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「普通残るでしょ」上司より先に退勤して責められた女性。“普通”を押し付ける職場にSNS賛否【キミのため文庫】

  • 2026.5.23

自分が"普通"かどうか、気にしたことはありますか?長くアルバイトとして働くこと、定時に帰ること、恋人がいないことなど、誰かに「普通じゃない」と言われた経験を持つ人は少なくないはずです。

ショートドラマで本との出会いを届けている「キミのため文庫」の『私には普通が分からない』は、"他者の価値観を押しつけられた女性"をテーマにした作品です。

私には普通が分からない #ショートドラマ

「普通は残るでしょ」定時退社に集まる視線

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@kiminotame_bunko

主人公の黒瀬は、スタートアップ企業でアルバイトとして働く29歳。ある日の定時、帰り支度をした黒瀬に男性上司が声をかけます。

「おい、何帰ろうとしてんの?」

「えっ?」

上司は周囲を見回すようにして、当然のように言います。「まだみんな残ってるんだから、普通は残るでしょ」

「でも定時なので」

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「明日の会議資料、まだ作り終わってないよね? バイトだからって仕事はちゃんとやってもらわないと。なぁ?」

同僚の女性社員も黒瀬を引き止めるように声をかけます。

「黒瀬さん、ただでさえ仕事遅いんですから、一緒に残ってやっていきましょ?」

「すみません、予定あるので」

黒瀬は少し視線を落としながらも、静かに断りました。しかし、上司はさらに言葉を重ねます。「予定って?」

「家事ですけど」黒瀬は一瞬間を置いてから答えます。

その言葉に、上司は笑い、同僚は唖然とした表情を見せるのでした。

「うちはスタートアップなんだから、もっとバリバリやってもらわないと」と上司が続けると、同僚も「そうですよ。それに、上司より先に帰らないって、暗黙の了解ですよ?」と畳みかけます。

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さらに同僚は、仕事の話から黒瀬の働き方や私生活にまで踏み込んでいきます。

「てか黒瀬さんって、いつまでバイトなんですか? 29歳で、確か恋人もいないんでしたっけ?」

「はい」黒瀬は少し言いづらそうに、短く答えます。

「え~かわいそ~。結婚する予定もないのに、正社員になる気もないんですか?」

「最低限のお金がいただければ、それでいいので」

同僚は、まるで助言するような口調で言います。

「黒瀬さん、もうちょっと普通に生きた方がいいですよ」

「私には普通が分からない」黒瀬の心の声

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次々と投げかけられる言葉に、黒瀬は表情を大きく変えないまま立ち尽くします。けれど、その胸の内では、ある問いが静かに膨らんでいました。

(普通ってなんだろう? 私にはずっとそれが分からない。みんな変な物には土足で踏み入って、その原因を解明する権利があると思ってる。人と違うって悪いことなのかな…)

その後、黒瀬は同い年で正社員、既婚者でもある同僚・紙上に声をかけます。自分との違いを確かめるように、淡々と問いかけました。

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「紙上さんって同い年ですけど、正社員ですし結婚してますよね?」

黒瀬は少し考えるように間を置いてから、ぽつりと言いました。

「まぁそうだね」

「じゃあ、ちゃんと人間ですね」

「どういうこと?」

紙上が戸惑うと、黒瀬は少し自虐的に笑いながら続けます。

「私は人間のフリをして生きているんで。それでも普通じゃないらしいですけど」

「普通なんてものは人によって違う」紙上のひと言

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@kiminotame_bunko

戸惑いながらも、紙上は黒瀬にひとつ問いかけます。

「黒瀬さんはさ、コンビニで18年もバイトし続ける人がいたら変だと思う?」

「まぁ、おかしな人だなとは思います」

「おかしいと思う側なんだ。それならやっぱり、黒瀬さんも俺らやみんなと変わんないかもね」

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@kiminotame_bunko

そう言って紙上がスマホの画面を差し出すと、そこには村田沙耶香の『コンビニ人間』の表紙が映し出されていました。

「人ってさ、こちら側とあちら側を無意識に作ってると思うんだ。みんな同じ人間なのにね」

紙上の言葉を聞いても、黒瀬はまだどこか納得できない様子です。

「私は、自分がみんなと同じ生き物だとは思えません。だって、私には普通が分からない」

「同じだよ。黒瀬さんも俺も」紙上は黒瀬をまっすぐに見ながら言います。

「人は自分の受け入れられる範囲のことを普通って呼ぶんだと思う。それがこちら側」

紙上の言葉に小さく首をかしげる黒瀬。「よく分かりません」

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@kiminotame_bunko

「普通なんてものは、人によって違うってこと。だからさ、黒瀬さんの価値観だって、それは立派な普通って呼べるんだよ。俺はこの本を読んで、そう思えるようになった」

そして、黒瀬は小さく口を開きます。

「その本、読んでみます」

紙上はそんな黒瀬を見て、安心したように小さくうなずくのでした。

ラストに黒瀬が選んだ場所

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その後、別の日。黒瀬は上司に向かって頭を下げます。

「すいません、辞めます」

上司や同僚が驚いた表情を見せる中、黒瀬は引き止められても振り返ることなく、そのまま会社を後にしました。外へ出ると、黒瀬は手にしていた『コンビニ人間』へそっと視線を落とします。

「この本のおかげで、やっと分かった。私は、私が普通でいられる場所を求めていたんだ」

「普通」の基準は、誰が決めるのか

視聴者からは上司や同僚の振る舞いに対し、ズケズケと『言葉の暴力』振り回してる」という声があがる一方、黒瀬の選択を受けて「みんな人それぞれ、それでいいと思う」や「この職場が彼女に合って無かっただけでは?」などのコメントも寄せられています。

定時退社も、バイトという働き方も、恋人がいないことも、周囲が「普通じゃない」と断じる場面が続くなかで、紙上の「普通なんてものは人によって違う」というひと言が心に響きます。自分なりの「普通」を探して職場を去った黒瀬の姿は、見ている側にも何かを問いかけてくるような作品でした。

紹介作品

コンテンツ提供協力

ショートドラマで彩る、本との出会い。文庫本を開くような軽やかさで、次の一冊と気軽に出会える場所を。あなたの心に効く傑作が見つかりますように。

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