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「45%が失われた冬」のあと。ロロ・ピアーナとモンゴルの赤いヤギ

  • 2026.8.28

クローゼットのカシミヤが、どこの草原から来たのかを考える機会はそう多くない。モンゴル東部では2023年から2024年にかけて、その原料を支えていた群れが半分近く失われた。ロロ・ピアーナが8月にウランバートルで発表したのは、そこから1年でどこまで戻せたかという報告だった。(フロントロウ編集部)

「ゾド」で、飼育ヤギの45%が失われた

モンゴルには「ゾド」と呼ばれる災害がある。放牧も飼料や水の確保もできなくなる厳しい寒波で、家畜を丸ごと失う遊牧民が出る。動物と人の健康にも、草原の生物多様性にも同時に打撃を与えるため、モンゴル東部草原地帯の回復力そのものを削る要因とされてきた。

2023年から2024年にかけて発生したゾドの被害は、数字で見ると容赦がない。バヤンデルゲル・ソム(郡)では飼育されていたヤギの約45%が失われ、そのうちの約80%がバヤンデルゲル・レッド・ゴートだった。

この赤いヤギは、モンゴル国内でも最高品質の天然ライトグレー・カシミヤを産出する固有品種で、国の貴重な資産として認められている強靭な種だ。つまり失われかけたのは品種そのものであり、同時に、このヤギに生計を依存する1,000戸以上の遊牧民世帯の暮らしでもあった。

初年度に生まれた子ヤギは、650頭を超えた

LVMHグループのメゾンであるロロ・ピアーナが2025年に立ち上げた「レジリエント・スレッド」は、モンゴルのスフバートル区を対象にした複数年のプログラムだ。カシミヤ協同組合と遊牧民のコミュニティ、そして草原そのものを支えることを目的にしている。

バヤンデルゲル・レッド・ゴートについては、人工授精による繁殖群の回復に取り組んだ。狙いは頭数を戻すことだけではなく、カシミヤの品質と生産性を上げて遊牧民の所得を増やすことまでが射程に入る。繁殖管理も家畜の健康管理も遊牧民自身が担い、初年度となる今年、650頭を超える新たな子ヤギが生まれた。

人の健診と家畜の検査を、同じ日に同じ場所で

プログラムが採用しているのは「ワンヘルス」という考え方で、人と動物と環境の健康を切り離さずに扱う。実際の形になったのが、スフバートル・ソム(郡)で試験的に実施された移動式のハブだ。

3日間の運営で支援したのは約75名の牧畜民。人の健康診断とカウンセリング、治療に加えて、獣医療の相談と検査、さらに羊毛の刈り取りの研修までを一つのユニットにまとめている。医者と獣医と刈り取りの指導が同じ日に草原へ来る、と言い換えたほうが早い。

その担い手も育てている。18の分野から集まった30名の専門家が10ヶ月の研修を受け、王立獣医科大学(RVC)とリエージュ大学から認定を取得した。スフバートル区の玄関口には「ムンクハーン生物多様性センター」が開設され、放牧地の保全や種子の販売、学校訪問の拠点になっている。2025年にはゾドの影響がワンヘルスの視点から初めて詳細に評価され、その提言はすでに地域と国の気候リスク対策に反映されているという。

40年の調達先だから、守る理由がある

今回の発表は、8月17日から28日までモンゴル・ウランバートルで開かれているUNCCD(国連砂漠化対処条約)COP17に合わせたものだ。UNCCDは土地問題で唯一の法的拘束力を持つ国際協定で、締約国は195にのぼる。

モンゴル・ウランバートルで開催されたUNCCD COP17の会場
画像提供:ロロ・ピアーナ

ロロ・ピアーナがモンゴルのカシミヤを調達してきた期間は40年以上で、イタリア国外で唯一の紡績工場をウランバートルに構えている。2019年からは責任あるカシミヤ・サプライチェーンの認証プロトコル策定に関わり、2021年には最初のカシミヤ製品が認証を取得した。慈善というより、原料の産地が痩せれば商売そのものが成り立たなくなるという計算のほうが近い。

ファッション業界の環境負荷について発言したエマ・ワトソンのように、この産業の作り方そのものを問い直す声はここ数年で確実に増えた。履き終えた靴を次の1足に混ぜる試みのように、素材の側から手を入れる動きも出てきている。LVMHは環境戦略「LIFE 360」で、2030年までに500万ヘクタールの自然生息地を回復すると掲げている。650頭という数字は、その途方もない目標のいちばん手前にある実数だ。

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