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働き方を整え、土地の恵みを仕事へつなぐ。菓子研究家・長田佳子さんの自分らしく働くための、3つのルール。

  • 2026.5.27

さまざまな分野で活躍する人の働く姿勢や生き方を尋ねた&Premium151号(2026年7月号)「仕事と生き方」より、菓子研究家・長田佳子さんの自分らしく働くための、3つのルールを紹介します。

菓子研究家・長田佳子さんのミモザケーキ。庭で育てた無農薬ハーブを取り入れ、環境や体に優しい素材で菓子づくりを手がける。採取したカモミールをブレンドしたお茶と。
〈foodremedies〉で活動して11年、山梨に移住して5年の長田さん。果樹栽培が盛んな土地で生活と制作が地続きになり、小さな循環が日常の中に組み込まれたという。
Kako Osada's Rules

1. 自然を身近に感じられる暮らしをする。
2. 築いてきたものからあえて離れてみる。
3. 試行錯誤を重ねることを大切にする。

自然のリズムに寄り添い、見つけた自分らしい菓子づくり。

〈foodremedies(フードレメディーズ)〉は菓子研究家・長田佳子さんが自身の活動を表すために生み出した言葉だ。〝remedies=癒やし・療法〞という意味の通り、手がける菓子には単なる甘味を超えた効能のようなものが宿っている。ハーブを取り入れ、素材本来の甘さを引き出すことで、砂糖に頼りすぎない味わいに仕立てる。口にしたときに広がるのは「おいしい」だけでなく、どこか体がほどけるような感覚だ。そんな長田さんが菓子の道に進もうと考えたのは大人になってから。

「最初は手に職をつけたいという思いがありました。そのとき浮かんだのがお菓子の世界。食べることよりも作ることが好きで、自分が作ったもので喜んでもらえるのが嬉しくて。すぐに現場で学びたくて、都内のフランス菓子店へ販売員として入りました」

未経験からのスタートだったが、自作の菓子をパティシエに見せては助言をもらう日々を重ね、約半年後には製造へ。その後は菓子店、カフェ、製菓工場など異なる現場を約2年ごとに渡り歩きながら、技術と経験を積み上げていく。しかし同時に理想と現実のギャップにも直面した。技術の未熟さへの焦り、素材への違和感、長時間労働や寒冷な環境、それらが重なり、体調を崩してしまう。転機となったのは、友人と立ち上げた菓子店での試みだった。モロヘイヤや黒糖、胡麻といった食材を取り入れた焼き菓子を中心に、ヴィーガンや和の要素も掛け合わせる。既存の枠にとらわれない菓子づくりを模索するうちに「素材をどう生かすか」という視点が明確な軸になっていく。そんな折、東日本大震災が発生。食の安全性への不安が広がるなかで、店は解散という決断に。その後、アパレルブランド〈YAECA〉の飲食部門での経験を経て、2015年に独立した。

「そのとき初めて、自分で食べたいお菓子は何だろうと考えました。ちょうどハーブを学んでいた時期でもあって、効能や香り、体を〝整える〞という感覚をお菓子に取り入れたら、自分も楽しいかもしれないと思いました」

減農薬栽培をする桃農家の原田弓大さんの畑で。「自然のことを教えてもらったり、不用な桃をいただいたり」と長田さん。原田さんも「味は変わらないので、活用してもらえるのは嬉しい。すぐに取りに来てもらえる距離感だから成立しています」
柔らかい光が差し込むアトリエのキッチン。ここで日々試作を繰り返す。
「大きなスワッグは〈緑の居場所デザイン〉の市村美佳子さんに作ってもらったもの」
使えなくなったクロスで作ったカトラリー入れ。友人が刺繍を入れてくれた。

当時はまだ自らハーブを育ててはいなかったが、どんな組み合わせが印象に残り、余韻を深めるのかを探りながら試作を重ねていった。やがて関心は素材の背景へと向かっていく。「使いたい素材は生産者に会いに行く」と小麦や卵、ハーブの生産地を訪ね、作り手の話を聞くなかで、生活に宿る知恵やたくましさに強く惹かれていった。

「何よりも生きていく力が全然違うなと感じて。羨ましい気持ちもあって、自分も環境に根ざしてものづくりをしたい、自然の近くで季節を感じながら暮らしたいと思うようになりました」

移住先に選んだのは山梨・塩山。東京から通える場所で比較的温暖な土地と運命的に出合い、拠点を移した。

「まず始めたのは畑作業。ハーブや野菜を育てて、それをお菓子に使う。廃棄はせず、コンポストにして土に還す。ずっとやりたかったことが実現できた、という喜びがありました」

現在の菓子づくりで大切にしているのは、食材をまるごと使い切ること。できる限り、その可能性を引き出したいと考えている。たとえば、見た目の問題で市場に出ない〝規格外〞の果実。あるとき、生産者から相談を受け、状態の良いレモンを約50㎏引き取った。果汁や皮は菓子に、搾りかすは精油に、蒸留水までも香りづけに使う。「使い切る」という前提が、結果としてフードロスへの意識とも結びついていった。自然の中で暮らすことで、季節に従う感覚も体に根づいてきた。

「収穫のタイミングや天候、突然届く果実に最初は振り回されることもありました。でも年が経つにつれ、自分の動き方が見えてきて、季節に合わせて仕事を組み立てられるようになりました。ようやく自分の中に新しいカレンダーができた、そんな感じです」

自分らしく働くための意識も環境の変化とともに更新されていった。

「都会の中心から少し距離を置いて暮らすことで、より大きな自然との向き合い方を探るようになりました。日々移ろう自然環境の中で、今は目の前のことを見逃さないようにするのに精一杯。でも、そのことが自分の内面にも意識を向ける時間になり、以前よりも軽やかに生きられている気がします」

考えるより先に体が動くー本人もそう語る通り、目的のためには環境ごと刷新することもためらわない。

「これまで築いてきたものを一度そこに置き、あえて離れてみる。そのくらいの行動が私には必要でした。片手間ではできず、何かを身につけるのに人より時間がかかると感じているから」

環境を変えたことで苦労もあったが、その分、自然が身近にある暮らしや自分を見つめ直す貴重な時間を手に入れた。ときには考えすぎずに動いてみる。その試行錯誤の積み重ねが次の一歩を支えてくれる、と教えてくれた。

ミモザに見えるのは細かくしたスポンジ。たっぷりまぶす。
自身が栽培、採取したカモミールをブレンドし、菓子に入れたり、お茶にしたり。
アトリエは企画展などのスペースとしても使用。
「おいしさ」と「癒やし」を同時に成立させるレシピ集。左は新刊。今後は海外で学ぶことも視野に入れている。
カスタードクリームを添えて。オレンジピールの入った優しい甘さ。
元ワイン貯蔵庫だったアトリエ。果物の保管場所としても活用。

HISTORY

長田 佳子菓子研究家

体に負担の少ない菓子を探究し、2015年に〈foodremedies〉を設立。2021年より山梨に拠点を移し、教室運営や素材を生かした商品開発に取り組む。東京でも月に数回教室を開催。近著に『Lille Foodremedies 小さくはじめる日々のお菓子』(青幻舎)。

photo : Akiko Baba edit & text : Chizuru Atsuta

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