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【赤ちゃん連れの災害】被災経験を持つ助産師・防災士ママが伝えたい「ママと子どものケア」

  • 2026.8.13
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先日の熊本地震を受け、「小さいお子さんがいるママたちは、暑い中の災害、10年前から2回目というのもありとてもストレスがかかっていると思います」と話すのは、自身も東日本大震災の被災者で、1児のママでもある助産師で防災士の宗内優美香さん(With Midwife)。ご自身の避難所での体験から、今現地でママや子どもたちにケアできること、小さい子どもを持つママがもしもの時に知っておいて欲しいことを教えてもらいました。

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Profile

教えてくれたのは… 宗内優美香さん(With Midwife)

助産師、防災士。高校生のときに東日本大震災で被災。当時避難所で出会った千葉大学看護学部の教員の活動に影響を受け、看護の道を志す。衝撃的な避難所での経験から、大学の卒業論文には「避難所運営マニュアルに記載されている妊産婦・乳幼児への支援の分析」を選択。助産師への災害時母子支援の学びを提供するため、2024年には防災士の資格も取得。プライベートでは4歳の男の子を育てるママ。

避難生活で見た、 必死で授乳するママの姿が 助産師を目指すきっかけに

「私が助産師を志したきっかけは、高校2年生のときに体験した東日本大震災にあります。当時は将来の進路も決めておらず、部活に明け暮れる毎日でした。そんななかで発生した大地震。校舎は崩壊し、授業も部活も一瞬にしてなくなり、突然訪れた何もできない時間。『生かされた命を誰かのために使いたい』と思い、地元の避難所へボランティアに向かいました。

そこで目にしたのは、極限状態に置かれた大人の姿。物資の配給を巡って声を荒らげる人、認知症のおばあちゃんが排泄に失敗したことを周囲に叫ぶ人、そして体育館の片隅で何とか人目に付かないよう壁に向かって、身を縮めるようにして授乳するママ―――。プライバシーも理性もない空間で、避難所全体が暗く殺伐とした空気に包まれていました。

その雰囲気を一変させたのが、数日後に救援に駆けつけてくれた看護学部の先生でした。第一声がとにかく明るく、”太陽が来た!”と感じたのをよく覚えています。暗い空気だった避難所が次第に明るくなり、看護の力が人を救う瞬間を目の当たりにして、看護の道に進むことを決めました。その後、看護職としての進路を考えた時思い出したのは、あの避難所の片隅で肩を狭くして授乳していたママの姿でした。”災害時のような非日常においても、声が上げにくくなる女性や母子に寄り添いたい。もっと女性に特化した専門知識を身につけたい”という思いを強くし、助産師の資格も取得することにしました」

避難所は地域全員が来ることを 想定していません。 ママや子どもは できるだけ味方を見つけて声を上げて

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「”災害が起きたら、とりあえず近くの避難所に逃げれば安心”——そう思われる方も多いかもしれません。しかし現実には、自治体が用意している避難所の備蓄や受け入れ容量は、地域の全住民を100%カバーできるわけではありません。私自身、避難所でその厳しい現実を目の当たりにしました。当時、家が半壊しながらも自宅で過ごしていた男性が、家族連れで食料を求めて避難所にやってきました。しかし、避難所の運営側は『これは避難所に避難している人のための物資だから渡せない』と断ったのです。『俺たちは飢え死にすればいいのか!』と叫ぶ人と、限られた支援物資でルールを守ろうとする運営側の衝突。普段なら冷静な大人が余裕をなくし、声を荒らげる姿は大きな衝撃でした。

大人用の備蓄ではルールとのせめぎあいで衝突が起こりましたが、母子についてはそもそも肝心のルールがあまりなかったように思います。体育館で授乳していたママの姿も脳裏に浮かび、その後私は大学の卒業論文で‶避難所運営マニュアルにおける妊産婦乳幼児への支援”を研究することにしたのですが、やはり母子支援に関しての記載は非常に薄く、阪神淡路大震災が起こった神戸ですら、粉ミルクや授乳スペースに関する記載は十分ではありませんでした。研究当時2015年ですので、このあと改善が見られたことを祈るばかりですが、内閣府から指令を受けても、実際に行政がルール化するのにはタイムラグが生じます。つまり現状は避難所のルールだけに頼り切るのには限界があるのです」

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「災害時、非日常の空間では誰もが不安で余裕を失います。みんな大変だからと気遣う気持ちはもちろん大切ですが、体育館の片隅で授乳していたママのように、周りに気兼ねをして『自分が我慢すればいい』と声を潜めてしまうママや子どもたちは少なくありません。でも、非常時だからこそ我慢をせずできるだけ『味方』を見つけて声を上げてください。避難所にいる助産師や看護師、保健師などの医療スタッフ、同じように小さな子どもを抱えるママ、支援に入っている女性ボランティアなど、信頼できそうな『味方』を一人でも見つけることが第一歩です。『ミルクを作るお湯がほしい』『プライバシーが保てる授乳スペースがほしい』といったSOSは、決してわがままではありません。声を発することはとても勇気のいることだと思いますが、災害時、みんな自分のことで精いっぱい。人を気遣う余裕はないかもしれません。声を上げることで初めて周囲も『そこに困っている母子がいる』と気づき、配慮や支援の手を差し伸べることができるようになります」

助産師、防災士視点での 「今、伝えたいこと」

【おむつについて】 大人の生理用品が残っているなら おむつに敷いてあげるのも手です

「サイズがさまざまあるおむつは、地震発生から日数が経過しても希望のものが思うように届いていないかもしれません。今までならおしっこ一回で替えられていたところ、数が足りない場合思うようにできずかわいそうだなと思う親心、よくわかります。そんなときに、少しでも衛生的に今あるおむつを使うとしたら、大人の生理用品を中に敷いて、おむつ自体の交換頻度を減らすという方法があります。大人の生理用品を赤ちゃんに使ってもいいの?と思う方もいらっしゃるかと思いますが、緊急時、もしも生理用品はたくさんあるけれどおむつは足りない、という状況だとしたら、一時的にしのぐには有効だと思います。ただ、ママ自身の生理への配慮も、衛生を保ち感染症を防ぐためにもとても大事です。赤ちゃんのお世話で気が回らなかったりおむつの代わりに使ってあげたい…という気持ちが頭をよぎるかもしれませんが、ママ自身の汗でのかぶれも心配です。暑いなかの災害、下着を洗濯できない場合もあるかもしれません。足りないときには物資要請に声をかけてもらい、できるだけご自身も大切に、こまめに替えることを意識してもらえたらと思います」

【お風呂】 満足に入れない場合は 全身拭いてあげるだけでも

「私が被災したときは3月でしたが、それでも3日お風呂に入れないのはとても不快でした。暑い季節の今、とてもしんどいだろうなと思います。汗をかきやすい赤ちゃんは汗疹ができやすいためスキンケアはもちろん、感染症の対策としても清潔を保つことはとても大切です。もしおしり拭きをストックでお持ちなら、頭から足先まで拭くだけでもさっぱりします。看護の世界で『清拭(せいしき)』と呼ばれ、入浴ができない方の清潔を保つための方法です。私も日常で子どもが寝てしまいそう、でもお風呂に入れられなかった…というときに実践しています。おしり拭きが足りないけれど水は少し使えるという場合は、濡れタオルでももちろん大丈夫です。優しく拭いてあげるだけで、『何とかしてあげたい!』というその気持ちはきっとお子さんに伝わっていると思いますよ」

【母乳・ミルク】 赤ちゃんは脱水症状を起こしやすい。 母乳もミルクもなければ「水」を

「物資という点においては日々状況も変化してきているかもしれませんが、平常時のように満足のいくものが揃うまでには時間がかかりますよね。普段と違う状況でストレスを感じていらっしゃるのではないかと思います。母乳育児ならば、授乳は3時間おきなどと気にせずに、赤ちゃんが欲しがったらあげることを繰り返していきましょう。災害のストレスで分泌が減って不安になるママも多いのですが、おっぱいは吸われることで出てくるものなので、続けられるといいなと思います。そしてどうか、”私が我慢すればいい”と思わずに、避難所等、安心して授乳できるスペースがない場合は女性スタッフに相談して見守ってもらうか、プライベートエリアを作ってもらうようにしてください。

一方、ミルク育児の場合、断水や停電で普段通りにミルクが作れずに困っているママも多いかと思います。避難所に液体ミルクが届いていればいいのですが、もし本当に全くない場合には、赤ちゃんの脱水を避けるためにせめて水(水道水ではなく、できるならペットボトル等の飲用水、沸騰して冷ました水)を与えてもらえたらと思います。人は食事ができなくても1週間は水だけで生き延びられると言われていますが、大人の体内の水分量が60%くらいに対し、赤ちゃんは80%。大人より水分比率が高いので脱水症状を起こしやすいです。赤ちゃんも飲み慣れず与えるのにも苦労するかもしれませんが、スプーンなどで少しずつでもいいので与えてみてください。また哺乳瓶を消毒できないということもあるかと思います。その場合には、紙コップにミルクを入れて、少しずつ口に運ぶコップ授乳であげてみてくださいね」

【赤ちゃんの熱中症対策】 抱っこ紐で動くママも多いはず たまにでいいので赤ちゃんを下ろせるように心がけてみて

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「暑い中、炊き出しや片付け、きょうだいがいらっしゃる場合はその子のケアなどで動き回る場合、抱っこ紐で赤ちゃんを抱いている時間も多いと思います。抱っこ紐は思った以上に熱がこもりやすいもの。気が付かないうちに親子で熱中症ということになりかねません。赤ちゃんとママともにこまめに水分補給をして、赤ちゃんをちょっとでも下ろしてお互いに休めたらいいなと思います。涼しい場所の確保はなかなか難しいかもしれませんが、避難所にいる場合、ぜひこれも我慢せずに相談してみてください」

【ママの熱中症対策】 トイレに行きたくなくても水分を。 授乳中のママは率先して飲むように

「子どものお世話をしていると自分のことはそっちのけになってしまうママも多いはず。トイレに行きたくなるのは面倒だからと水分を摂らなくなる方もいるかもしれませんが、ご自身も熱中症になる危険性があります。貴重な水だとは思いますが、できるだけママ自身も水分補給をしてください。特に授乳中のママや妊婦さんは赤ちゃんに自分の水分を与えていることにもなるので、意識して水を飲むようにしましょう。また、車中泊など狭い空間での生活が続くと、妊婦さんは血栓塞栓症(エコノミー症候群)のリスクも高くなります。足の曲げ伸ばしなども意識して行えるよう、休息できる場所の確保ができるといいなと思います」

【子どもの心のケア】 夜泣きがある場合は まず抱きしめてあげること。 お兄ちゃんお姉ちゃんの”災害ごっこ”は止めないで

 

「地震発生から時間が経つにつれ、これからは物理的なケア以外に心理的なケアが必要になってきます。夜泣きや、くっついて離れないお子さんも多いかもしれません。普段でさえ子どもがぐずると親は余裕を失ってしまうものですが、ただ抱きしめるだけで子どもは安心するものです。ご自身も大変ななかだと思いますが、ぜひ意識的にスキンシップを取ってあげられたらいいなと思います。ママのリラックス効果にもなりますよ。

また、ある程度大きなお子さんですと揺れや津波を遊びや絵で表現する”災害ごっこ”をする子も出てくるかもしれません。大人は不謹慎だと思って止めがちですが、これは子どもがその時の記憶を吐き出している行動。止めてしまうと『これは吐き出しちゃいけないことなんだ』と気持ちが塞いでしまうこともあるので、まずは『そうなんだね』と子どもの気持ちを受け止めてあげてください。これからの期間は、現地にいる医療従事者も外傷より心のケアにまわる人が増えます。困ったら一人で抱え込まず、相談してくださいね」

最後に…ママとベビー&キッズの 身を守るために 防犯面で知っておいてもらいたいこと

「悲しいことですが、災害が起きると現地で性的被害が起きるというのも阪神・淡路大震災のときから言われていることです。特にトイレは必ず行く場所ですが、もっとも防犯面で気をつけるべき場所といわれています。臭いのするトイレは避難所から少し離れた場所に作られることが多く、死角となったこういった場所で被害にあう方が多くいらっしゃいます。特に小さな赤ちゃんを連れているママは万が一のことがあってもとっさに動けないと思いますので、一人で行動せず、家族に大人がいれば見守っていてもらうか、いない場合は同じくお子さんをお持ちのママと協力するなどできたらいいなと思います。私が被災したときは、夜も自衛隊の方が見張りをしてくれていたと記憶しています。もし誰も頼れる人がいない場合、信頼できるスタッフでもいいと思います。どうか味方を見つけて、孤立しないようにとお伝えしたいです」

 

改めて、令和8年熊本地震により被災された皆様へ、心よりお見舞い申し上げます。一日も早い復旧・復興と、皆様のご無事をお祈り申し上げます。

取材・文/石川仁美 イラスト/Ryosuke.Nagatomo
※掲載のイラストは、VERY2024年6月号「その防災グッズ、まだ使えますか?」、2025年2月号「もしも子どもと一緒の時に地震にあったら」から再構成したものです。

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