1. トップ
  2. 恋愛
  3. 「NISA貧乏」が急増するわけだ…FPが見た、年360万円の枠を満額埋めた40代共働き夫婦の"危ない家計"

「NISA貧乏」が急増するわけだ…FPが見た、年360万円の枠を満額埋めた40代共働き夫婦の"危ない家計"

  • 2026.3.11

新NISAが3年目に入った。投資で資産を増やすにはどのようなことに注意すればいいのか。ファイナンシャルプランナーの内田英子さんは「投資を“しすぎている”家庭に出くわすことが増えた。ゆとりがなく、必要なときに資金不足に陥るリスクがある。“50・30・20ルール”などを参考に、家計状況を再確認してほしい」という――。

※本稿の事例は、実際の相談内容などを基に、個人が特定されないよう変更や修正を加えています。

家計を見直す女性
※写真はイメージです
“投資しすぎ”と判明した40代の共働き夫婦

「NISAはすでにやっています。次はiDeCoを始めたいのですが、いくらなら投資に回して大丈夫ですか?」

先日、40代共働きのAさん夫婦(仮名)から、こんな相談を受けました。昨年念願のマイホームを購入したばかりで、お子様が2人いらっしゃる、4人家族です。

「将来のことまでしっかり考えられていて、堅実なご夫婦」

第一印象はそのようなものでした。しかし、家計状況を確認していくと、違った姿が見えてきました。Aさん夫婦は、投資に回す金額が大きすぎるというリスクを抱えていました。

私が日頃、お客様からご相談を受ける中で感じているのが、このような“投資への偏り”です。特に、新NISAが始まって投資への注目が大きくなって以来、体感的に高まってきているように感じます。

投資にまわす金額が大きすぎると、家計収支のゆとりが失われます。想定外の支出や物価上昇に対応できず、取り崩しを早めたり、必要なときに使えるお金が不足しやすくなります。

「将来のことも大切ですが、暮らしや運用計画の持続性を高めていくことも必要ではないでしょうか」

筆者はAさん夫婦と一緒に、投資にあててもいい投資額の最適解を考えることにしました。

年間120万円が「預貯金からNISAに」流れていた

Aさん夫婦の家計状況を整理すると、以下のようなものでした。


【世帯年収】約1200万円(手取り約1000万円)
夫 約750万円
妻 約450万円

【年間支出】約240万円の黒字
年間生活費 550万円
住宅ローン返済 約212万円(変動金利・35年元利均等返済)

【資産額】
預貯金 約500万円
株式投資信託 約1000万円
年間360万円をNISAへ拠出

手取りから生活費と住宅ローン返済を引くと、手元に残るのは年間約240万円です。ところが、NISAへの拠出額は年360万円。つまりAさん夫婦は、年間120万円、ひと月あたりにならすと10万円ずつ、預貯金を取り崩してNISAへ拠出されている状態でした。

この点はAさん夫婦も把握されていました。状況をおうかがいしたところ、家を買う前よりも預貯金の取り崩し額が増えたとのこと。

見直した方がいいのかと思う一方、預貯金がなくなった段階で投資額を減らせばいいか、と考えていたそうです。そして、投資への拠出を最優先事項と位置づけたまま、さらにiDeCoも始めようとされていたそうです。

投資に回っていたのは「手取りの36%」

筆者は日頃さまざまな方とお話させていただいていますが、こういった考え方をされる方は増えていると感じています。

Aさん夫婦のように、まず最も優先順位が高いものが老後資金で、次に教育費。そしてその次に自動車や被服費、レジャー費、といったかたちです。

確かに、老後資金と教育費を最優先事項とするなら、これらのつみたて計画をたて、つみたてを拠出していくのが合理的な行動です。

ただ、多くの方が投資に関心を持っている今、投資への優先順位は無意識に高まっているようです。Aさん夫婦の場合、手取り収入に対しおよそ36%を投資にまわしていました。

つみたてにまわすということは、将来のためにお金を使わずにとっておく、ということです。その分、目先の暮らしに使える金額は少なくなります。その結果、今の生活の質や持続可能性を下げる可能性があり、長期にわたる安定した資産形成をつづけにくくなることがあります。

ガラス瓶にコインを入れる手と目覚まし時計
※写真はイメージです
家計に無理がないか測れる「50・30・20ルール」

ここで参考になるのが、「50・30・20ルール」です。これはアメリカ発の家計管理術で、金融教育のワークでも用いられる代表的な支出配分ルールです。

支出を大きく3つに分けて考える方法で、生活に必要な支出(Needs)を50%、ゆとりや自由支出(Wants)を30%、貯蓄やつみたて、繰上返済など将来のためのお金(Savings goals)は20%におさえる、というものです。

(参考:米・消費者金融保護局/CFPB「Students analyze case studies and apply the 50-30-20 rule of budgeting.」)

もちろん、子育て世帯やひとり親世帯など、ご家庭の状況によっては、きれいにこの比率に収まらないこともあると思います。生活に必要な支出が50%を超えることもあるでしょう。知っておきたいのは、これは家計の成績をはかるものさしではなく、家計に無理がないか、長生きできるか、ということを確認するための目安だという点です。

そのうえで注目したいのが、“Savings goals”の割合です。つみたて、というと老後資金のつみたてをイメージされる方は多いと思いますが、ここでいう20%は、将来のためのお金を広く想定しています。具体的には、老後資金のつみたてだけではなく、緊急生活資金や教育費、近い将来の支出に備える準備資金などを含んでいます。

たとえば家具・家電の買い替え資金、車の買い替え資金といった、数年以内に発生しうる支出に備えるつみたても、この20%の中で考えるのが基本です。こうした資金は、預貯金など安全性の高い持ち方が適しています。

したがって、年間手取り収入額に対して20%を超える金額を“投資”に拠出している場合は、黄色信号が灯っているといえます。Aさん夫婦は前述のとおり36%ですから、場合によっては赤信号である可能性もあると推察されます。

NISAで「教育費の準備」はリスクが高い

長期にわたり安定した資産形成を実践していく上では、目的に応じたリスク配置となっているか、という視点も欠かせません。

老後資金と教育資金は必要となる時期が異なります。したがって、許容できるリスクも変わります。そのため、本来はそれぞれの目的と時間軸に応じて、運用方法を分けて考える必要があります。ところが実際には、目的と運用状況がちぐはぐになっているケースが少なくありません。

Aさん夫婦の資産状況も、まさにその状態でした。

株式は価格変動の大きい資産であり、長期間の運用を想定すべき資産です。つまり、短期間で現金化する可能性がある資金には向きません。一般的に5〜10年以上先に使う予定の資金を「長期資金」と言いますが、株式100%で運用するなら、例えば老後資金など、20年以上先に使う予定の資金の運用手段としたほうが相性はいいでしょう。

Aさん夫婦は、教育費の準備も想定してNISAで投資をしていましたが、運用内容は株式で100%運用する株式投資信託のみ。一方、教育費の支出時期として想定されていたのは約10年後です。教育費は期日が決まっており、かつ金額を調整しづらい支出です。教育費という目的に対しては、リスクが高い運用内容でした。

NISAは運用益が非課税となることから、資産形成にあたっては優先して活用したい制度です。ただし、目的ごとに資産を分けて運用しようとすると、使い方には工夫が必要です。制度を使うこと自体が目的になると、目的に合った運用設計が後回しになりやすい点には注意が必要です。

「新NISA」とあるニュースの見出し
※写真はイメージです
「生活防衛資金」を脅かす拠出だった

投資の原則は、「長期資金」もしくは「余裕資金」で行うことです。

長期資金とは、少なくとも10年以上使う予定のないお金です。余裕資金とは、万一減っても生活には影響をあたえない、いわゆる「ゆとり資金」です。

ご家庭の資金を分類するためには、資金計画を立てることが重要です。まず優先すべきは緊急生活資金と時間軸が短いお金の準備です。具体的には、日々の生活のために必要なお金、数年以内に必要なお金があげられます。具体的なスケジュールと一緒に金額を確認していきます。これらが確保できて初めて、投資にあてられる資金がみえてきます。

Aさん夫婦の場合、預貯金500万円のうち、約半分は「生活防衛資金」として確保すべきお金でした。なお、生活防衛資金の目安は生活費の3カ月分~1年分です。くわえて、自動車の買い替え資金や第二子の小学校入学準備として2年後には約300万円が必要になることが見込まれていました。

つまり、実態は必要な金額を割り込んでいました。さらに投資のために預貯金を取り崩していたことで、預貯金額は毎年減り続けており、昨年は120万円の取り崩し。今年も同じペースで続ける場合は、さらなる状況の悪化が懸念されました。Aさんが投資にあてていたお金は、本来は投資にあてるべき資金ではなかったということです。

iDeCoで注意すべき“3つのポイント”

さらに、Aさん夫婦はiDeCoへの拠出も検討されていました。iDeCoに拠出できる金額の考え方は基本的にNISAと同様ですが、iDeCoはNISAにはない制約があります。なお、企業型DC(企業型確定拠出年金)についても同様です。企業型DCをされている場合は、iDeCoを企業型DCに読み替えてください。

第一に、途中で引き出せないことです。NISAはいつでも売却や出金ができますが、iDeCoは原則として60歳まで引き出しができません。NISA以上に資金の流動性は下がりますから、「なんとなく」で拠出額をふやすと危険です。

第二に、受取時の出口設計にNISA以上の配慮が必要なことです。特に注意したいのが、iDeCoにまつわる税制改正です。近年はiDeCoをめぐる見直しが続いており、受け取り方やタイミングによっては、税負担が増えるケースも出てきています。

例えば、2026年1月からは、iDeCoや企業型DCの老齢一時金と退職金を両方受け取る場合の税務上の取り扱いが見直されました。いわゆる「5年ルール」が「10年ルール」に変わったことで、受取時期の組み合わせによっては、退職所得控除の使い方に影響を受け、手取りが減る方が出る可能性があります。

第三に、運用中の税について不確実性が残る点です。税制ではiDeCoの運用資産は特別法人税(1.173%)の対象となっていますが、現在は凍結されており、実質的に非課税で運用されているかたちです。この凍結措置はこれまでに延長を繰り返しており、令和8年度の税制改正大綱でも延長する内容が示されていますが、依然廃止されていません。運用資産の課税に不透明さが残っています。

投資は「ペース配分」「スタート前の準備」が肝心

iDeCoは2026年12月から掛金上限額が引き上げとなり、会社員は月6.2万円まで拠出できる予定です。しかし、掛金上限額を基準に拠出額を決めると、将来の制度改正の影響を真正面から受ける可能性があります。拠出額を決める前に、勤務先の退職金制度やキャリアプランを確認してください。

【図表1】iDeCoの拠出限度額の引き上げのイメージ
厚生労働省「2025年の制度改正」より
【図表2】iDeCoの拠出限度額の引き上げのイメージ
厚生労働省「2025年の制度改正」より

Aさん夫婦はその後、家計の状況を確認し、目的と現在の資産状況にあわせて投資への拠出スケジュールを見直していくことになりました。具体的には、今ある資金の目的を明確化し、それぞれの目標に応じた積立額を設計。NISAへの拠出額を減額するとともに、iDeCoにも分散。支出の見直しも実施しました。

NISAやiDeCoは資産形成に有効な制度ですが、投資は例えるなら長距離マラソンのようなものです。フルマラソンでスタート直後に全力疾走すれば、数キロで息切れしてしまうように、走り抜くためにはペース配分とスタート前の準備が肝心です。

そのためには、投資額を先に決めるのではなく、生活防衛資金や近い将来の支出、教育費や老後資金の目標額と時期を整理し、家計全体のコンディションを整えることが重要です。

「今の暮らしを犠牲にする投資」は本末転倒

今されている投資は何のための投資でしょうか。このところは物価や金利が上昇基調にあり、生活防衛の必要性は高まってきています。今の暮らしを守る体制が整えられていないまま、投資への過度な拠出を続けると、今の暮らしが犠牲になる可能性があります。それでは、本末転倒ではないでしょうか。

また、お金を使うことは案外難しいものです。長らく我慢して、ゴールの解像度の低いまま運用を続けられたとしても、将来資産を取り崩すことに踏み切れない可能性もあります。将来の年を重ねたご自身であればなおさらです。

急ぐ必要はありません。まずはライフプランをふりかえり、優先順位と必要な運用を確認することからはじめてみてはいかがでしょうか。

生活費について話す日本のカップル
※写真はイメージです

内田 英子(うちだ・えいこ)
FPオフィスツクル代表、ファイナンシャルアドバイザー、CFP
愛媛県在住。証券会社・保険ショップ勤務などを経て、現在、FPオフィスツクル代表。完全フィーベースの独立系FPとして、全国からオンライン相談に応じる。教育費・住宅・老後の資金計画まで、人生の節目に寄り添うサポートを行う。税制や公的医療保険、公的年金、企業年金などの制度を活かし、コストを抑えながら「資産を長持ちさせる家計づくり」を提案。住宅ローンや保険、投資など“生活に関わる金融制度やサービス”を使いこなし、仕組みと制度を味方につける“家計整理の知恵”を発信している。

元記事で読む
の記事をもっとみる