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「人の印象は一度決まったら変わらない」と考えるとコミュニケーションがずっと楽になる

  • 2026.3.8
Credit:canva

「人からどう見られているか」を気にしすぎて、人付き合いが疲れる、苦手と感じている人は多いかも知れません。

そんな人見知りや社交不安を感じやすい人にとって、「努力次第で他人の評価は変えられる」という一見ポジティブな考え方は、毒になる可能性があるようです。

この意外な心理メカニズムに注目したのが、イスラエル、バル=イラン大学(Bar-Ilan University)の社会心理学者リアド・ウジエル(Liad Uziel)准教授です。

ウジエル博士は、「人の印象は一度決まったら簡単には変わらない(固定マインドセット:fixed mindset)」という、一見するとネガティブにも思える考え方が、実は対人関係のストレスを和らげ、振る舞いを自然にする効果があるのではないかという仮説を立てました。

そして約700名を対象とした一連の実験の結果、社交不安を感じやすい人ほど、「他人の評価は簡単には変わらない」と信じることで、皮肉にも自分をより良く表現でき、日常の交流が満足度の高いものに変わることが示されたのです。

この記事では、これまでの常識を少しずらすことで見えてきた、対人ストレスを軽減する新しい心の持ち方について解説します。

この研究の詳細は、2025年11月16日に科学雑誌『Personality and Social Psychology Bulletin』にオンライン掲載されています。

目次

  • 「予測できる世界」が不安な心を穏やかにする
  • 「あきらめ」が注意を外の世界へと解き放つ

「予測できる世界」が不安な心を穏やかにする

対人関係に苦手意識を持つ人は、よく「もっと自分を変えよう」とか「努力すれば相手の評価も変わるはずだ」というアドバイスを受けます。

しかし、この「変われる(成長マインドセット:growth mindset)」という前向きな信念が、人によっては心理的な重荷になる場合があります。

社交不安(Social Anxiety)を感じやすい人々は、他人の評価を非常に気にする一方で、自分が失敗して拒絶されることを強く恐れる傾向にあります。

彼らが対面での交流に臨むとき、その意識は「自分はどう見られているか」という自分自身の内面へと過剰に向いてしまいます(自己注目:self-focused attention)。

研究者は、この内面への執着が精神的なエネルギーを激しく消耗させ、結果として自然な振る舞いを妨げていると考えました。

そこでこの研究では、これまでの常識とは逆に、「人の印象は一度決まればそう簡単には変わらない(固定マインドセット:fixed mindset)」と信じることが、不安を抱える人々の助けになるのではないかという仮説を立てました。

なぜなら、印象が「固定されている」と思えれば、無理に自分を取り繕い続ける必要がなくなり、状況を予測可能なものとして捉えられるようになるからです。

研究者は、まず参加者に対して「人の印象形成」に関するあえて偏った意見の文章を読んでもらい、被験者に特定の考え方を取りやすい状態をつくりました。

わかりやすく言うと、あるグループには「第一印象はなかなか変わらない」という意識するような文章を与え、別のグループには「印象は変化し続ける」と意識するような文章を読んでもらったうえで、その後の行動を観察したのです。

その上で最初の実験では、これから会うかもしれない相手に向けた「自己紹介文」を書いてもらいました。

その結果、社交不安の高い人々は「印象は変わるものだ」と捉えたときよりも、「印象は固定的だ」と捉えたときの方が、第三者から見て魅力的な文章を書くことができました

さらに、より緊張感の高い「2分間の自己紹介動画」の撮影実験でも、同様の結果が得られました。

不安を感じやすい人であっても、評価が固定されていると考えることで、皮肉にも客観的なパフォーマンスが向上したのです。

「あきらめ」が注意を外の世界へと解き放つ

なぜ「他人の印象は変わらない」という、一見すると希望がないような考え方が、これほどポジティブな結果をもたらしたのでしょうか。

研究者は、その最大の理由は「注意の向き」が変化することにあると考察しています。

「自分の努力で評価を変えなければならない」と思っている間、人は自分の欠点ばかりに目を向けてしまい、自己批判の悪循環に陥ります。

しかし、「どうせ評価は変わらない」と考えることで、自分を良く見せようとする印象管理(Impression Management)のプレッシャーが軽減されます。

その結果、余った精神的なエネルギーが、目の前の話し相手や周囲の環境といった「外の世界」へと向けられるようになります。

この注意のシフトが、過度な緊張を解き、より自然でリラックスした対人行動を引き出す鍵となったのです。

この効果は、実験室の中だけにとどまりません。

研究者が参加者の日常生活を3日間にわたって追ったところ、驚くべき事実がわかりました。

社交不安の高い人々が「印象は固定的だ」という考え方を促されたあとでは、通常よりも社交の場をストレスに感じにくく、満足度の高い時間を過ごせたと報告したのです。

一方で、このマインドセットはすべての人に同じ効果をもたらすわけではありません

社交不安が低い人、つまりもともと人付き合いに抵抗がない人の場合は、逆に「印象は変わらない」と考えるとパフォーマンスがわずかに低下する傾向も見られました。

この研究は、不安を抱える人々にとっての新しい心の「お守り」を提示していますが、いくつか注意すべき点もあります。

今回の調査は一般の人々を対象としたものであり、臨床的に「社交不安障害」と診断された患者の方々にそのまま適用できるかどうかは、まだ分かっていません。

また、このマインドセットの効果がどのくらいの期間持続するのかについても、さらなる検証が必要です。

しかし、これまで「変わりなさい」という言葉に追い詰められてきた人々にとって、この研究結果は大きな意味を持ちます。

「世界はもっと安定していて、他人の評価はそう簡単に揺るがない」と信じることは、私たちが安心して外の世界へと一歩踏み出すための、意外な解決策になるかもしれません。

元論文

The Soothing Effect of a Stable World: Social Behavior of Individuals Varying on Social Anxiety Under Fixed and Growth Mindsets About Impression Formation
https://doi.org/10.1177/01461672251378537

ライター

相川 葵: 工学出身のライター。歴史やSF作品と絡めた科学の話が好き。イメージしやすい科学の解説をしていくことを目指す。

編集者

ナゾロジー 編集部

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