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市川團子「祖父がいない状態で生まれる初めてのスーパー歌舞伎」『もののけ姫』に挑む22歳の覚悟〈大河ドラマ『豊臣兄弟!』出演も話題〉

  • 2026.7.3
市川團子さん。

若手歌舞伎俳優として目覚ましい躍進を続けている市川團子さん。大学を卒業し社会人としての一歩を踏み出した2026年はさらなる飛躍が期待されています。何よりの注目は新橋演舞場で7月から上演されるスーパー歌舞伎『もののけ姫』。アシタカとシシ神を演じる表現者としてのみならず、舞台づくりそのものに対しても積極的に取り組んでいる團子さんにお話をうかがいました。


スーパー歌舞伎と『もののけ姫』の親和性

市川團子さん。

――『もののけ姫』は團子さんにとって初めてとなるスーパー歌舞伎の新作。幅広い層から注目を集めていますね。

ありがたいです。祖父が命懸けで創始した「スーパー歌舞伎」と、国内外にたくさんのファンがいらっしゃるスタジオジブリさんの代表作ですから、最初にお話を聞いた時はワクワクする一方で、不安や怖さを感じました。ですが、いい舞台にしなければという感情がストレートに湧いてきたのを覚えています。

――團子さんの祖父、二代目市川猿翁(当時 猿之助)さんによって、スーパー歌舞伎第1作『ヤマトタケル』が誕生したのは1986年。團子さんは2024年に上演された『ヤマトタケル』でタイトルロールを演じていますが、その時の舞台に向かう気持ちとはまた違うものがあるのでしょうか。

ヤマトタケルは祖父を始め何人もの方が演じていらして、その映像も残っています。また祖父と舞台を共にされた先輩方が、誕生に至るまでのエピソードからその後の変遷まで実にさまざまなことを教えてくださいます。

だからそこから学ぶことができましたが、今回は新たに一からつくっていかなければなりません。しかも祖父がいない状態(※猿翁さんは2023年にご逝去)で生まれる初めてのスーパー歌舞伎の新作です。

市川團子さん。

――「現代人の心に響く歌舞伎を」という理念のもと、猿翁さんが創始したスーパー歌舞伎の重要な要素が、スピード、ストーリー、スペクタクルの頭文字から命名された3S。ストーリーに関しては太鼓判ですよね。

そう思います。正しさとは何か、自分の軸を問い直される物語だと思うのですが、作品の持つテーマ性が普遍的でスーパー歌舞伎と非常に相性がいいと思います。ただ舞台では物理的な問題もありますし、映画のアニメーションのテンポと同じようにはいきません。問題はそれが歌舞伎としてどう具現化されるかということです。

――スーパー歌舞伎とは親和性があるようですね。

根本的に歌舞伎はデフォルメ、様式美の演劇です。この作品の魅力である壮大な世界観と絵面の美しさを、現実のものとして舞台上で表現するのなら歌舞伎が何よりも適しているのではないかと思うんです。

アシタカ・ブルーの衣裳に宿る原作リスペクト

市川團子さん演じるアシタカ。 ©︎松竹

――原作は絵本やコミックにもなっています。

はい、拝見しました。特にコミックは、お稽古をしている時に「ここは原作だとどうだったかな」と思った所をすぐに確認することができます。お稽古場では、バイブルとして扱われています。

――歌舞伎らしさを追求しこれから創作していくうえで大切なのはどのようなことだと思われますか。

案配だと思います。原作へのリスペクトを大前提にしつつ歌舞伎として違和感がない、“いい案配”を見つける努力をすることだと思います。

――アシタカのビジュアルですが、衣裳には團子さんの考えが反映されていると聞きました。

最初に見せていただいたデザイン画はもっと白に近い水色だったんです。というのも、これまでスーパー歌舞伎の主人公は白を基調とした衣裳がベースだったので、それを踏まえてのアレンジでした。

いまはスマホで検索さえすればアシタカの画像も誰でもすぐに見れる時代です。そうでなくても多くのお客様の中にアシタカの確固たるビジュアル像が存在しています。古典作品を原作とするのか、現代を作品を原作とするのかで、脚色が出来る範囲が変わってくると思います。

デザイナーさんが描いた衣裳のイメージ。

――なるほど。気軽に画像検索できる端末を誰もが持ち歩くことができる現代だからこその視点ですね。アイドルやアーティストのグループが個々にイメージカラーを持っていることを思うと、色に対してはかつてより敏感かもしれません。

それもあると思います。個人的な感覚にはなるのですが……衣裳の形が“歌舞伎”になることに対して違和感を抱かれる方はそんなにはいらっしゃらない気がするんです。でも色が変わってしまうと違うのではないかと。

著作で識る、偉大な祖父の息吹

市川團子さん。

――アシタカ・ブルーの衣裳を着た團子さんが照明の光のなかで、舞台でどのように躍動するのか楽しみです。そうしたこともお祖父さまがご健在だったらご相談できたのでしょうね。

ただ祖父はいくつも著書を残してくれているんです。そこにヒントがあり明確な答えが得られることもあります。作品や役そのものだけでなく、さまざまなことをその過程を含めて知ることができる。それはつまり研究して得られた方程式を残してくれているに等しいわけで、これはすごいことだなと思います。本のおかげでものごとを論理的に考えることができるんです。

――お持ちいただいた『猿之助修羅舞台』(PHP文庫)もそのひとつ。かなり読み込んでいらっしゃるようですね。

全然まだまだです。私より読んでいる方は巨万といます。

團子さん私物の『猿之助修羅舞台』(PHP文庫)

――最初に読まれたのはいつ頃ですか。

中学生でした。当時はまるで理解が追いつきませんでしたが、自然に惹きつけられてどんどん先に読み進めちゃう。そんな感じでした。

この本は“猿之助歌舞伎”というものを確立していった祖父が、エネルギッシュにその軌跡を書いたもので、祖父のものごとの捉え方や考え方に勇気づけられますし、読んでいると元気になれるんです。

――終始エネルギッシュな方でしたが、創造性豊かにさまざまな事象に対して果敢に立ち向かっていらしたお若い頃のエピソードなどは、現在の團子さんの年頃だからこそ響くものがあると思います。

これから先もさまざまな局面で指針になってくれると思います。ただ祖父の判断力というのは理屈を超えたところにあって、これはもうセンスとしか言いようがないんです。

――ご生前に「理屈は後からついて来る」とよくおっしゃっていらしたのを思い出します。

先に理屈ではなくて百戦錬磨で身につけた肌感覚のセンスなんです。それがずば抜けているんです。で、それがどういうことかを自分の中で整理するために論理的に検証している。理論ありきでそれを通そうとすればいろんな理屈をつけることは出来ると思うんです。でもそこには罠もある……。

――理論に夢中になってしまうと、他の選択肢やさらなる可能性を見落とすことにもなりかねないですものね。

自分は頭でっかちになりがちなので、そこがよくないところだと思っています。

――客観視なさっているのですね。センスを磨くために心がけていることは?

芝居はもちろんですが映画でも本でも、世の中にあるさまざまなものに触れるようにしたいと思っています。とにかくまずはインプットが大事。それは素晴らしいとされる名作に限ったことではなく、評価がいまひとつのものでもその原因がどこにあるのか探るのも勉強になると本で読みました。とにかく今は数をこなす、何でも経験することが大切で、自分の引き出しのなさを実感しています。

森蘭丸で「離見の見」を感知

市川團子さん。

――NHK大河ドラマ『豊臣兄弟!』に森乱 役で出演されていますが、これも刺激になったのでは?

まさに! です。実際に撮影に入るまで、ドラマにはきっと歌舞伎とは違う台本の読み方があるのだろうと思っていたんです。でも実際は全然変わりなく役の人物の心情を読み解くという点においては同じでした。違うのは出力方法であって、完全に勝手な思い込みでした。それを知ることができたのは非常に勉強になりました。

――いい経験でしたね。

「離見の見」という世阿弥の言葉があるじゃないですか。この言葉のように演じながら俯瞰で自分を見つめることができたら、それは理想です。

ということは頭ではわかっているんですが、それってどういう感覚なんだろうというのが正直な思いでした。ところがドラマの撮影でそれをちょっと感じることができた気がします。

――スタジオの全景が見えてその中に自分がいるのを見るような?

はい。ほんの一瞬なんですけど、自分を俯瞰で見ているような感覚が得られたんです。ドラマって撮影直後にその映像をモニターでチェックできるので、時間差があまりない状況で自分の姿を見たことが脳内で結びついたのか、理由はわかりませんが。

――本番までにはテストもありますし、シーンごとに短く区切っての撮影は、舞台とは大きく異なりますものね。

自分が出ている舞台を生で観ることは不可能ですし、一度幕が開いたら芝居は続きますから、映像を撮ったとしても幕が降りるまで観られません。その違いはあると思います。本当に一瞬ではあったのですか突破口を見つけられたことで少し気持ちがラクになりました。まったく無の状態とでは大きな違いですから。

大好きなBTSの新しい“発見”も

ジャケット¥220,000、パンツ¥61,600/ソウシオオツキ(エムエイティティ info@the-matt.com) その他/スタイリスト私物

――最近プライベートでは、何か新たな“気づき”はありましたか?

ずっと好きなアーティストであるBTSさんが再始動したのは非常にうれしいことで、曲に関して気づいたことがあります。以前は自分が曲を好きになる理由はメロディーとかリズムが主で、歌詞はあまり注視していなかったんです。韓国語の部分がよくわからないということもあって。でも歌詞を改めて読んでみたら、さらに好きになりました。

――こういう歌詞だったのか! という驚きでしょうか?

なんとなく聴きたいなと思っていた理想のメッセージがあって、確かめたら本当にそんな歌詞だった! という感じです。

――理屈を超えたセンスはきっとお祖父さまから受け継いでいるのではないでしょうか。

どんなに頑張ったところで祖父の足元にも及びませんが、『もののけ姫』という素晴らしいストーリーにスピード、スペクタクルの3Sを落とし込み、「スーパー歌舞伎」でしかできない『もののけ姫』となるよう、自分に出来ることを積み重ねて、少しでも作品のプラスとなれるよう努めたいです。

市川團子(いちかわ・だんこ)

歌舞伎俳優。2004年1月16日生まれ。市川中車の長男。12年6・7月新橋演舞場『ヤマトタケル』ワカタケルで五代目市川團子を名のり初舞台。立役を中心に活躍の場を広げている。スーパー歌舞伎『ヤマトタケル』のヤマトタケル、『義経千本桜』の狐忠信など、祖父である二代目市川猿翁(=三代目猿之助)ゆかりの大役で成果をあげている一方、『天守物語』『火の鳥』など坂東玉三郎演出の作品で新境地を開拓。市川染五郎と踊った『蝶の道行』などでは可憐な女方も披露。屋号は澤瀉屋。

※澤瀉屋の瀉は正しくはワカンムリ

文=清水まり
撮影=深野未季
スタイリスト=中西ナオ
ヘア&メイク=森智聖

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