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映画『鬼の花嫁』で永瀬廉が体現する「俺様ではない魅力」とは。『シンデレラ』的物語へのアンチテーゼも

  • 2026.4.7
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出典:photoAC(※画像はイメージです)

小説を原作とし、コミック版も人気を博した映画『鬼の花嫁』が劇場公開中です。

本作は「あやかし(妖)と人間が共存する世界」を舞台とし、「あやかしから“花嫁”としてみそめられることが“最高の名誉”とされる価値観」がまかり通った中での物語。それらのファンタジー要素に説得力を持たせた衣装や画作りも大きな見どころとなっていました。

『シンデレラ』的な物語を「問い直さなければいけない」という感覚があった

さらには、「家族に虐げられていた女性が、権力を持つ美しい男性に出会い救われる」序盤の流れは、まさに『シンデレラ』そのもの。原作やコミック版は、そのシンデレラストーリーを「女の子の夢」をかなえるかのように、ストレートに届けていた作品でした。もちろん、映画でもその流れは踏襲されているのですが、実際の本編を見ると、その『シンデレラ』的な価値観を決して「全肯定」はしない作品になっていました。実際に池田千尋監督はCINRAに掲載されたインタビューで、以下のようにはっきりと表明されているのです。

「原作には、「王子様が運命的に助けにきてくれる」というシンデレラ的な物語構造がたしかにあるんですね。でも映像としてリアルに表現したときに、普通に生きていた女性のもとにある日突然王子様的な存在が現れて、「あなたはお姫様です、一緒に来てください」と言われたとして、現代の若い女性がそれを素直に嬉しいと受け取れるだろうかということについて考えたんです。
(中略)
それと、シンデレラ的な物語には、女性は守られるものだという固定概念があったと思うんです。それをいまの時代に問い直さなければいけない、という感覚もありました」

「王子様的な存在を、現代の若い女性は素直にうれしいとは受け取れないのではないか」「女性は守られるものだという固定観念は、いまの時代に問い直さなければいけない」という作り手の意志は、吉川愛演じる大学生の東雲柚子、永瀬廉演じる鬼の一族の次期当主・鬼龍院玲夜という、2人の主人公の描き方にはっきりと表れていたと思うのです。内容に触れつつ解説しましょう。

吉川愛が熱演する柚子は、原作よりも「意志を強く表明する」女性に

原作およびコミック版の柚子は、家族から虐げられていることはもとより、高校生であり未成年の子どもだと自覚していることもあって、「自分を肯定してくれる存在」を求めていた、かなり受け身な印象があるキャラクターでした。

例えば、自身を花嫁だと言ってきた玲夜に対して「まだ実感は湧かないが、あんなに美しい人に愛すと言われて舞い上がらないわけがない。なにより柚子が欲しかったものをくれると言うのだ」などと、戸惑いつつも「まんざらでもない」心理もはっきりと描かれていたのです。

(C) 2026「鬼の花嫁」製作委員会
(C) 2026「鬼の花嫁」製作委員会

一方、映画での柚子は大学生になってはいるものの、家族に(原作よりもさらに苛烈に)虐げられている状況からは抜け出そうとはしておらず、やはり受け身な印象もあります。

しかし、玲夜から花嫁だと言われたことに対しては、「玲夜さんのことを何も知らない」「他人に甘えられない」などと、彼の言動を受け入れることをほぼほぼ拒絶していますし、さらに玲夜から「大学なんて無理に行く必要はない」と言われると「なんでそんな勝手に!」と、ほぼ怒りの感情を露わ(あらわ)にしたりするのです。

映画での柚子は、生き地獄のような環境から解放しようとしてくれることには感謝をしつつも、人生の全てをコントロールするような言動にははっきり「No」と言うバランスになっているのです。自分の意志をはっきりと表明する彼女に共感し、心から応援できる人はきっと多いでしょう。

そして、「弱々しく見えるけど実は芯の強い」柚子を、吉川愛はこれ以上はないほどに熱演されていたと思います。先にあげたCINRAの記事では、柚子がひどい仕打ちをする家族から離れられないことも、吉川愛は「(自分を虐げてきた)妹のことも大事に思ってる。家族からどんなひどい仕打ちを受けても、簡単には諦められない」と分析しています。

(C) 2026「鬼の花嫁」製作委員会
(C) 2026「鬼の花嫁」製作委員会

なるほど、吉川愛の言うとおり、「これまでは状況を受け入れてしまっていた」ことさえも、実は柚子の意志の強さの表れであり、そんな彼女だからこそ「玲夜の言動を簡単には受け入れない」のだと納得できたのです。

永瀬廉が演じた「完全無欠ではない」玲夜の魅力

もう1人の主人公である玲夜は、原作およびコミック版ではほぼ「俺様」的なキャラクターでした。例えば、柚子に「黙って抱かれていろ。自分の花嫁を見つけて、これでも浮かれているんだ」と言ってのけたりするのですから。

さらには、現代の価値観からすれば正しいとは思えない「政略結婚」についても「(両親の仲が良かったこともあって)嫌悪感はない」とキッパリと告げていたりもする、「状況を受け入れて自分のために利用する」ような、「ブレない」印象が強いキャラクターだったのです。

(C) 2026「鬼の花嫁」製作委員会
(C) 2026「鬼の花嫁」製作委員会

一方で、映画での玲夜は完全無欠の存在ではまったくなく、花嫁という存在、いや柚子という1人の女性をどう扱うかについて、はっきりと葛藤を抱えています。例えば、精神的に憔悴しきっている柚子と出会い、彼女の身体を寄せた時も「俺の花嫁……?」と、その言葉には疑問符がついているような、彼自身も「これでいいのか?」と戸惑っている印象があるのです。

その他でも、玲夜の態度は柚子の「意志を尊重する」方向へと変わっています。中でも印象的だったのは、柚子が「大学を続けたい。バイト代と奨学金でなんとかする」「自分のことは、できる限り自分でやりたいです」とはっきりと告げた時のことです。

玲夜はここで「花嫁がバイトだなんて、聞いたことがない」と正直に、さらには「生真面目すぎるのも問題だな」と冗談めかした言い方をしつつ、「フッ」と笑っていたりするのです。

原作から大きく変わった、「伏せ目がち」でもある玲夜のキャラクターは、永瀬廉本人が持つ「繊細さ」をしっかり引き出していると思います。

例えば、自身と似た境遇のヒロインを「同志」だと思う『余命一年の僕が、余命半年の君と出会った話。』でも、ギラギラした危うい感情を感じさせた『法廷遊戯』でも、さらには言葉数が少なく不器用な青年役だったアニメ映画『ふれる。』の声の出演でも、「どこか自信がないように思える」「そのことが愛おしいし支えたくなる」役に説得力を持たせる俳優だと思えたからです。

実際に池田千尋監督は、先にあげたCINRAの記事で、永瀬廉を「簡単に人に自分の本当の部分を見せない」「基本的にはすごく繊細」と感じており、「彼が持っている唯一無二とも言える独特な魅力や、永瀬くんが提案してくれるものを取り落さないよう慎重にキャッチしながら、私の考える玲夜像や心の変化を伝えていきました」「そして、それを永瀬くんが具現化してくれる——そういったやり取りを細やかに続けながら役をつくっていきました」と語っています。

(C) 2026「鬼の花嫁」製作委員会
(C) 2026「鬼の花嫁」製作委員会

だからこそ、映画での玲夜は「勝手で何が悪い!そんな判断も責任もずっと一人で背負ってきた。勝手にもなる!」と「勝手な自分を肯定するようで肯定しきれない」、さらには「ごめん、急すぎて支えきれなかった」と「正直に自分の弱さを吐露する」という、やはりまったく「俺様」ではない、永瀬廉というその人が演じたからこそ魅力が際立つキャラクターになっていたと思うのです。

そんな玲夜と柚子が、共に料理の用意をするシーンが大好きでした。玲夜が「えっと、これはまず何をすればいい」と聞いたり、柚子が「あってます」などと答えるなど、「確認しながらの共同作業」が愛おしくて、きっと2人の幸せを願いたくなることでしょう。

「そうなっていたかもしれない」片岡凜と伊藤健太郎の関係

さらに、柚子の妹である花梨(片岡凜)と、妖狐のあやかしである狐月瑶太(伊藤健太郎)というカップルが、原作よりもさらに柚子と玲夜の「写し鏡」であり、「そうなっていたかもしれない」関係のように見えることが印象的でした。

(C) 2026「鬼の花嫁」製作委員会
(C) 2026「鬼の花嫁」製作委員会

例えば、序盤に花梨は「ボブが流行っているから髪型を変えたい」と言うも、瑶太から「長いのが好きだ」と言われたため、「じゃあやめた。瑶太の好きな私が正解だもん」と返しています。そこには葛藤がほぼなく、自分の意志よりも「相手に合わせる」ことを至上としているのです。

一方で、瑶太が花梨を心から愛していることは事実。そして、その支配的なまでの愛情が時に「攻撃」にも転じてしまうことも。

かつ、攻撃的な愛情を盲目的に信じることもまた危うい、ある種の「共依存」的な関係の真理も描かれているのです。

思えば『シンデレラ』は、いじめていた義理の姉たちや義母が(作品によりますが、特にグリム童話版では)ひどい「罰」を受ける物語ではありました。しかし、この映画『鬼の花嫁』で、『シンデレラ』の義理の姉と同じように、自身を精神的にも物理的にも追い詰めていた花梨と瑶太に対して、柚子が最終的にどのような言葉を告げるのか……。

それもまた、本作が『シンデレラ』のアンチテーゼとなった大きな理由だったと思います。

(C) 2026「鬼の花嫁」製作委員会
(C) 2026「鬼の花嫁」製作委員会

何より今回の映画では、劇中の「あやかしから“花嫁”としてみそめられることが“最高の名誉”」という価値観に対し、「それが幸せだと限らない」という柚子自身の意志と、玲夜からの尊重が示されています。

原作のストーリーラインを大きく変えることなく、生身の人間が演じる映画だからこその、そうした「現代的な価値観」に誠実に向き合ったことに感服しました。実写ならではの美しい映像も見どころですし、「『シンデレラ』的な物語って今どきどうなんだろう?」と思っている人こそ、ぜひ映画館で見届けてほしいです。

この記事の執筆者: ヒナタカ
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「マグミクス」「NiEW(ニュー)」など複数のメディアで執筆中。作品の解説や考察、特定のジャンルのまとめ記事を担当。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。

文:ヒナタカ

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