることだけを見て、席を譲れる人だと思い込んでいました。

「そうですか」

私はそれだけ返して、彼の右足を見ました。あの3駅の間、本当に眠っていたのか、起きていて黙っていたのか。聞けませんでした。

そして...

駅員と私で、彼をタクシー乗り場まで送りました。鞄は私が持ちました。乗り込む前、彼は言いました。

「あの人には、言えばよかったです」

私は「そうですね」とだけ返しました。彼にも話したいことがあったのかもしれません。それでも、事情を知らないまま寝たふりと決めつけて嫌味を言ったのは、私のほうの問題でした。

あの日から、優先席に座っている人を見ても、その人が座っている理由まで勝手に決めないようにしています。

(30代女性・事務職)

本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。

(ハウコレ編集部)

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