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「大人のための絵本」モデル・アンヌさんの名作選ホットフラッシュと夏の浴衣。激しい「熱」が教えてくれた平和の絵本~『風が吹くとき』『やばっ!』~vol.47

  • 2026.8.7

ホットフラッシュと浴衣と、その先に

こんにちは。アンヌです。
夏が来ると、浴衣が着たくなります。そう思いながらも、息子が生まれてからというもの、桐箪笥(きりたんす)を開けるのは年に一度の虫干しのときくらい。気づけば、17年という歳月が流れていました。
ふと、「今年こそ着てみようかな」と、たとう紙の紐をほどいてみると、出てきたのは絞りの浴衣ばかり。手仕事ならではの細やかな凹凸が生み出す肌触りと、身体にすっとなじむ着心地が好きで、気がつけば何枚も揃えていました。
そんな中、最後に誂えたのが「綿紅梅(めんこうばい)」の浴衣です。一面に配された番傘模様は上品で、ワッフル状の織りの風合いと控えめな色合いが、見た目にも涼やか。「お出かけ浴衣」としても人気があり、襦袢(じゅばん)を合わせて夏帯でお太鼓を結べば、浴衣より一歩格上の装いになると聞いていました。
「いつかそんな着こなしをしてみたい」
そう思って誂えたはずなのに、結局一度も袖を通さないまま眠らせていたのです。そっと生地を撫でてみると、この綿紅梅が私に「50代を迎えて、ようやく着ごろが来たよ」と微笑みかけてくれているような気がしました。

17年間、箪笥に眠っていた「お出かけ浴衣」に袖を通して

そんな折、お世話になっているスタイリストの方から浴衣フェアの案内をいただきました。コーディネートの相談にものってくださるとのこと。
「ちょうどいい。この綿紅梅に合う半幅帯を選んでもらおう」
そう思って足を運びました。本来、お出かけ浴衣にはお太鼓結びが基本だそうですが、私にはまだ少しハードルが高い。この結び方ができるようになるまで待っていたら、また何年もこの浴衣を箪笥の中で眠らせることになってしまいます。幸いにも、最近は着物の装いに以前ほど堅苦しい決まりはありません。スタイリストの方にも「自由に楽しみましょう」と背中を押していただき、モダンな柄の半幅帯を合わせることにしました。
翌日は、息子の学校の懇親会。
思い切って綿紅梅に袖を通してみました。帯を締めても思ったほど暑くはなく、むしろ風が通って心地よいくらい。会場へ着くと、思いがけずたくさんの方から声をかけていただきました。
「素敵ですね」「私も和装が好きなんです」
そうおっしゃる方が意外と多く、嬉しくなりました。けれど続く言葉は、皆さんよく似ています。
「子育てで忙しくて、そのまま眠らせています」「少し時間に余裕ができたから着たいけれど、着方をすっかり忘れてしまって……」
その気持ちは、痛いほどわかります。
「私も同じです!でも今はYouTubeで先生方がとても丁寧に教えてくださるので、少し時間はかかっても、ちゃんと着られますよ」

突然のホットフラッシュ。身体の「熱」がつないだ、あの夏の記憶

そんな話をしながら食事をしていると、突然、身体がカーッと熱くなりました。ホットフラッシュです。漢方を飲み始めてから少し落ち着いていましたが、薬を切らしたままにしていたら、急に激しくぶり返してしまったよう。
その日は最高気温37度の猛暑日。そこへ上半身が何度も沸騰するような熱に包まれ、汗は拭いても拭いても噴き出してきます。
「浴衣は涼しいですよ」
そんなことをお伝えするつもりが、ちっとも説得力のない姿です。
ぼんやりとする頭の中、次第に会話は遠のき、猛暑の熱気と身体を襲う激しい熱が重なり合い、ふと、いつか映像で見た原爆投下直後の場面が頭をよぎりました。目の前に広がるような、焼け野原の光景。あの日、人々はどれほどの熱さと苦しさの中にいたのだろう……。
私が体験しているものとは比べようもありません。それでも、「熱」という身体感覚が、遠い歴史の記憶へと静かにつながっていきました。
今年も8月6日、そして9日が巡ってきます。火照る頭で思い出したのは、原爆の恐ろしさと、世界が終わるかもしれない時を深く描いた2冊の絵本でした。今回は、その2冊をご紹介したいと思います。

*次ページではアンヌさんのおすすめ2冊をご紹介します

『風が吹くとき』

作/レイモンド・ブリッグズ
訳/さくまゆみこ
(1,760円 あすなろ書房)

イギリスの片田舎で慎ましやかな暮らしを送る老夫婦。ラジオから流れる不穏な世界情勢に戸惑いつつ、政府が発行したパンフレットを頼りに、保存食の確保や室内シェルターづくりを始めます。
突然、「核ミサイルが発射」の知らせが! なんとか身の安全を確保できたものの……。原子爆弾投下の数日後までがコミック形式で細やかに描かれ、核戦争の恐ろしさが迫ってくるような一冊です。
『せむがりやのサンタ』の作者によるこの世界的ベストセラーは、アニメ映画化も。デヴィッド・ボウイが主題歌担当したことでも知られています。当たり前の日常がいかに尊いか。改めて深く考えさせられます。

『やばっ!』

作/トミー・ウンゲラー
訳/アーサー・ビナード
(2,420円 好学社)

草木が枯れ、生き物もいなくなり……。世界にたったひとり残された「ぼく」が、「やばっ!」と焦るたびに自分の「カゲ」に導かれます。地面が爆破され、建物が倒れ、大洪水に襲われ、ついにはメルトダウンも。次々と訪れる危機を乗り越えながら、「ぼく」は生きる道を探してゆきます。
『すてきな三にんぐみ』で知られる世界的絵本作家が最後に描いた一冊。予想不能なこれからの時代を生きる私たちへ、困難を乗り越え、絶望の中にも希望があるというメッセージを、ぜひ受け取ってください。

*画像・文章の転載はご遠慮ください

【information】
アンヌさんががBS朝日「旅する日記」に出演します。
さまざまな人が1週間の日記をつづるドキュメント番組『旅する日記』(BS朝日)。
アンヌさんが7月24日に出演した模様はYouTubeにて公開中。
YouTube『旅する日記』
https://www.youtube.com/channel/UCQ7n0a3oNWimyA0bJhitX8w

この記事を書いた人

モデル、絵本ソムリエ アンヌ

アンヌ

14歳で渡仏、パリ第8大学映画科卒業。 モデルのほかエッセイやコラムの執筆などで活躍。 最近は地域で絵本の読み聞かせ活動も行っている。

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