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純度100%ピカソを、ポール・スミスの空間設計で。『ピカソ meets ポール・スミス 遊び心の冒険へ』

  • 2026.6.23

「ポール・スミスが、美術展をデザインしたら?」 その夢のような問いに、リアルで答えが出た。国立新美術館で開幕した『ピカソ meets ポール・スミス 遊び心の冒険へ』は、パブロ・ピカソ(1881〜1973年)の作品約80点を、あの英国人デザイナーが手がけた空間でめぐる、前代未聞の展覧会。絵画を「見る」だけでなく、ふたりの天才の感性に「包まれる」体験がここにある。

『ピカソ meets ポール・スミス 遊び心の冒険へ』(国立新美術館、2026年)より、セクション07「子ども時代」展示室風景

ピカソとポール・スミス、夢のコラボが始まった!

『ピカソ meets ポール・スミス 遊び心の冒険へ』(国立新美術館、2026年)より、セクション01「ヴォーグ(流行)中の芸術家」展示室風景

「青の憂鬱」「ストライプ」「展覧会のピカソ」など、16のテーマからピカソの画業をゆるやかにたどる本展。章ごとに仕切られた部屋の一つひとつを、ピカソ作品からインスピレーションを得たポール・スミスがまったく異なるコンセプトでレイアウトしている。出品作のほとんどが、世界屈指のピカソ・コレクションを誇るパリ国立ピカソ美術館からの作品だ。「純度100%のピカソ展」と呼んでいい。

雑誌『ヴォーグ』の表紙が壁一面に敷き詰められた部屋では、ピカソが『ヴォーグ・ パリ』のページにデッサンを施した作品を紹介。華やかなウェディングドレスを纏う女性へ襲いかかるような生き物を描いたり、花の匂いを嗅ぐモデルに線を加えて拳銃を持たせるなど、通俗的な写真の数々が、グロテスクで不穏なイメージへと転化している。ピカソによるデッサンを通じた再解釈ともいうべき手業がおもしろい。

部屋をまたぐたびに、ピカソは違う顔を見せる

『ピカソ meets ポール・スミス 遊び心の冒険へ』(国立新美術館、2026年)より、セクション03「バラ色の女性たち『アヴィニョンの娘たち』への前奏曲」展示室風景

『ヴォーグ』の部屋を抜けると、一転して暗がりの空間が現れ、青の時代の名作『男の肖像』が展示されている。天井は低く、床には深い青みがかった絨毯が足元を覆い、作品が醸し出すメランコリックな雰囲気にじわりと沈んでいくような感覚が得られる。しかし次の部屋に足を踏み入れると、今度はピンク色に染まった空間が広がり、『アヴィニョンの娘たち』のための習作などが並ぶ。

『ピカソ meets ポール・スミス 遊び心の冒険へ』(国立新美術館、2026年)より、セクション05「アッサンブラージュとコラージュ」展示室風景

『パイプを持った男』など、コラージュの技法を取り込んだ作品にも目を向けたい。ピカソやキュビスムの芸術家たちは、新聞紙や壁紙といった日用品を画面に取り込むことで、「芸術は現実を模倣するもの」といった従来の枠組みに真っ向から挑んでいった。そしてこの部屋では、ピカソがコラージュの素材にしたような草花などのカラフルな壁紙が広がり、会場のなかでもひときわ華やいだ空間になっている。

子どもからストライプへ。作品と空間の境界が、ここでは溶けていく

『ピカソ meets ポール・スミス 遊び心の冒険へ』(国立新美術館、2026年)より、セクション09「ストライプ」展示室風景

子ども時代を創作の核心に据えていたピカソは、生涯にわたって子どもを描き続けた。『アルルカンに扮したパウロ』は、自らを重ねるように関心を寄せていた道化師アルルカンをモチーフにした一枚。両手を組み肘掛け椅子に腰かけ、じっと前を見つめる息子パウロの姿を捉えている。水色と黄色の菱形が連なる衣装と同じパターンが壁紙にも用いられ、作品の世界がそのまま空間へと滲み出す。

「ファッションデザイナーになってからずっと、花柄とストライプはメインのデザインとして使っている」とポール・スミスは語る。ピカソもまた1930年代にストライプ模様を実験的に取り入れ、愛する女性たちの肖像を描いていった。柔らかな曲線とパステル調の色彩でマリー=テレーズ・ワルテルを描いた『読書』にも、鮮やかな黄色のストライプが登場。同じストライプの壁に囲まれた部屋と響き合っている。

陶芸家ピカソと、あのボーダーシャツの原点とは?

『ピカソ meets ポール・スミス 遊び心の冒険へ』(国立新美術館、2026年)より、セクション11「一点もの」展示室風景

たくさんの白い皿が並ぶ部屋に展示された作品とは…? 1940年代後半、南仏のヴァロリスに定住したピカソが、マドゥラ工房の熟練職人たちと協力しながら制作した陶芸だ。水差しや皿に女神、鳥、動物いった意匠をユーモアたっぷりに描き込み、数千点にも及ぶ作品を生み出した。イワシ、音楽家、騎士の槍試合を描いたものを目にすると、題材の豊かさと自由さに、ピカソの飽くなき好奇心が感じられる。

『ピカソ meets ポール・スミス 遊び心の冒険へ』(国立新美術館、2026年)より、セクション13「ピカソのボーダーシャツ」展示室風景

ボーダーシャツ姿の白髪の男性。そんなピカソのイメージが広く定着したのは、テレビが登場した第二次世界大戦後のこと。そのイメージを決定づけたのが、写真家ロベール・ドアノーによるポートレート。南仏で陶芸に熱中していたころのピカソを捉えた一枚で、以来ボーダーシャツはピカソのトレードマークとなった。そのボーダーシャツが天井から吊り下げられた部屋もあり、思わず見上げてしまう。

壁一面のポスターから、ピカソの熱量に圧倒される

『ピカソ meets ポール・スミス 遊び心の冒険へ』(国立新美術館、2026年)より、セクション15「展覧会のピカソ」展示室風景

ピカソは生前、数百にも及ぶ個展を開くと、その都度に作品を告知するポスターが街路に掲げられ、大勢の人々が彼の創作に親しんでいった。記録されているだけでも400以上にものぼる展覧会ポスターのうち、多くはデッサンや版画といったグラフィック作品を掲載している。展示のラストでは無数のポスターが一枚一枚、壁に貼り重ねられ、圧倒的な熱量が押し寄せてくる。

『ピカソ meets ポール・スミス 遊び心の冒険へ』(国立新美術館、2026年)より、セクション14「晩年:1969—1972」展示室風景

「ピカソから好奇心の大切さと、常に新しいアイデアや表現を持ち続けることを学んだ。またそれは自分自身のやり方とも重なる」と語り、「ピカソのように多面的で、常に違う視点を持つことが大切」とするポール・スミス。そして彼がクリエーションの理念として掲げる「ツイスト(ひねり)のあるクラシック」が、レイアウトにも反映されているという。ピカソを知っている人も、初めての人も、今まで見たことのないピカソ展へ、会いに行かない理由はもうない。

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