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ブレンダン・フレイザーの繊細さに支えられた日本ロケ映画『レンタル・ファミリー』の特別な魅力

  • 2026.2.28
ブレンダン・フレイザーの繊細さに支えられた日本ロケ映画『レンタル・ファミリー』の特別な魅力
『レンタル・ファミリー』 (C)2026 Searchlight Pictures. All Rights Reserved.

監督は大阪出身のHIKARI、柄本明や平岳大らが共演

【週末シネマ】アメリカを拠点とする大阪出身のHIKARI監督の日米合作映画『レンタル・ファミリー』は、日本に実在する代行サービスを題材に、孤独な人間同士のつながりを描く人間ドラマだ。日本の一風変わった事業をモチーフにしながら、アメリカの典型的なハートウォーミングな映画の風格がある。オスカー俳優のブレンダン・フレイザーが主演を務め、共演には柄本明や平岳大らが名を連ねる、全編日本ロケの作品だ。

 

主人公のフィリップは、東京で暮らすアメリカ人俳優だ。数年前に日本のCM出演で一時的に成功したものの、その後のキャリアは低迷している。そんな彼が雇われたのが、依頼人のために家族や友人などを演じる「レンタル・ファミリー」という会社だった。

婿役や父親役、ジャーナリスト役などをこなす主人公だが……

最初は奇妙な仕事に戸惑いながらも、生活のため、そして自分が“象徴的な白人男性”として求められているという皮肉な事情から、彼は請われるままに現場へ赴く。両親を安心させるためのフェイク結婚式の婿役、私立校受験を控えた少女・美亜の父親役、そして認知症の往年の映画スター・長谷川喜久雄の取材をするジャーナリスト役など役目は様々だ。

はじめは演技の延長だったのが、会う回数を重ねる相手とは心の交流が生まれ、そこにフィリップ自身の孤独や虚しさも共鳴する。とりわけ、自分のことを実父と信じ込む美亜との関係は温かなものをもたらすと同時に罪悪感も芽生えてくる。

誰かをレンタルするという発想は、欧米の観客にとっては文化的に強いインパクトを持つ設定だろう。HIKARI監督はおそらく意識的に現実の事業を拡大解釈して、体裁を重んじる日本社会を象徴する装置としたようだ。だからこそ、美亜や喜久雄の閉ざされた心が開かれてからの交流はドラマとしての深みになる。

フレイザーの心根が物語にリアリティを与える

とにかくフレイザーありきの作品だ。インタビューや記者会見での実際の本人の佇まいを見ていると、生き馬の目を抜くハリウッドで生きているのが奇跡に思える繊細さと優しさの持ち主であることが伝わってくる。その心をもって演じているから、物語が信じられる。

“父親”に対する複雑な思いを抱く美亜を瑞々しく演じて、映画初出演ながらクリティクス・チョイス・アワード(放送映画批評家協会賞)若手俳優賞にノミネートされたゴーマン シャノン 眞陽や、喜久雄を演じる名優・柄本明までもが、フレイザーとのやりとりの中でこれまで見せたことのないような表情になる。主役であると同時に共演者から最高の表現を引き出す力が素晴らしい。

つっこみどころは多々あるが、引き込まれる素晴らしい作品

ストーリーには、いろいろつっこみたくなるところはある。いくら今は売れていないとはいえ、CMで話題になった外国人の顔はそう簡単に忘れ去られるものではないはず。誰も彼に気づかないのか、無防備に街を歩いて大丈夫なのか、などと思ってしまう。

そして“嘘も方便”という発想は確かにその通りなのだが、本作では嘘という罪がやや軽過ぎはしないか。「それは長じて深い傷になりませんか?」と心配になる瞬間がいくつかある。抱える問題に誠実に向き合わないことは、後により重いものとなって依頼者やその周囲にも返ってくるのではないか。

善意の優しい嘘で人を癒すことと他者を欺くことを同列に並べ、その混同による葛藤から敢えて目を逸すような展開は、あるいは外から母国を見つめる監督からのメッセージかもしれない。そして本作にはリアリズムの厳密さよりも、かりそめの関係から本物の感情は生まれうるのかという問いへの希望が似合う。

物語に引き込まれ、気づけば架空のキャラクターたちにこれほど親身になっていたのは初めてかもしれない。見事な着想、見事な演技、見事な演出が揃う特別な作品だ。(文:冨永由紀/映画ライター)

 

『レンタル・ファミリー』は、2027年2月27日より公開中。

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