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天才女医の部屋は、“ゴミまみれ”… 「医療漫画に見せたくなかった」作者が明かすタイトルの真意【インタビュー】

  • 2026.8.27
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出典:『おつかれさまです、榛原さん』【一話】榛原あおい、心臓血管外科医。(pixiv)

「働き方改革」という言葉が浸透してから、もう何年もたちます。それでも、どうしても残業をせざるを得ない職場や、休みの日まで仕事のことが頭から離れない人は、今でも少なくありません。「仕事では頑張れるのに、私生活にまで手が回らない」という方もいるのではないでしょうか。

そんな空気を切り取ったかのような漫画が、pixivにて連載中の、心臓血管外科医を主人公にしたおつかれさまです、榛原さんです。今回は、作者のあまめのこしさんに作品づくりの背景を伺いました。

天才外科医の「素顔」を描く

本作の主人公は、手術件数・術後成績ともに国内トップクラスの心臓血管外科医、榛原あおい。後輩や同僚からも信頼され、憧れられる天才外科医ですが、自分のことに頓着する余裕がなく、現在はいわゆる“汚部屋”暮らし。

そんな榛原が自伝本の出版をきっかけに、売れっ子装幀家・梶 良太と出会います。人の心の機微に敏い梶と関わるうちに、榛原は少しずつ自分自身と向き合い始める……という物語です。

「拗らせたシゴデキ社畜」を描きたかった

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出典:『おつかれさまです、榛原さん』【一話】榛原あおい、心臓血管外科医。(pixiv)

――本作を描き始めたきっかけについて教えてください。

あまめのこしさん:
プライベートを拗らせたシゴデキ社畜外科医の再生譚を描きたかった
、というのがきっかけです。
忙しい病院の医師って、休みの日もほとんど病院にいるし、月残業200時間とかでも翌朝普通に出勤するし、それでも体調管理が完璧で風邪すらひかないし……「やりがいの搾取」みたいな職業の最たるものなんですが、それ以上に仕事への矜持や探究心で頑張っています。けど、そんな彼らもこれまでの人生と私生活のある一人の人間なんだよ、という心の叫びを漫画にしようと思いました。

――医療関係者の生活の犠牲に、目が向けられることは少ないのかもしれませんね。

あまめのこしさん:患者さんのご家族の都合で、病状説明を休日や時間外に行わざるを得ないことがあります。大切な時間だと理解しているので医療者もできる限り対応しますが、そこに時間外手当や休日手当は一切つきません。
一方で、大切な家族の病状説明には仕事を休んででも駆けつけるべきだとも思います。
医療従事者にも家族や友人との時間、休日、趣味といった「生活」が当然あるはずなのに、それが「医療のために差し出されて当然のもの」として社会から扱われてしまうことに、以前から違和感を持っていました。

――医療従事者の「使命感」や「自己犠牲」に甘えてしまっているのかもしれません。

あまめのこしさん:
医師についても2024年から働き方改革が始まりましたが、医療を維持するため、一般の労働者とは異なる長時間労働の上限(年最大1860時間)が今なお認められているのが現状です。
患者さんのために働くことと、医療者自身の生活を犠牲にすることは、本来同じではないはずです。そこに目を向けないまま自己犠牲に依存し続ければ、いずれ医療を担う人自体が減り、結局困るのは医療を必要とする私たち自身だと思います。

「仕事」と「生活」、本来対立しないもの

――「人と人との関係性・仕事・人生」というテーマを選ばれた理由をお聞かせください。

あまめのこしさん:
自分は多趣味な人間ですが、仕事も大好きです。技術向上、知への渇望が尽きません。嫌いにならない上手な距離感をわかっているからこそ、激務でもしんどくても、辞めようと思ったことは一度もありません。それくらい仕事は自分にとって大切なものです。
大人になると、仕事やそれに関わる人間関係がライフイベントに大きく絡んでくるので、自分が共感できる題材を選んだ結果、自然とこうなりました。

――榛原さんと共通する部分かもしれませんね。

あまめのこしさん:
榛原のことも、決して「仕事が好きだから何もかも犠牲にしている人」として描いているわけではありません。彼女にも仕事以外の人生があるはずなのに、自分自身でもそこを後回しにしてしまっている。そのことを、作品を通して描いていきたいと考えています。
医療に限らずインフラ、エッセンシャルワーカーなど、こういう人たちが可視化されないまま蔑ろにされてしまうからこそ、これは「医療漫画ではなく社畜のヒューマンドラマ」なんです。

――読者に気づいてほしい、心の変化や葛藤の描き方について、こだわっている点はありますか?

あまめのこしさん:
特にないです。自分が読みたいものを実直に描いています。なので自由に読んでください。こう読んで欲しい、気づいて欲しいと著者が発言してしまうと、感じたり考えたりすることの自由度が激減してしまうと思うので。

――『おつかれさまです、榛原さん』というタイトルには、どのような思いを込めていますか?

あまめのこしさん:
「おつかれさまです」って日本語らしい便利な言葉ですよね。
一見、医療漫画に見えるというだけで読むハードルが上がってしまいそうですが、ポップなロゴデザインとカジュアルで軽快なタイトルで、「これは医療漫画じゃなくて主人公が外科医というだけのゆる〜いヒューマンドラマですよ」とアピールしたくてこのタイトルにしました。

――タイトルの多層的な優しさが、この作品の魅力を物語っているように感じました。

肩の荷を、少しだけ下ろすために

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出典:『おつかれさまです、榛原さん』【2話】心臓外科医、当直明け(pixiv)

社会全体で働き方改革が進み、過酷な労働環境は制度として見直されつつあります。それでも、目の前の仕事への強い責任感や、人員数などの問題から、自分の生活を削って働かざるを得ない人たちは今も少なくありません。

榛原は並外れた努力家の天才外科医という稀有な存在ですが、仕事への誇りを持ちつつも、自分の生活を後回しにしてしまう彼女の姿は、決して「特別な誰かの話」ではないのです。

本作は、社会から見えにくくなっている「働く個人の生活」に温かい光を当ててくれます。頑張ることに慣れすぎて、自分をいたわる余裕を忘れてしまった人にこそ、読んでほしい一作です。きっと自分自身にも「おつかれさまです」と声をかけたくなるのではないでしょうか。


取材協力:あまめのこし
2024年9月に『おつかれさまです、榛原さん』の読み切り版をpixivに投稿し、翌2025年4月から連載を開始。本作は2025年4月の「pixivマンガ月例賞」で大賞を受賞した。普段は社会人生活を送りながら漫画制作に取り組んでいる。趣味は、読書、映画、乗馬、観劇。

ブログ
・作品:『おつかれさまです、榛原さん

 



 

▶『おつかれさまです、榛原さん』本編を読む

#1 「人生勝ち組じゃん」そう言われている天才外科医のプライベートは
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クリエイター情報

あまめのこし

野生の漫画描き。  『おつかれさまです、榛原さん』という女医が主人公のヒューマンドラマを描いています。汚部屋外科医と、おせっかいデザイナーの再生譚。 人間愛が好き。

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