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刺激的な切り取り動画ばかりが伸びるSNSへの違和感。市川市動植物園・安永崇課長が手作り企画で挑んだ「温かな交流」

  • 2026.6.17
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「世界一有名なサル山」と言われることもあるほど、大きなブームを巻き起こした市川市動植物園(千葉県)のパンチくん。その火付け役となったのは市川市動植物園の公式Xでの発信でしたが、ネットの世界はときにネガティブな噂が一人歩きすることもあります。衝撃的な切り取り動画の拡散という苦い経験を経て、安永崇課長が自ら仕掛けた「GWのQ&A企画」の真意、そして「毎朝ワクワクする」と語る、その強靭なマインドの源泉を紐解きます。

刺激的な「攻撃動画」ばかりが伸びるSNSへの違和感

文字だけのやり取りによって負の感情が増幅しやすいSNSの社会。特に最近は、匿名性の高い空間で口汚い言葉が飛び交う現状に、安永課長は違和感を抱いていたといいます。

思い出されるのは、パンチくんの動画を巡るネットの騒動。今年2月、SNSで一気に人気に火が付いたパンチくんですが、直後、サル山でほかのサルから攻撃される動画がアップされると、ワンシーンだけを切り取った動画が世界中に拡散されました。

衝撃的な動画に世界中から不安や批判の声が起こり、市川市動植物園にも連日たくさんの問い合わせが殺到する事態となりました。当時の混乱や、ネット上で特定の動画ばかりが注目される現象について、安永課長は冷静に分析します。

安永課長:「2月の動画をめぐる騒ぎでは、園として素早く『声明』の形で発信することができ、多くの方に安心感を届けることができましたが、その後も幾度となく同様の動画が拡散し、対応することが続いています。ネット上に溢れるパンチの動画を見ていて思うのは、ほかの個体と仲良くしている動画よりも、なぜか『いじめられている、攻撃されている』という負の動画の方が、圧倒的に再生数が伸びるんですよね。ただ、それは悪意に満ちたものではないと思います。投稿している人たちは別に園の評判を落とそうとして切り取っているわけではない。パンチに関する普通の動画もアップしていたりするんですが、刺激的なものに限って再生が伸びて拡散されていきます」

悪意のない投稿であっても、ネガティブな情報ほど瞬く間に拡散されてしまう歪んだ現状。その理由について、現代のネットならではの仕組みがあると安永課長は指摘します。

安永課長:「私を含め、どうしても人は刺激的な動画を見てしまいます。そしてSNSを運営する側も、それを分かっていて、刺激的な動画をAIやアルゴリズムで選別し、人々のスマホに表示させようとする。そうやって作り出される『負の共感の拡散』には、本当に気をつけないといけない。SNSに飲み込まれてはいけないと常に感じています」

殺伐としたネットだからこそ。GWのQ&A企画に込めた「温かなSNS」

殺伐としたネットの仕組みに飲み込まれないために、安永課長が自ら仕掛けたのが、今年のゴールデンウィーク中に実施された「Q&A企画」でした。

毎朝一番に質問を募集し、リプライ欄をじっくり眺めて安永課長自らが質問を選定。現場の飼育員たちに「これってどうなの?」と取材に行って回答を作るという、「中の人」の温かい手作り企画は、フォロワーからも好評でした。

実はこの企画、「パンチくんに関する質問」は最初の1回だけで、それ以降はあえて取り上げられていませんでした。そこには安永課長なりの深い意図があったといいます。

安永課長:「パンチだけじゃない、動植物園のいろんな魅力に気づいていただくきっかけにしたかったんです。『レッサーパンダはタケノコを食べるのか?』『当園では与えていません』といった、動物園の中の様々なストーリーをお伝えしたかったのです。今はこうした質問はAIが簡単に答えを出してくれる時代ですが、あえて『中の人』や飼育員が質問に答える形式を通じて、人間同士のコミュニケーションツールとして、SNSをちゃんと使いこなしたかったという思いがありました。インターネット黎明期の交流を思い出します」

人と人が顔を合わせて行う会話ならなんということもない言葉でも、SNSで文字になると、途端に殺伐として険悪な空気になってしまう現象に強い問題意識を持っていた安永課長。だからこそ、このQ&A企画を通じて、「SNSを楽しくて温かい交流のために使おう」という形を、自ら現場の声を巻き込みながら実践したかったのだと振り返ります。

休みなしでも毎朝ワクワク。「パンチを守り、飼育員を守る」という気概

ただでさえ忙しい市川市動植物園のトップである安永課長。パンチくんが話題になってからはあまり休みを取れていないそうです。趣味の美味しいお店巡りやジム通いも、現在はすべてお預け。

それでも、安永課長がここまで全力投球するのには理由がありました。

安永課長:「美味しいお店は市内にいっぱいあっていつでも行けますが、いまはパンチが群れ入れの真っ最中ですからね。群れ入れは予断を許しませんし、世界が注目しています。なので本当に責任感を持って、パンチを守り、飼育員を守り、市川市を守りたい。そういう気概でやっていますよ」

連日押し寄せる課題を前にしても、安永課長の言葉から悲壮感を感じることはありません。その底知れぬエネルギーの源には、大変な局面すらもエネルギーにしてしまう仕事への情熱があるようです。

安永課長:「仕事は楽しいですよ、嫌だとか辛いと思ったことは一度もありません。日々、目の前に様々な困難や課題が立ちはだかりますが、むしろワクワクして立ち向かっています。そう思わないとやってられないっていうのもありますけどね(笑)」

ライターコメント

ネットの拡散力というメリットの裏にある、過激なシーンだけが切り取られてしまう怖さ。それに対する安永課長の冷静な分析や、あえてパンチくん以外の日常に光を当てたQ&A企画のお話は、SNSとの付き合い方を深く考えさせられるものでした。ネットの負の側面に飲み込まれず、ユーモアと温かさを持って発信を続ける園の姿勢があるからこそ、市川市動植物園のSNSには多くの人が惹きつけられ、何度も園に足を運びたくなるのでしょう。

<ライタープロフィル>ゆんち

2004年に産経新聞社へ入社。静岡、仙台での事件取材を経て、東京社会部では厚生労働省を担当、派遣労働問題などの社会課題を深く掘り下げる。また、特異なキャリアとして法廷画家を兼務し、数多くの法廷画を手掛けてきた。その後、産経新聞社が発行していたタブロイド紙「SANKEI EX」にてブランド、旅、食をテーマとした執筆活動を展開。南アフリカやオーストラリアなど世界各国を取材で巡るほか、臨時特派員として南太平洋のキリバス共和国への駐在経験も持つ。J-WAVE「TOKYO MORNING RADIO」にて、週1回おすすめニュースを3年間にわたり担当。

現在は2児の母となり、これまでの取材経験に加え、教育、健康、ライフハックへと関心の幅を広げている。「趣味を仕事に!」をモットーとする自称「脱力系ライター」。釣り、温泉、グルメ、そして海を眺めてぼーっと過ごす時間を愛する旅人でもある。長年、酒と旅と釣りを友としてきたが、現在は期間限定で禁酒中。新商品から旅、ファッション、グルメまで、自身のアンテナに触れたトピックを独自の視点で発信している。

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