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【藤森照信×重松象平 対談】生まれ変わった江戸東京博物館、新感覚の博物館体験とは?

  • 2026.5.28
MARIKO YASAKA

1993年の開館以来、東京・両国のランドマークとして知られる江戸東京博物館。ポストモダン建築の旗手、菊竹清訓が設計を手掛けたダイナミックな柱に支えられて建つ建築や広大なピロティなど、ヒューマンスケールを越えた空間体験で多くの人々に愛されてきた。建物の大規模改修を理由に、約4年の休館を経てリニューアルオープンを果たした同館は、連日多くの来場者が訪れている。この名作建築を生かしながら、どのように博物館をアップデートしたのか。建築史家であり同館の館長を務める藤森照信と、今回の改修に伴う館内外の空間デザインを担当した建築設計集団OMAのパートナー、重松象平の対談を通してひも解く。

江戸東京博物館

重松象平は、世界的な建築設計集団OMAのパートナーおよびニューヨーク事務所代表を務め、世界中でビッグプロジェクトを手掛ける気鋭の建築家だ。日本では多くの話題を集めた「クリスチャン・ディオール、 夢のクチュリエ」展の日本展(東京都現代美術館)における空間構成や、原宿に誕生した新しい商業施設「原宿クエスト」の設計も手掛けた。今回、菊竹の名建築のリニューアルという大いなるお題に対し、どのようなコンセプトを考えたのか。

重松:
まずこの建物自体が唯一無二の建築だと思うんです。これだけの大きなピロティを持っている公共的な建物というのは、世界を見てもほかにないと思います。建築的には素晴らしいものがすでにそこにあるので、それをさらに生かすような仕掛けをつくれないかなという観点で、携わらせていただきました。

リニューアルした常設展示室は吹き抜け空間を生かし、巨大な3面スクリーンを設置。そこに時間とともに移り変わる空や浮世絵の映像を投影する。さらに3階 江戸東京ひろばの広大なピロティ天井には館内のアクティビティや所蔵品を外に向けて映し出すなど、建築自体に手を加えるのではなく、デジタルと空間の再解釈による新たな表現を導き出した。

〈写真〉リニューアルした館内。常設展示では明治時代の銀座のシンボル的建物である「服部時計店」を高さ26メートルの原寸大模型として再現するなど、史実に基づいた実寸模型が新設された。

MARIKO YASAKA

──今回のプロジェクトで重松さんが参加されることになったきっかけを教えてください。

重松:
江戸東京博物館が改修を進める中で、私が展示構成を担当した「クリスチャン・ディオール、 夢のクチュリエ」展を東京都知事がご覧になられたのがきっかけです。建築の改修ではなく“魅力向上”という新たな枠を担ってもらえないかとオファーがありました。フィジカルな面は改装が既に進んでいたのでできなかったという背景もあるのですが、今思うと私は逆にその限定的な枠組みがよかったと思っています。

藤森:この建物にね、フィジカルなことをやっても、変になるだけですよ(笑)。

重松:私もたぶん、建築家としてお声がけいただいていたら、何か、手を加えていたんじゃないかなと思うんです。建築家とはそういうものです。でも今回の依頼は“魅力向上”というもので、来場者が楽しめる体験みたいなものを作ってほしいっていうお願いだったので、逆に建築以外でできることを考えられました。

藤森:それと、私も実は気付かなかったことなんですが、この建物は建築基準法上、もう満杯なんです

──満杯というのはどういうことでしょうか?

藤森:建築基準法でつくれる床面積、めいっぱいに建物が造られてしまってるんです。

重松:
新たに床を足すなどは、できない状況だったのです。加えて、美術館、博物館っていうタイポロジーは、展示品の保護の観点から光をコントロールしないといけないので、どうしても閉じてしまいがちです。これだけ都市を広場に引き込むようなジェスチャーをしてる建物なんですが、どうしてもその中にある素晴らしい所蔵品であったり、アクティビティが伝わりにくい。なので、何かをつけ加えるのではなく、今ある建築の魅力をゲストに認識してもらって、そのポテンシャルが五感に伝わる体験を創出できないか、と考えました。

──いま対談している常設展示室の天井付近には3面に渡って映像が映し出されていますが、これもそこから思い浮かんだものですか?

重松:これはどちらかというと、藤森館長とお話ししてるときに、この大空間をもっと生かせないかっていうお話をいただいて考え付いたものです。藤森さんが『たとえば空があったらいいよね』と、そのときおっしゃられたんです。

藤森:リニューアル前の建物の天井は、鉄骨や設備が露出していてとても暗かったんです。それが当時よく見られた作りなんですが、この大空間の抜けが生かせていないと思ってました。今回明るくして幕を垂らし、そこに時間によっていろいろな映像が映し出されるようになりました。

重松:ゆっくり時間をかけて過ごしてもらいたい場所なので、日の出や日の入り、夜空など時間ごとに異なるコンテンツを用意しています。展示物が主役ではあるのですが、空間自体も引き立つし建物全体が使われているような感覚が出せていると思います。

〈写真〉プロジェクトを振り返る館長の藤森照信(左)と建築家の重松象平(右)。

東京都江戸東京博物館

藤森:また、ピロティ(3階 江戸東京ひろば)の天井に映像を映すというアイデアには驚きました。

重松:やはりあのピロティ空間が、この建築の要ですし、とても都市的な空間で、あの場所の体験はおそらく唯一無二だと思うんです。両国の駅からも見えますし、実は色々なところからこの天井面が見えるのが歩いていてわかりました。そこで、あの天井がキャンバスとして使われていたら、この博物館の収蔵品のすばらしさや建築的な特徴がもっと理解していただけるんじゃないか、と思ったんです。

──藤森さんは93年のオープン時にも一部の展示の監修をされていらっしゃいますよね。当時印象的だったことはありますか?

藤森:オープンの2年前くらいにお声がけいただいて、明治時代の建築のエリアを担当しました。ただ、オープンしたときの記憶があんまりないんですよね。唯一あるのが、鹿鳴館の上にあるガラスの廊下。当時訪れていた中学生が、『ガラスの下の模型を見ながら走ると、空を飛ぶようだ』って言うから、自分もやってみたら、本当に飛んでいるみたいでした。

重松:当時はこのようなメガストラクチャーは、受け入れられてたんでしょうか? 内部に柱のない大架構空間はダイナミックである一方、今では、少し非人間的だという批判を受けかねないと思うのですが。

藤森:
それはなかったですね。やはり高度成長の絶頂期ですから、逆に力の象徴というような部分が重要だったように感じます。

〈写真〉3階にある「江戸東京ひろば」の天井を使った大規模な映像投影。収蔵品をテーマにしたものや、日本の四季を文様と色で表現した映像が土曜日の夜間開館時や特別なイベント時に上映される。(※詳細は公式ウェブサイトで確認を)

MARIKO YASAKA

──ピロティへと続く階段のボリュームも力の象徴の一つだったのでしょうか?

重松:あの階段が面白いのは、入り口へ続く階段なのではなく、その横にある通路が入り口なんですよね。我々もリニューアルの際に、あの小さな隙間が横にある大きな階段よりも視認性として勝たなくてはいけないと思い、新たに赤いモニュメントを設計しました。

藤森:
ピロティが、災害時には地域の避難場所としての機能を果たせるようああいった設計になっているようです。しかし、重松さんが見事に変えてくれましたね。私は実はあのモニュメントに映像が映し出されるというのが、少し心配したんです。

──どうして心配だったのですか?


藤森:モニュメントそれぞれに人が歩いていく映像が流れるようになっているんですが、ああいうものは見たことがなかった。大画面に人が歩くものは見たことがあるのですが、鳥居(のような造作)ごとに飛び飛びに映像が流れても見応えがあるだろうか、と。でも歩いてみたらすごく面白かった。

重松:入館できる時間帯は、外から建物内に流れていく人が多くなっていて、逆に閉館時間が近づくと、外から出ていく人の流れが主になったり。ほかに隠れキャラも登場します。デジタルというのは簡単そうに見えて、コンテンツが良くないと、すごく陳腐なものになってしまうので、何度も入念に打ち合わせを行いました。

藤森:
横だけではなく、上にも映像が流れているでしょう? あれが効いている気がする。飛行機が飛んでいたり月が出たり、見てるとつい止まってしまうんです。入り口だからあんまり止まらないほうがいいんだろうけど(笑)。

重松:あの形は、菊竹さんが手掛けた竣工時にもともとあったゲートから着想しています。一つだけですが、鳥居をインスピレーション源にしたようなデザインのゲートが資料に残っていました。そのアーカイブを見て、タイムトンネルのように東京から江戸にタイムスリップするイメージでモニュメントを考えました。

〈写真〉建物外観。左手にある赤いモニュメントが博物館の入り口。

MARIKO YASAKA

──重松さんはこの建物と並行して、原宿に新たに誕生した「原宿クエスト」の設計も手掛けられています。同じ東京とはいえ性格が全く異なるエリアですが、設計の上で共通している部分はありますか?

重松:建築が都市の一部であるということを意識してデザインした、ということに関しては非常に似ていると思いますね。江戸東京博物館もピロティのある広場など都市を引き込む要素があり、そこで何ができるかを考えました。「原宿クエスト」は表参道に面して立っているのですが、表参道はもともとは明治神宮の参道ですよね。でも今はハイブランドをはじめとする大きなグローバル会社の顔となるショップがたくさん並んでいる。一方で、実際に世界に誇る原宿のストリートカルチャーは、もっとごちゃごちゃした、裏原宿・奥原宿にあるという二面性がある。表参道に面したファサードと、裏の奥原宿へつながるパサージュ(路地)を建物内に通すことでその二面性を表現したのが、あの建築なんです。都市の文脈を建築単体にどう引き込むかという意味で、思考は共通しています。

藤森:なるほど。僕はね、建築史家の視点で重松さんの仕事を見ると、重松さんは『面によってものをつくる名人』だなと思うんですよ。

重松:嬉しいです。これ、ぜひヘッドラインでお願いします(笑)。

藤森:歴史的に見て、20世紀のモダン建築というのは、その前にあった古い様式建築を打ち破って登場するわけですが、そのときに大きな力となったのが、面と線で空間を造るということなんです。それは建築家・美術家であり、オランダで起きた芸術運動『デ・ステイル』の創始者でもある、テオ・ファン・ドゥースブルフが最初に彫刻的なアプローチで面と線を生かした構成を思いつき、バウハウスのグロピウスに伝えたことが現代建築の元になっています。面の構成(コンポジション)の系譜です。雑誌などで重松さんの作品を見て、こういうオランダ的な構成を鮮やかにやる人がいるんだ、と思っていたんですよ」

〈写真〉モニュメントには江戸~現代までさまざまな服装の人々が街を歩く映像が流れる。

MARIKO YASAKA

──最後に、訪れた人にぜひ見てほしいディテールがあれば教えてください。

藤森:私はこの日本橋を渡った先にあるエリアでしょうか。薄い布が何層にも重なっていて、布の先に展示が続いていると思えないでしょう? 博物館ではあまりない展示方法です。現代アートのようでもあり、そもそも向こうに何かあるとも、思わないかもしれない。だけど入ってくと、わぁっと展示が広がっている。あのシークエンスはぜひ体感してほしい。

重松:私はやはり建物全体を自然体で体感してほしいと思います。“歴史を見る”と考えると、どうしてもハードルが高くなる気がするんです。そうではなく普通の街並みを体感するように、江戸が東京とシームレスに繋がっているような感覚で楽しんでもらえたら嬉しいですね。

〈写真〉「日本橋」の先にある常設展示を眺める。白い布は、江戸時代の町人文化にみられるのれんをイメージしており、のれんの先に江戸の街並みの模型や展示が続く。


東京都江戸東京博物館

東京都墨田区横網1-4-1


Norio Kidera

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Nakajima Mitsuyuki
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