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空色のラッパムシの「すみっこ好き」を発見――目も脳もない単細胞の空間把握

  • 2026.3.11
空色のラッパムシの「すみっこ好き」を発見――目も脳もない単細胞の空間把握
空色のラッパムシの「すみっこ好き」を発見――目も脳もない単細胞の空間把握 / Credit:Canva

私たちは、部屋のすみっこに座るとなんとなく落ち着くことがあります。

実は、そんな「すみっこ好き」は人間だけではなく、ミクロの世界の生き物にも見られるようです。

北海道大学(北大)と富山大学(富山大)の研究チームは、淡水にすむ空色の単細胞生物「ソライロラッパムシ」が、鋭い角や狭い溝などの“すみっこ”を選んでくっつくことを発見しました。

なぜこんな小さな生き物が、目も脳もないのに細かな場所選びをできるのでしょうか?

研究内容の詳細は、2026年2月25日に『PNAS(米国科学アカデミー紀要)』にて発表されました。

目次

  • 「すみっこ」好きな空色のラッパムシ
  • ラッパムシの「すみっこぐらし」はどうやっているのか?
  • 「すみっこぐらし」は生態系を支えている

「すみっこ」好きな空色のラッパムシ

ソライロラッパムシは池や川にすむ単細胞生物で、体の長さは引き延ばすと1ミリほど、単細胞としてはかなり大きい部類です。

名前の由来は青っぽい色をしていることから、空色のラッパムシという意味で「ソライロラッパムシ」と呼ばれています。

そんなラッパムシたちは非常に興味深い生物です。

まずラッパムシの体は非常に柔軟で可変性に富んでおり、泳いでいるときは細長い円すいのような形をしており、水の中をくるくる回りながら進みます。

ところが体の後ろ側にある「固着器」という部分で、地面や物の表面にしっかり固定すると、体をぐっと伸ばしてラッパのような形に変形します。

このラッパ状の口周りには多くの繊毛があり、それを動かすことで、プランクトンなどの小さな生物を取り込み食べます。

可愛い見た目に反してラッパムシは捕食者なのです。

そんなラッパムシを観察していた研究者たちは、ある日、奇妙な現象に気づきました。

餌となる細菌を増やすために米粒や麦粒を容器に入れると、ラッパムシが突然いなくなったように見えたのです。

しかし、よく観察してみると消えたわけではありませんでした。

ラッパムシたちは、米粒の底や隙間など、とても狭い場所にぎっしりと集まっていたのです。

ただ泳ぎ回っているわけではなく、まるで狭いすみっこを選んでくっついているかのようでした。

そこで研究チームは、「この生き物にはすみっこを選ぶ好みがあるのではないか」と考え「すみっこの形」を人工的に作った実験装置を用意しました。

この装置には、さまざまな角度の角や深さの違う溝など、いろいろな形のすみっこが用意されています。

その中でラッパムシがどこにくっつくかを調べると、面白いことが分かりました。

ラッパムシはどこでも同じようにくっつくわけではなく、特定の形のすみっこを強く好んでいたのです。

例えば、角の角度が小さい、つまり鋭い角ほどよく選ばれました。

90度の角よりも、45度の角のほうがはるかに人気だったのです。

さらに、30度のようなもっと鋭い角にも、ラッパムシがよく集まる傾向が見られました。

また溝の深さにも好みがありました。

深ければ深いほどいいわけではなく、約0.45ミリくらいの深さの溝がもっともよく選ばれていました。

この数字は偶然ではありません。

ラッパムシの体はよく伸び縮みできることが知られており、伸びたときは1ミリ近くになりますが、泳いでいるときの長さの多くがだいたい0.4ミリ程度でした。

つまりラッパムシは、「体がぴったり収まるすみっこ」を選んでくっついていたと考えられます。

さらに角の曲がり方にも好みがありました。

角の丸みが小さく、ラッパムシの体の幅に近いサイズの角が特に選ばれやすかったのです。

この結果はとても興味深いものです。

なぜなら、たった1個の細胞からできた生き物が、自分の体の大きさに合った場所を選んでいるように見えるからです。

私たち人間が場所を「選ぶ」ときには脳と目を使います。

脳も目も膨大な細胞から構成される複雑な器官です。

しかし、そもそもラッパムシは単細胞生物であり、目も脳もありません。

そんな生物がいったいどのようにして自分に合う場所を選んでいるのでしょうか?

ラッパムシの「すみっこぐらし」はどうやっているのか?

空色のラッパムシの「すみっこ好き」を発見――目も脳もない単細胞の空間把握
空色のラッパムシの「すみっこ好き」を発見――目も脳もない単細胞の空間把握 / 空色のソライロラッパムシはすみっコぐらしが好き/Credit:川勝康弘

目も脳も持たないラッパムシが、どうやって「好きなすみっこ」を見つけているのでしょう?

そこで研究者たちは、この謎を解くために、特別な小さな容器を作ってラッパムシの動きをより詳細に観察しました。

すると最初、ラッパムシは容器の中を自由に泳ぎ回りますが、しばらくすると動き方が変わりました。

それまではくるくる回りながら広く探していたのに、突然、壁に沿ってゆっくりと移動し始めたのです。

このとき、ラッパムシの体はいったん縮んで、左右が対称ではない形になります。

さらによく見ると、口の部分が前後の向きに対して30度ほど斜めに傾いていました。

なぜこんな変化が起こるのか不思議ですが、研究者はそこに秘密があると考えました。

ラッパムシの口のまわりには「繊毛」と呼ばれる細かな毛がたくさん並んでいます。

この毛が動くことで水の流れが生まれ、ラッパムシは前に進むことができます。

実は、この口まわりの毛が作る水の流れは、体の他の部分よりも約100倍も強いのです。

この強い水流が口の傾きによって左右非対称になることで、体が自然と壁に沿って進む動きへと切り替わるのです。

このことを確かめるため、研究者たちはコンピューターの中に仮想のラッパムシを作り、その動きをシミュレーションしました。

すると、左右対称の体をしたラッパムシは壁にぶつかってはね返されてしまいましたが、体が少し傾いて非対称になっている場合は、壁に沿って滑らかに動き続けました。

つまりラッパムシは目がなくても、体のちょっとした形の変化だけで壁に沿って移動し、自分に合うすみっこへ自然と導かれていたのです。

研究チームの越後谷さんは、このラッパムシの行動について「構造物の表面に沿って移動しており、探索モードを切り替えている」と説明しています。

そしてラッパムシが鋭い角や細くて深い溝のような場所に近づくと、壁との接触や水の流れとの相互作用が強くなり、移動のスピードが落ちやすくなります。

研究では、この「移動が遅くなる現象」が、ラッパムシが特定のすみっこに固着しやすくなるきっかけになっていると考えています。

つまり、ラッパムシは目や脳で「ここがいい!」と判断しているのではなく、壁との接触や水の流れとの物理的な相互作用によって、すみっこにたどりついていた――という研究チームの考えです。

ではなぜラッパムシはわざわざ狭いすみっこを選ぶのでしょう?

研究者たちによると、狭くて深い場所にはいくつかのメリットがあるそうです。

まず、狭い場所なら大きな敵が入り込みにくいので、安全に暮らせるます。

また、狭い溝の底には水が残りやすく、乾燥から身を守ることもできると考えられます。

さらに、溝や角のような場所にはラッパムシが食べる藻などの餌も集まりやすくなっている可能性もあります。

つまり、ラッパムシは自らが生きるために最適な場所を探していただけでなく、そこに餌も集まるという二重の利点を手に入れていた可能性があります。

「すみっこぐらし」は生態系を支えている

ラッパムシの行動切り替えはほとんどカルシウムイオン(Ca²⁺)が関与します。周りに壁や突起などの構造物があると、ラッパムシはその表面に何度もぶつかります。この収縮で体の形が少しゆがみ、前側のエンジン部分の向きが変わることで、ラッパムシは自然と壁に沿って進む「壁づたい泳ぎ」に入り、そのまま角や溝の「すみっこ」に誘導されていきます。やがて狭い場所でスピードが落ちて/Credit:Geometrical preference of anchoring sites in the unicellular organism Stentor coeruleus

ラッパムシがすみっこを見つける仕組みは、単に「ちょっと面白い話」で終わるものではありません。

この小さな単細胞の行動が、自然界のもっと大きな仕組みや生態系全体と深くつながっているからです。

北海道大学と富山大学の研究チームは、このラッパムシの発見を通して「目には見えないミクロな世界の地形が、生態系全体の形を左右している可能性がある」と説明しています。

私たちがふだん目にする池や川の底には、砂粒や泥、小さな石が積み重なっていて、一見どれも同じような風景に見えます。

しかしラッパムシほど小さな生き物の視点で見ると、そこは細かい溝や鋭い角、入り組んだ狭いすみっこが無数にある、とても複雑な地形です。

こうしたミクロな地形のすみっこは、水流が弱まり、有機物や細菌がたまりやすい「居心地のよい一等地」になり、そこにラッパムシのような単細胞生物が定着すると、その周囲にはさらに別の微生物や、それをエサにする小さな動物プランクトンが集まり、順々に食物網が立ち上がっていきます。

こうして、水中の小さなすみっこで起きた微生物の小さな集まりが、やがては水辺の生き物全体の生息場所や移動パターン、ひいては生態系のバランスそのものまで影響を及ぼしうるのです。

目には入らないほど小さなすみっこが、実は多くの生き物の暮らしを支える“見えないインフラ”になっている——ラッパムシは、そのことを教えてくれる代表選手なのです。

【※最後になりましたがプレスリリースを提供して頂いた北海道大学電子科学研究所の西上幸範氏に感謝いたします】

参考文献

ソライロラッパムシの「すみっこ」好きを発見~目の無い単細胞生物の空間把握メカニズム~(電子科学研究所 特任助教 越後谷駿、准教授 西上幸範)
https://www.hokudai.ac.jp/news/2026/02/post-2199.html

元論文

Geometrical preference of anchoring sites in the unicellular organism Stentor coeruleus
https://doi.org/10.1073/pnas.2518816123

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部

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