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「え、ちゃんと締めてもらったのに…」タイヤ交換後の“異音”を放置した30代男性を襲った“十数万円の痛手”

  • 2026.5.8
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出典:photoAC(※画像はイメージです)

元自動車整備技術アドバイザーの松尾です。

「ちゃんとトルクレンチで締めているから大丈夫」

そう思っていた整備が、実は“見えない不良”を生んでいたとしたらどうでしょうか。今回ご紹介するのは、足回りからの異音で来店されたお客様の事例です。正しく作業しているつもりでも、工具の状態次第で結果は大きく変わります。

今回は、現場で実際にあったやりとりを交えながら、見落とされがちなリスクと対策をお伝えします。

足回りの異音、その正体は“締まっていないボルト”だった

ある日、30代男性のお客様が「走るとコトコト音がするんです。最近タイヤ交換したばかりなんですが…」と来店されました。通勤で毎日使う国産ミニワゴン車で、特に低速時や段差で異音が出るとのこと。試運転をすると、確かに足回りから周期的な異音が確認できました。リフトアップして点検すると、一見しっかり締まっているように見えたボルトの一部に、わずかなガタがあることに気づきました。

「え、ちゃんとトルクレンチで締めてもらいましたよ?」

お客様は少し驚いた様子でそう話されました。さらに詳しく確認すると、複数箇所で規定トルクに対して締め付けが不足している状態。作業自体は丁寧に行われていた可能性が高いのですが、問題は“工具側”にありました。

原因は“未校正トルクレンチ”と放置が招いた悪化

後日、その整備に使用された工具を確認する機会があり、トルクレンチを測定したところ、設定値からズレていることが判明しました。長年使用され、校正が行われていなかったのです。今回のケースでは、本来であれば、異音が出始めた初期段階で点検していれば、正規トルクでの締め直しと簡易点検で1〜2万円程度の費用で収まるケースでした。しかし今回は、すでに微細なガタが進行しており、ボルトやナットの当たり面が摩耗していました。

「実は、ちょっと前から気になってたんですけど、忙しくてそのままにしてました」

お客様のこの一言が、結果を大きく左右していました。締め付けトルクが不足すると、走行中の微振動で締結部がわずかに動きます。その動きが接触面を削り、摩擦力を低下させ、さらに緩みやすくなります。最終的にはボルト交換だけでなく、ハブやナックルといった周辺部品の交換が必要になり、今回のお客様の場合、修理費用は数万円から十数万円規模へと膨らんでしまいました。

見えない整備不良を防ぐためにできること

この事例から分かるのは、「正しくやっているつもり」が必ずしも安全とは限らないということです。特にトルクレンチのような測定工具は、使い続けることで精度がズレていきます。年1回の定期校正を行うだけでも、こうしたトラブルは未然に防ぐことができます。また、ユーザー側としても「最近なんとなく音がする」「振動が増えた気がする」といった違和感を軽視しないことが重要です。今回のお客様のように先延ばしにしてしまうと、小さな異常が確実に大きなトラブルへと発展していきます。

さらに、整備を依頼する際に「トルク管理はされていますか?」と一言確認するだけでも、意識の高い整備かどうかを見極める材料になります。整備する側にとっても、工具は“ただの道具”ではなく“精度を担保する重要な設備”。つまり、工具そのものも整備対象なのです。足回りやブレーキといった重要保安部品で同様のことが起きれば、最悪の場合は重大事故につながる可能性も否定できません。見えない部分だからこそ、確実に管理する。その積み重ねが、安全なカーライフを支えています。


ライター:松尾佑人(二級ガソリン自動車整備士・二級ジーゼル自動車整備士資格保有)
新卒で自動車整備業界に入り約8年間整備に従事し、メーカーで現役メカニックに向けた故障診断アドバイザーや各種講習の講師として活動。 年間約1,200件の技術相談に対応し、電気回路や配線図の読み解きを基盤とした電子制御システムの解説を得意としている。


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