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「先ほども聞きました」試飲販売中、何度も同じ話をする客。だが、私が何も言わず相づちを打った理由

  • 2026.8.8

慣れない店舗での試飲販売

数年前、食品メーカーの販売スタッフとして、スーパーでビールの試飲販売を担当したときのことです。

買い物客の邪魔にならないよう、商品棚から少し離れた場所に立ち、通りかかった人へ声をかけていました。

その店舗に入るのは初めてだったため、私は商品の場所やお客様の流れを確認しながら、いつも以上に緊張していました。

午後になり、買い物客が少し増えてきた頃です。

一人の高齢の女性が試飲台の前で足を止めました。

「これ、昔似たようなのを主人がよく飲んでいたのよ」

女性は商品を眺めながら、亡くなったご主人について話し始めました。

口数は少なかったこと。休日になると庭の手入れをしていたこと。夕食の時間には、決まって同じ銘柄のビールを飲んでいたこと。

私は紙コップを片付けながら、「そうだったんですね」と相づちを打ちました。

売り場での立ち話ですから、長く会話を続けられる状況ではありません。それでも、ほかに試飲を希望するお客様がいなかったため、作業をしながら数分ほど話を聞きました。

やがて女性は、「買い物の途中だったわ」と思い出したように笑い、カートを押して通路の先へ進んでいきました。

しばらくして戻ってきた女性

それから十五分ほどたった頃、先ほどの女性が再び試飲台の前に立ちました。

買い忘れた商品を取りに戻ってきたのだと思い、私は軽く会釈をしました。

すると女性は商品棚を見ながら、先ほどとほとんど同じ口調で話し始めました。

「これ、主人が似たのをよく飲んでいたのよ。無口な人だったけれど、優しい人でね」

私は一瞬、どう返そうか迷いました。

「先ほども聞きました」と伝えるほどのことでもありません。女性は楽しそうに話しており、売り場の通行を妨げているわけでもありませんでした。

私は先ほどと同じように、「お気に入りだったんですね」と返しました。

女性はうれしそうにうなずき、ご主人が庭仕事をしていたことや、夕食時にビールを飲んでいたことを話しました。

内容はほぼ同じでしたが、私は話を広げすぎず、商品の補充や試飲台の清掃を続けながら、短い相づちを返しました。

途中で別のお客様が立ち止まったため、私は「少々お待ちください」と女性に断り、試飲の案内へ戻りました。

女性も状況に気づいたようで、私が接客を終えるまで少し離れた場所で待っていました。

接客が一段落すると、女性は「仕事中なのに引き止めてごめんなさいね」と言いました。

「いえ、大丈夫ですよ」

私がそう返すと、女性は小さく頭を下げ、今度こそレジの方向へ歩いていきました。

その後、女性が再び売り場へ戻ってくることはありませんでした。

同じ話をしたことに気づいていたのか、それとも単に話したくなっただけなのかは分かりません。

ただ、あの場でわざわざ指摘する必要はなかったと思います。忙しい時間なら会話を切り上げていたでしょうが、そのときは少し耳を傾ける余裕がありました。

接客では、商品を勧めることだけでなく、相手の様子を見ながら適度な距離を取ることも大切なのだと感じた出来事です。

※tendが独自に実施したアンケートで集めた、40代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

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