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「若い頃の妻にそっくりでした」新人看護師の私に、80代の患者夫妻が託した『最後の願い』それは

  • 2026.4.7

新年度が始まる4月。
新しい環境に飛び込み、不安や孤独を感じる人も多い季節ではないでしょうか。
筆者も看護師として働き始めたばかりの頃、慣れない土地と仕事に戸惑い、毎日のように泣いて過ごしていた時期がありました。そんな私をいつも気にかけてくれていたのが、入退院を繰り返していた80代の患者さんと、そのご主人でした。
今回は、ある春の日に起きた出来事と、「オレンジのスカート」をきっかけに知ったご夫婦の深い愛情についてご紹介します。

画像: 「若い頃の妻にそっくりでした」新人看護師の私に、80代の患者夫妻が託した『最後の願い』それは

新人看護師だった私を励ましてくれたYさん

私は看護師1年目の頃、実家を離れ県外の病院に就職しました。

慣れない夜勤や仕事、知らない土地での生活。
家に帰ると毎日のように涙が出てしまうほど、心も体も余裕のない日々でした。

そんな私をいつも気にかけてくれていたのが、80代の女性患者・Yさんでした。

Yさんは体調を崩し入退院を繰り返しており、私が働き始めてからすでに何度も病院に来られていました。ご夫婦はとても仲が良く、別の病棟に入院していても、わざわざ私を探して声をかけてくださるほどでした。

あるとき先輩から「あなた、Yさんに似てるわね。親子みたい」と言われたことがきっかけで、Yさんは私を娘のように可愛がってくれるようになりました。

「私で練習しなさい。失敗してもいいから」

そう言っていつも優しく声をかけてくださるYさんのおかげで、私はなんとか新人時代を乗り越えることができたのです。

オレンジのスカートの日

看護師2年目を迎える直前の3月。
Yさんは再び入院してきました。

しかしそのときには、以前のように起き上がることも難しい状態になっていました。

病院という場所では、再会は「病気のとき」です。
会えるのは嬉しいのに、胸が締め付けられるような気持ちになる。そんな複雑な思いを抱えていました。

そして4月のある日。
その日は私の休日で、気分転換に外出することにしました。

オレンジ色のスカートに白いブラウス。
春らしい服装で出かけ、寮へ戻るため病院の前を通って帰宅しました。

それが、思いがけない出来事につながるとは、そのときは思ってもいませんでした。

ご主人が見せてくれた一枚の写真

翌日、先輩から「Yさんのご主人があなたを呼んでいるよ」と声をかけられました。

ナースステーションに行くと、ご主人は写真を大切そうに手に持ちながら、穏やかな笑顔で私を見ていました。

「あなたに聞いてほしい話があるんです」

そう言われ、師長が用意してくれた別室でお話を聞くことになりました。業務の合間の短い時間でしたが、ご主人の真剣な眼差しに、大切な何かがあると感じたのです。

ご主人は、そっと写真を差し出しました。

そこには、若い頃のYさんが写っていました。
まるで女優さんのように美しく、カメラの向こうにいるご主人を愛おしそうに見つめています。

「素敵ですね」と私が言うと、ご主人は静かにこう話しました。

「昨日、あなたの私服姿を見かけました。オレンジのスカートが風に揺れていて……若い頃の妻にそっくりだったんです」

懐かしそうに写真を撫でながら話すご主人の姿に、私は思わず涙があふれました。

もう一度、綺麗な姿で

その後、私はYさんの病室へ向かいました。

「主人に捕まったんでしょう?」
Yさんはそう言って、いつものように笑いました。

ご主人から聞いた話を伝えると、Yさんは静かにこう言いました。

「若い頃、主人に会うときはいつもオレンジのスカートと白いブラウスだったの」
「主人、覚えていてくれたのね」

そう言って、Yさんは涙を流しながら微笑みました。

私は、その姿を見て思いました。

「このご夫婦に、もう一度思い出の時間を作ってほしい」と。

先輩たちに相談すると、「それは大切な看護ね」と協力してくれることになりました。
Yさんの希望は「もう一度、主人の前で綺麗でいたい」ということ。

私は整容ケアを勉強し、負担をかけない程度に髪を整えたり身だしなみを整えたりしました。

そして、Yさんが鏡を見たとき、
「あぁ、綺麗になったね」

とご夫婦は涙を流して喜んでくれました。

4月になると思い出すオレンジのスカート

それから数日後。
Yさんは静かに天国へ旅立たれました。

その日は、私が夜勤に入っていた日でした。

「ありがとうね」

最後にそう言葉を残してくれました。

私はご主人と一緒に、ご希望に沿う形で心を込めてエンゼルケアを行い、Yさんの好きだった口紅をつけました。

周囲の先輩たちはこう言いました。

「きっとYさん、あなたを待っていたんだね」

その言葉を聞いた瞬間、私は堪えていた涙が止まりませんでした。

4月になると、私はいつも思い出します。
あの日履いていた、オレンジのスカートと白いブラウス。

スカートはもう擦り切れて着ることはできません。
それでも今も、捨てることができず大切に手元に残しています。

あの春の日に出会った、ご夫婦の深い愛情の記憶とともに。

【体験者:30代・筆者、回答時期:2026年3月】

※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

FTNコラムニスト:Anne.R
看護師として9年間、多くの人生に寄り添う中で「一人ひとりの物語を丁寧に伝えたい」とライターの道へ。自身の家づくりやご近所トラブルの実体験に加え、現在は周囲へのインタビューを通じ、人間関係やキャリアなど女性の日常に寄り添った情報を発信している。

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