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今、群馬県がおもしろい理由。山本一太知事が仕掛ける“群馬というコンテンツ”とその未来

  • 2026.2.17

温泉大国としても知られている群馬県が、今、その注目度をより高めている。移住希望地ランキング全国1位、動画再生回数全国トップクラス、そして次々と生まれる新しい取り組み。その中心にいるのが、山本一太知事だ。今回の対談では、「知事という仕事」から始まり、観光、メディア戦略、エンタメ、IP、そして人材育成まで、山本知事の言葉を通して、群馬県がどのように「選ばれる場所」へと変化してきたのかを紐解いていく。聞き手はウォーカープラスの浅野編集長。行政とメディア、それぞれの立場からのやり取りを通して、今の群馬がどんな方向へ向かっているのか、その新しい魅力が少しずつ見えてくる。

※本取材は2026年1月5日に実施

群馬県知事の山本一太さん(左)とウォーカープラス編集長の浅野祐介(右) 【撮影=阿部昌也】
群馬県知事の山本一太さん(左)とウォーカープラス編集長の浅野祐介(右) 【撮影=阿部昌也】

「知事」という仕事が、今“一番おもしろい”理由

ーーまずは一太さんが考える「知事」という仕事の醍醐味について伺いたいと思います。以前ご自身のブログで、「群馬県民の先頭に」や「多面的発光体として」といった言葉で表現されたこともありましたが、国政を長く経験された一太さんだからこそ見えている、知事という立場ならではのおもしろさがあるのではと感じています。

【山本一太知事】私は自民党で国会議員を24年間務めて、今は知事として7年目になります。国会議員と知事の仕事を比べたときに、一番違うのは、国会議員の本来の役割が法律を制定することにある、という点です。法律に基づいて世の中が動いていく。その意味では、そこには確かにおもしろさや醍醐味がある仕事だと思っています。

一方で、知事というのは、「現場のプレーヤー」なんです。群馬県民の先頭に立って、現場と直接向き合いながら、さまざまな事業を動かしていく。その実感という点では、国会議員時代のおもしろさとは全く違う、仕事の醍醐味や重圧、やりがいがあります。これは、正直、比べものになりません。

ーー国の制度設計とは違って、判断の結果がすぐ現場に返ってくる。そのスピード感こそ、知事という仕事のリアルなのだと感じます。

【山本一太知事】私が6年半前に知事になったタイミングが幸運だった理由のひとつは、当時、知事という存在が、今ほど注目されていなかったことです。全国知事会も、一時期は「改革派知事」が地方から政治改革を発信する存在として注目されたことがありました。決して規模の大きくない自治体の知事が脚光を浴びた時代です。ただ、その後は、知事会全体としての存在感は薄れていきました。

ーー注目のピークを一度迎えて、そこからあらためて役割が問い直された、という流れですね。

【山本一太知事】そうですね。ところが、コロナ禍をきっかけに状況が一変しました。未曾有の危機の中で、国と地方の役割分担が明確でない場面も多く、各知事の判断が、極めて重要な意味を持つようになった。その結果、知事会にも一気に注目が集まり、存在感が大きく高まったわけです。

ーー知事という存在の見え方そのものが変わった印象があります。

【山本一太知事】だから今、知事という仕事は本当におもしろい時代に入っています。私は昭和33年(1958年)生まれで、いわばネットで言えば“石器時代”の人間ですが、この10年、特にこの6年ほどで、デジタルやインターネットの環境は大きく変わりました。地方にいながら、グローバルな動きや情報に直接触れられる時代になったんです。

【写真】33階建ての群馬県庁舎は、153.8メートルで道府県庁舎として日本一の高さを誇る 【提供画像】
【写真】33階建ての群馬県庁舎は、153.8メートルで道府県庁舎として日本一の高さを誇る 【提供画像】

ーー地方にいながら、世界と同時に情報を受け取れる感覚ですよね。ご自身の知事としての強みはどんなところにあると思いますか?

【山本一太知事】まず、24年間国会議員を務めてきた中で築いた政府との人脈があります。さらに東京に近いという地理的な好条件もある。知事である私の交渉相手は、ほぼ大臣クラスになります。

ーーご自身の強みと、群馬ならではの距離感をフル活用しているわけですね。

【山本一太知事】はい。加えて、デジタルを活用し、地方からでも多様な発信ができる。これまでアクセスできなかった情報や人にもつながれる。知事という仕事のダイナミズムや可能性は、明らかに広がっています。そう考えると、このタイミングで故郷の群馬に戻り、現場のプレーヤーとして知事をやっていることは、本当によかったと思っています。

ーーその実感が伝わってきました。ありがとうございます。

届け方を変えたら、群馬は動き出した

ーーSNSの活用など、ご自身でも強力なメディアで発信を続けられていて、県として動画・放送スタジオ「tsulunos(ツルノス)」も非常にうまく活用されていますよね。行政が自らここまで発信に力を入れている例は、あまり多くない印象があります。一太さんは、今の時代における観光の魅力や地域の価値を、どのように届けるべきだと考えていらっしゃいますか?

【山本一太知事】観光や地域に限らず、今は情報発信全般に言えることですが、いわゆるオールドメディアよりも、ネットメディアの影響力が日々大きくなっていると感じています。若い人はテレビをあまり見ませんし、実は私自身もほとんど見ていない。ニュースもYouTubeでチェックしますし、BBCやCNN、NBC、Foxニュースまで全部見られる。そういう時代ですよね。

tsulunosのスタジオで対談が実現した 【撮影=阿部昌也】
tsulunosのスタジオで対談が実現した 【撮影=阿部昌也】

ーー情報にたどり着くまでの導線そのものが、世代ごとに全く違ってきていますよね。

【山本一太知事】つまり、テレビをほとんど見ない環境の中で、ネットの発信力が急激に広がっている。だからこそ、デジタルを使った情報発信が、今の時代の主流になってきていると思っています。

ーー行政側が、その変化をしっかり前提に置いているかどうかは、大きな差を生みそうです。

【山本一太知事】今は47都道府県それぞれがネット動画チャンネルを持ち、登録者数や再生数を競い合っています。特にコロナ禍を通じて、動画の重要性はあらためて強く認識されました。そうした中で、群馬県の動画の再生回数は全国トップクラスです。2023年度は約4000万回、2024年度は約8000万回となりました。行政の公式チャンネルとして考えると、かなり異例の伸び方です。

ーーかなり異例の伸び方ですね。

【山本一太知事】そのうち約2500万回はぐんまちゃんが稼いでいますが、残りの約5500万回は、YouTuberやインフルエンサーとの連携もありつつ、基本的には職員が中心となり回している。これは本当に新しいビジネスモデルだと思います。

群馬県公式動画チャンネル「tsulunos -ツルノス-」 【提供画像】
群馬県公式動画チャンネル「tsulunos -ツルノス-」 【提供画像】

ーー県独自できちんと運用できるチームが育っているのは大きいですね。

【山本一太知事】はい、大きいと思います。こうしたネット発信力の強化は、群馬県の勢いにもつながっています。2024年の「移住希望地ランキング」で全国1位を獲得できたのも、その象徴です。王者だった静岡を抑えての1位でした。

ーーメディア側から見ても、「群馬が1位」という結果そのものがニュースになっていました。

【山本一太知事】実は、これもネット動画の発信力にかなり支えられていると思っています。観光の魅力をどう伝えるかは、口コミもありますし、ウォーカープラスのようなメディアの力も大きい。

たとえば、水上の宝川温泉がヨーロッパの人たちに知られるようになった背景には「ロンリープラネット」という旅行ガイドの存在がありました。紙媒体の力も、もちろん大事です。ただ、基本的にはデジタルを活用した情報発信が、最大のポイントだと考えています。

見せ方よりも中身。群馬県の観光戦略

ーーここまで情報発信、メディア戦略について伺ってきましたが、次は観光についてお伺いさせてください。群馬県の観光について、一太さんが何を一番大事にしているのか、そしてこれからそれをどう磨いていこうとしているのかを教えてください。

【山本一太知事】観光の専門家デービッド・アトキンソンさんは、日本経済や観光戦略について、いろいろ提言していますが、「コンテンツそのものが大事だ」ということを言っています。仮に観光協会がパンフレットをたくさんつくって宣伝しても、実際に来てみてガッカリされたら意味がないですよね。

だから、ハードの整備が重要だと考えています。「よさそうだな」と思っていたものが、いざ観光地を訪れて「なんだこれ」となるのは一番よくない。ソフトだけでなく、ハードの整備も含めて、まずは「いいコンテンツをつくる」ことが大事なんです。

「観光協会が立派なパンフレットを作って宣伝しても、来てみたらガッカリじゃしょうがない」と語る山本知事 【撮影=阿部昌也】
「観光協会が立派なパンフレットを作って宣伝しても、来てみたらガッカリじゃしょうがない」と語る山本知事 【撮影=阿部昌也】

ーー見せ方を工夫する前に、まず現地での体験価値をどう高めるか、という順番ですね。

【山本一太知事】まさにそうです。だから私は、見せ方の前に、現場そのものをちゃんと磨くべきだと思っています。

ーー群馬の場合、その象徴的な存在が、やはり草津温泉なのかなと感じます。

【山本一太知事】今、草津温泉って、若者のメッカみたいになっているんですよ。

ーー本当に、若い方が多いですよね。歩いている層が、明らかに変わった印象があります。

【山本一太知事】そうなんです。今の草津温泉は、若いカップルが本当に多い。写真映えするという魅力もありますが、湯畑を歩く姿を見ていると「この時間を大事に使いたい」という気合というか、どこか勝負に来ている感じがある。歩き方や表情にも熱量があって、それも草津温泉の魅力のひとつだと思っています。もっと多くの方に、ぜひ来てほしい。私も大好きですから。

草津温泉の湯畑。鉄も溶かすpH2.1の強酸性泉として知られる名湯 【提供画像】
草津温泉の湯畑。鉄も溶かすpH2.1の強酸性泉として知られる名湯 【提供画像】

ーーアクセスはもちろん、滞在時の「時間の使い方」まで含めて選ばれている感じがします。

【山本一太知事】まさにそこがポイントです。私の故郷でもある草津温泉は、バブル期にかなり厳しい時代がありました。道路整備が進んで便利になり、結果として素通りされるようになってしまい、「秘湯」なんて言われたこともあった。でも、やはり歴代の町長や行政が賢かったのは、「泉質主義」を貫いたことです。

草津温泉は圧倒的にpHが低く、細菌がほとんど生きられない、世界でも稀有な温泉です。源泉の自然湧出量も日本一。その根本の価値を変えなかった。結果として、「温泉がいい」というコンテンツが磨かれ、人は遠くても訪れるようになったんです。

ーーただ流行に寄せるのではなく、強みを信じて磨き続けた結果ですね。

【山本一太知事】コンテンツ戦略には2つあると思っています。ひとつは、新しいコンテンツを時代に合わせてつくること。もうひとつは、すでにあるコンテンツを磨き上げること。その好例が「温泉文化」です。

温泉は、日本独自の文化なのに、長い間「文化」として認識されてこなかった。それを群馬県が中心になって働きかけ、「温泉文化」をユネスコ無形文化遺産の国内候補に押し上げることができました。これは、「当たり前だった価値を再発見し、戦略的に発信する」という意味で、非常にわかりやすい例だと思っています。

外に任せない。群馬県がスタジオを自ら運営する理由

ーー先ほど触れていただいた「tsulunos」について、もう少し伺いたいのですが、あえてインハウスで情報発信拠点を構えていますよね。一般的には外部に委託するケースも多い中で、なぜ自分たちでやろうと考えたのでしょうか?

【山本一太知事】外部に委託するケースが多い中で、群馬県は自前でやっています。もちろん、職員が担当している分の人件費はありますが、ここは1300万円程度で回っているんです。

tsulunosのスタジオは、県庁舎の32階展望ホールに併設されている 【提供画像】
tsulunosのスタジオは、県庁舎の32階展望ホールに併設されている 【提供画像】

ーーその規模感で回しているのは、率直に驚きです。

【山本一太知事】群馬県知事としてのPRになりますけど、これはかなり画期的なモデルだと思っています。ランニングコストとして職員の負担はありますが、それを差し引いても圧倒的に効率がいい。なぜ職員で回そうとしたかというと、群馬県の中に「クリエイティブ集団」をつくりたかったからです。

ひと言で群馬県といっても、職場は県庁だけでなく、地域の事務所や、試験研究機関、農業や公共事業の現場、児童相談所など、さまざまな部署があり、自治体は職員が数年ごとに異動することが多いため、ジェネラリストを育てる文化があります。そうした課題はありつつも、デジタル戦略、特に動画の発信力が世の中を動かす時代に、県の中にクリエイティブ集団を持つことには大きな意味がある。当たり前のように自分たちで番組をつくっていますが、それは決して当たり前ではないんです。ここでもしコンサルティングファームのような機能までつくれたら、最強ですよ。

ーー「県の中にクリエイティブ集団をつくる」という発想が、すごく大きいですね。

【山本一太知事】どこの県にもないでしょう。そうなれば、たとえば「どこかの村が困っている」となったら「じゃあ、うちのチームを派遣しますよ」と言える。しかも実績がある。正直、最初は、完成度の高くない動画もありました。「大丈夫か?」という恐ろしい動画も(笑)。でも最近は、10万回再生を超える動画を職員がつくれるようになったり、だんだん育ってきている。繰り返しになりますが、群馬県の中にクリエイティブ集団をつくることが重要なんです。

tsulunosのTikTokアカウントは「TikTok上半期トレンド大賞2025」で特別賞を受賞した 【撮影=阿部昌也】
tsulunosのTikTokアカウントは「TikTok上半期トレンド大賞2025」で特別賞を受賞した 【撮影=阿部昌也】

「クリエイティブ」というのは本当に大きなキーワードなんです。県として、デジタル・クリエイティブ産業を新しくつくろうとしていて、そこにもつながっていく。だから、なぜインハウスでやるのかと聞かれたら、答えはひとつです。「最強だから」。群馬県以外に、こういう形はないと思っています。

ーー発信を続けていく中で、県内外の群馬ファンについて、何か変化を感じることはありますか?

【山本一太知事】ファンは確実に増えていると感じています。まず、移住希望地ランキングで1位になったこと。実際の移住者数も、急増ではないですが、過去最高を更新し続けています。

ーーここまでの話を伺うと、発信がしっかりと実感値、結果に結びついている感じがします。

【山本一太知事】イメージというのは、自己実現するところがあるんですよね。かつては「どこにでもある県」だったかもしれない。でも、この6年半で起爆した。移住希望地ランキング1位は、常連の静岡、長野、山梨、福岡を抑えての結果です。「名前は知っている」から「選択肢として本気で考えられる」段階に入った、と言っていいと思います。さらに、2022年度の名目経済成長率は6.7%。平均が約3%というなかで圧倒的でした。県民ひとりあたりの所得も過去最高の5位。名目GDPの成長率も、3年前のデータですが全国1位でした。要するに「仕事も暮らしも、手応えが出始めている」ということです。

山本知事が就任した6年半の間で、群馬県のブランド力は大きく向上した 【撮影=阿部昌也】
山本知事が就任した6年半の間で、群馬県のブランド力は大きく向上した 【撮影=阿部昌也】

それに、テレビやWebメディア、今回のウォーカープラスを含め、群馬県の露出は明らかに増えている。これは県民のプライドにつながると思っています。「名目GDP成長率1位」「移住希望地ランキング1位」「ネット発信力トップクラス」。こういう言葉が並んできているのは、いい流れです。勢いは確実にある。

それに、これは私の手柄ではないですが、群馬県の高校が野球とサッカーという日本で極めて人気の高いスポーツで、2024年にそれぞれ全国優勝した(※健大高崎/2024年春のセンバツ高校野球優勝、前橋育英/第103回全国高等学校サッカー選手権大会優勝)。そういう流れも含めて、今の群馬には、いい空気があると思っています。

全国No.1になった、群馬県の移住戦略

ーー移住という観点で伺いたいです。観光地としての魅力とは別に、実際に「住む」場所としての魅力、住み続けたいと思ってもらうための工夫やアプローチについて、どのように考えていらっしゃいますか?

【山本一太知事】ようやく群馬県が移住希望地ランキング1位になりましたけど、次に10位なんてことになったら大変ですよね(笑)。連覇というわけじゃないけれど、勝ったあとに「守る」ほうが、やっぱり難しい。だから、そこはしっかり取り組まなきゃいけないと思っています。実際に移住してきた方々の話を聞いてみると、キーワードは「相談体制」なんですよ。群馬県の人は、基本的に気さくで親切なんだけど、移住した直後って、どうしても知り合いがいない。

ーー条件面のよさだけでは、埋まらない部分ですよね。

【山本一太知事】そうなんです。この間、東京交通会館で行った移住フェアで、群馬県に移住したお二人と議論したんです。二人ともすごく明るい方で、今は友達も増えたと言っていました。でも、移住してきたばかりの頃は、やっぱり知り合いがいなかった。

一応、いろいろなセミナーはやっているんだけど、なかなか情報が届かないという声もあったんですよね。自然もあるし、東京にも近い。満員電車もない。それから物価も、いいことか悪いことかわからないけど、全国で一番低い。野菜も豚肉もおいしいし、温泉もある。アピールし続けると時間が足りなくなるので、これ以上はやめますけど(笑)。

群馬への移住を考える人のためのライフスタイルWebマガジン「ぐんまな日々」。移住のための相談窓口や、移住のために知っておきたい情報が満載 【提供画像】
群馬への移住を考える人のためのライフスタイルWebマガジン「ぐんまな日々」。移住のための相談窓口や、移住のために知っておきたい情報が満載 【提供画像】

ーーいわゆる「スペック」は、もう十分に高い。

【山本一太知事】だからこそ、そういう「いいところ」がある前提で、もう一歩、地域にうまく溶け込める仕組みがあれば「もっといいな」という話だったんです。群馬県としても、移住してきた方々と地域の人をつなぐ仕組みの部分はもっと力を入れていきたいと思っています。「群馬県を選んでよかった」「周りの人が親切だな」と、そう感じてもらえるようにと考えています。

実際、最初はなかなかコミュニティに溶け込みにくかったけれど、そうした仕組みがあったことで、たとえば駐在所の方や郵便局員さんなど、いろいろな人と知り合えた、という話も聞くんです。

ーー暮らしの中で、人と人が自然につながる導線があるかどうか、ということですね。

【山本一太知事】そう。そういう出会いの場を、もっと充実させていければ、群馬県への移住者は、さらに増えていくと思います。

エンタメがつくる、若い世代と群馬県の未来

ーー先ほどクリエイティブの話も出ましたが、特にこれからの若い世代は、仕事と暮らしを切り分けずに考えているケースが多い印象があります。そうした世代が、群馬県を選ぶ決定打になるのは、どんな点だとお考えでしょうか?

【山本一太知事】若い世代が群馬県を選ぶというのは、移住だけの話じゃないと思っています。ただ、北関東全体の傾向として、若い女性が東京に出ていってしまう、県外に転出するケースが多い。これは群馬だけじゃなくて、栃木も茨城も同じです。では、なぜデジタル・クリエイティブ産業なのか。群馬県のメイン産業は、やはり製造業です。太田市にはスバルがあって、自動車関連の部品をつくっている企業も多い。製造業は、群馬県の強みであり、誇りなんですよ。

GDPで見ても、製造業が占める割合は3割を超えています。普通の県だと2割くらいですが、群馬県は愛知県や広島県と同じように、自動車産業があるから3割を超えている。だから、製造業はこれからも大事にします。ものづくりは、群馬県の誇りです。

「もちろん農業も観光も、群馬県はすごく盛んなんです」とそのほかの産業も魅力と語る 【撮影=阿部昌也】
「もちろん農業も観光も、群馬県はすごく盛んなんです」とそのほかの産業も魅力と語る 【撮影=阿部昌也】

ーーまずは、これまで積み上げてきた強みをきちんと認める、ということですね。

【山本一太知事】そう。ただ、それだけでいいのか、という話です。いわゆるトランプ関税の影響で、スバルも大変な時期がありました。やっぱり「一本足打法」はダメなんですよ。じゃあ、もう一本、柱をつくろうと考えたときに、もちろん農業も観光も、群馬県はすごく盛んです。そのうえで、若い人たちを引き付ける決定打として考えたのが「デジタル・クリエイティブ産業」なんです。

これは群馬県がつくった言葉で、デジタルとクリエイティブが融合している、という意味です。ウォーカープラスも、我々から見ればデジタル・クリエイティブ産業の一員なんですよ。今はもう、森羅万象がデジタルにつながっている時代で、出版社だってデジタルじゃないですか。そして、デジタル・クリエイティブ産業の中核は何かというと、IT企業だけじゃない。製造業だってクリエイティブだし、行き着くところはエンタメなんですよ、エンタメ。群馬県は、エンタメの拠点になろうと思っています。たとえば、どう考えても映画のマーケットって、圧倒的じゃないですか。

それと、これもあちこちで話しているんですが、今から半年ほど前の日経新聞に、とても象徴的な記事が出ました。日本を代表する自動車企業9社の時価総額を、エンタメ系の9社が初めて上回ったんです。ソニー、任天堂、バンダイナムコ、コナミ。日本の海外向けコンテンツ産業の市場規模は今、5.8兆円規模。半導体よりも上です。つまり、エンタメはもはや“おまけ”ではなく、日本の基幹産業のひとつになっているんです。

山本知事は、「群馬県は、コンテンツ産業やエンタメ産業の先頭を走りたい」と語尾を強めて語ってくれた 【撮影=阿部昌也】
山本知事は、「群馬県は、コンテンツ産業やエンタメ産業の先頭を走りたい」と語尾を強めて語ってくれた 【撮影=阿部昌也】

ーー数字で見ると、流れがはっきりしますね。

【山本一太知事】一方、自動車産業の海外売上は約20兆円。経産省は2033年にコンテンツ産業の海外売上を20兆円規模にする目標を掲げています。そうなれば自動車と肩を並べる。私は、日本の勝ち筋はここにしかないと思っています。そして、群馬県がそのエンタメの中核を担うべきだと考えている。そして、そこを先頭で走りたい。知事というのは、どの県でもそうですが、トップセールスマンの役割があります。東京に行って、いろいろな企業を訪ねて、「どうですか、群馬と何か一緒にやりませんか」と声をかける。群馬県とコラボできそうなところには積極的に足を運んでいます。

それから、エンタメ業界でいえば、やはり映画業界。そうした業界のトップにも実際に会いに行って、「群馬県のデジタルを一緒にやりませんか」とストレートに話しています。

実際、エンタメにここまで本気で取り組んでいるのは、群馬県くらいじゃないかなと思っています。だから、大型映画のロケも次々と入ってきている。ロケは本当に大事なんです。もともとハリウッドだって、最初はただの砂漠でした。天気がよくて撮影がしやすいから人が集まり、結果として産業になった。同じように、群馬県でもロケをきっかけにエコシステムをつくっていく。ヒット作がひとつ出れば、自然と回り始めると考えています。

若者はやっぱりエンタメが好きなんですよ。群馬県にエンタメ産業が根づけば、若い人、特に若い女性も「おもしろそう」と感じてくれるはずです。若者が残ると、「クリエイティブ」を大事にする人が増える。そうすると、農業も観光も製造業も、全部がクリエイティブになっていく。実は、あまり気づかれていませんが、『はたらく細胞』や『リボルバー・リリー』、『総理の夫』、Netflixオリジナルの『浅草キッド』も群馬県で撮影されているんです。

ーー話題作がたくさんありますね。

【山本一太知事】次々とロケの話が届くようになっています。高崎に「Gメッセ群馬」という施設がありますが、そこをある程度改修して、用途を変えていくプランがあります。オンリーワンの施設にしていこうという発想です。たとえば、映画のセットを組めるようにするとか、ほかにはない使い方をしていく。そうやって、デジタル・クリエイティブ産業をつくっていくんです。

高崎市にあるコンベンションセンター「Gメッセ群馬」 【提供画像】
高崎市にあるコンベンションセンター「Gメッセ群馬」 【提供画像】

さらに、そのデジタル・クリエイティブ産業を支える人材育成の仕組みもつくる。「tsukurun」や「TUMO」といったデジタルクリエイティブに触れることができる環境を実際に持っているのも、群馬県だけです。こうした拠点を構え、環境を整えることで、県内だけでなく、県外からも若者が「群馬に来たい」と思ってくれるようになります。

さらに、「デジタルクリエイティブスクール」というものをつくろうと思っています。エンタメが成功するためには、やはりアカデミックな機関がないとダメなんですよ。南カリフォルニア大学の映画芸術学部のような最高峰のものはもちろんわかりやすいですが、こうやってエコシステムが回るようになったら、他県から「群馬県に来たい」という人が増えると考えています。そこが実は、観光も含めた、デジタル・クリエイティブ産業の狙いにつながるんです。

温泉地から始まる、新しい対話の場「湯けむりフォーラム」

ーー知事のおっしゃっているエンタメ、クリエイティブという流れで、「湯けむりフォーラム」についても伺いたいです。実際、メディアやエンタメを軸に、さまざまなクリエイティブ系のプログラムが用意されていますよね。そもそも、どんな構想で立ち上げたフォーラムなんでしょうか?

【山本一太知事】正直に言うと、こういうフォーラムって、自治体があちこちでやっていて、どこにでもありそうなものが多いんですよね。

群馬県でやるなら、ほかと同じことをやっても意味がないと思っていました。年に一度、有識者が集まって議論する場をつくるにしても、「これは群馬でしかできない」と言えるものにしなきゃいけない。そう考えて準備を進めていたら、途中でコロナにぶつかってしまった。でも、試行錯誤を重ねながら続けてきて、今回がリアル開催としては4回目になります。毎回、少しずつですが、確実に進化してきました。最大の特徴は、職員が主体になって運営していることです。

「湯けむりフォーラム」に二人の友人を招いたことがあります。ひとりは、いわゆる「ダボス会議」、世界経済フォーラムの運営に関わっている人。もうひとりは「シャングリラ・ダイアローグ」という、アジアの防衛大臣会議を主催しているIISS(国際戦略研究所)というシンクタンクに関わっている人物です。その二人が口をそろえて驚いていたのが、「企画構想をどこにも委託していない」という点でした。

未来を考えるトークセッションからエンタメまで、さまざまなコンテンツを通して、新しいムーブメントを創造する「湯けむりフォーラム」 【提供画像】
未来を考えるトークセッションからエンタメまで、さまざまなコンテンツを通して、新しいムーブメントを創造する「湯けむりフォーラム」 【提供画像】

彼らから「これを自治体の職員だけでやるなんて、普通はあり得ない」と言われました。実際、職員は相当大変ですし、知事戦略部なんて本当にギリギリで回しています。でも、そうやって続けてきた中で、途中からデジタルやクリエイティブという軸が、だんだんと明確な構想になってきました。

そうして続けているうちに、少しずつフォーラムのプレステージも上がってきました。たとえば去年は、東映の吉村(文雄)社長が一晩泊まりで参加してくれた。夜にこっそり、「東映アニメーション、群馬どうですか?」とささやいたりしてね(笑)。それから、今回は東宝の松岡(宏泰)社長にも来ていただきました。松岡さん、なかなか地方には来ないと思います。ゴジラ研究家でもあるので、ゴジラの話ばかりしていましたけど(笑)。

さらに言うと、普通の自治体のフォーラムには、まず来ないような方々も来ています。映画の世界で最高峰の南カリフォルニア大学・映画芸術学部の副学部長が来たり、ニューヨークフィルムアカデミーのCEOや校長が来たり。そういう意味では、かなり“普通じゃない”状況になってきている。だからこそ、「湯けむりフォーラム」は、少しずつですが、オンリーワンの存在になりつつあると感じています。

ーー地方発の取り組みでありながら、最初から世界基準の人たちと話をしている。その距離感が、ほかとは決定的な違いですね。

【山本一太知事】私が知事に就任したとき、まずみんなに伝えたのが「“劣化版東京”をつくるな」ということでした。地方自治体が一番陥りやすい落とし穴は、まさにこの“劣化版東京”なんです。昔は、村長や町長が「俺がいるうちに、でっかい風呂をつくるんだ」みたいな感覚で、巨大な箱ものをつくって、結果的に無用の長物になるケースが多かった。でも、実は今も似たような感覚が残っているんです。

たとえば、東京でマラソンが流行っている、東京でこういう施設が流行っていると聞くと、「じゃあ、うちもやろう」と、すぐにまねをしようとする。でも本家より、どうしたってクオリティは落ちる。つまり「劣化した状態」です。そんなものに観光客が足を運ぶわけがないでしょう。「何か似ているけど、違うな」と思われて終わりです。だから、繰り返し言ってきました。「“劣化版東京”をつくるな」と。

規模では東京に敵わない。でも、群馬県がやる事業は、小さな予算でも大きな予算でも、すべて「群馬ならでは」のものにしようと決めました。群馬の自然や、上州人気質も含めて、あらゆる要素を強みに変える。そんなプロジェクトをやろうと、6年半言い続けてきたんです。

tsulunosのスタジオで対談が行われた 【撮影=阿部昌也】
tsulunosのスタジオで対談が行われた 【撮影=阿部昌也】

そうしたら、だんだん県職員も起爆してきた。もともと優秀なんだけど、真面目すぎたところが、いい意味で崩れてきている。今は本当に、エンジンがかかった感じになっています。湯けむりフォーラムにしても、規模だけで言えば、もっとお金をかけているフォーラムはあると思うんです。でも、東京のフォーラムでも、松岡さんやUSC(南カリフォルニア大学)の副学部長クラスの方は、なかなか来ない。

そう考えると、だんだん地方自治体の枠を超えたイベントになってきている実感があります。これを、毎回デジタルエンタメの人たちが目指して集まってくる場にしたい。

ーー職員の方が、めちゃくちゃ優秀なんだなと感じました。

【山本一太知事】職員は優秀です。ただ、自治体の職員が慎重になるのは当たり前なんですよ。税金を扱っている以上、「失敗しました、すみません」では済まない。メディアの目も厳しい。でも最近は、「失敗しても責任は自分が取る」という文化が少しずつ根付き始めています。一歩踏み込まないと、リターンはない。バッターボックスに立ち続けなきゃ、ヒットは打てないんです。

そういう感覚がだんだん共有されてきて、職員も思い切ったことを言うようになってきました。もともと優秀だったんですが、そこにスイッチが入った。今は、いい意味で起爆してきていると思います。私は心から「群馬県の職員は、全国の自治体で一番優秀だ」と思っています。

よく、私のことを「6歳児」だとか、「子どもっぽい」とか言う人がいるんですよ(笑)。1日の9割くらいは機嫌がよくて、怒ってもすぐ忘れるし、何かやっているとほかのことを忘れる。いかにも6歳児の特徴だって言われるんです。ただ、そんな「6歳児の私」だからこそ言えるのかもしれませんが、あらゆる場で「群馬県の職員はナンバーワンだ」と自信を持って言える知事は、たぶん私しかいない。ほかの知事が、そこまで職員を前面に出して褒めているのは、正直、聞いたことがありません。

だから、本当に私は幸せな人間だと思っています。あとは寝不足さえ解消すれば、人生、言うことないんですけど(笑)。

ぐんまちゃんは、群馬県の最強IPになる

ーーさっき少し触れていただいた「ぐんまちゃん」について、あらためて伺いたいと思います。紅白歌合戦にも出場して、全国的な認知もさらに一段階上がった印象がありますが、知事としては、今どのフェーズに来ていると捉えていますか?

【山本一太知事】すごいでしょう、ぐんまちゃん。めちゃめちゃやばいですよ。まさか紅白歌合戦に出るとはね。この領域には、くまモンという“神”みたいな存在がいて、ずっと神だったんだけど、最近は“半分神”くらいの距離感になってきた(笑)。

関連グッズの売り上げでいうと、くまモンが1600億円を超えていて、ぐんまちゃんも600億円を超えた、というところまで来ています。最初は全く届かない存在だったけど、だんだん近づいてきた実感はあります。

群馬県のマスコット「ぐんまちゃん」 【提供画像】
群馬県のマスコット「ぐんまちゃん」 【提供画像】

ーーすこし背中が見えてきた感じですかね。

【山本一太知事】いや、背中まではまだ見えないけど(笑)。でも、いろいろな形で追いつけると思っています。最大の戦略だったのが「アニメ化」。これ、自治体がよくつくりがちな適当なアニメじゃない。

ーーIPとして育てる覚悟があったわけですね。

【山本一太知事】やるなら、一流の人たちに、一流のアニメをつくってもらわなきゃ意味がない。そこで『クレヨンしんちゃん』の本郷みつる監督に来てもらって、声優も、群馬県出身の内田彩さんや小倉唯さんを含めて日本でも指折りのメンバーを集めた。最高の布陣でぐんまちゃんをつくりました。

1シーズンやったタイミングで、NHKの地方局がかなり力を入れてくれたんですよ。再放送もしてくれたし、あれは、ものすごい広告効果でした。

ーー作品の資産化は大きな価値になりますよね。

【山本一太知事】そうなんです。アニメになったおかげで、ロサンゼルスで毎年開かれているアニメエキスポには、自治体キャラクターの中でぐんまちゃんだけが行けるようになった。

それともうひとつが、「Crunchyroll(クランチロール)」です。ソニーの動画配信サービスで、日本のアニメやドラマを海外に届ける力を、ものすごく持っている。実際、ぐんまちゃんはクランチロールを通じて、世界の200近い国と地域で、8カ国語に翻訳されて配信されています。向こうから「ぜひやりたい」と言ってくれたんですよ。

これはもう、ずっと言っていることなんですけど、「IPビジネス」で稼ぐしかないと私は考えているんです。

もし、ぐんまちゃんがさらにブレイクしたら、膨大な売り上げが群馬県にもたらされるという 【撮影=阿部昌也】
もし、ぐんまちゃんがさらにブレイクしたら、膨大な売り上げが群馬県にもたらされるという 【撮影=阿部昌也】

「なんでデジタル?クリエイティブ?横文字ばかりだ」と言われることもあるし、「エンタメって、結局は娯楽でしょう」と言われることもある。でも、私は「違う」と言ってきました。エンタメというのは、人々がワクワクするような新しい価値を創造すること。その意味では、世の中のあらゆることは、エンタメで動いていると思っています。

ーーここまでIPを真正面から語る知事は、かなり珍しいと思います。

【山本一太知事】もし、ぐんまちゃんがクランチロールで、あと3シーズンくらい続いていたら、もっとブレイクしていたと思うんですよ。仮に、ポケモンの100分の1、あるいはキティちゃんの10分の1でもヒットしたら、それだけで、群馬県には相当な財産がもたらされる。

企業誘致を一生懸命やっても、税収が増えれば、結局は国に持っていかれる部分もあるでしょう。でも、IPは違う。ぐんまちゃんのIPとしての権利は、すべて群馬県が持っているからです。群馬県がつくって、群馬県の判断で、いつでも使える。これは本当に大きな強みです。

だからこそ、ぐんまちゃんがブレイクすれば、そのリターンは、直接、群馬県の財政や未来に返ってくる。私は、そこに大きな可能性を感じています。

メディアとつくる、群馬県のこれから

ーーたくさんお話を伺ってきましたが、そろそろ最後の質問に移りたいと思います。ここまで、知事としての戦略的な発信の大切さや、コンテンツやクリエイティブによる新しい価値の生み出し方について伺ってきました。実際にお話を聞いていると、単なる広報というより、メディアそのものをどう設計するか、という視点が強いと感じます。今日のように、「ウォーカープラス」や「ニコニコ」といった民間メディアと、群馬県という行政がタッグを組むことで、これからどんなムーブメントを仕掛けていきたいとお考えでしょうか?

同じ発信者として知事の話に耳を傾ける浅野編集長。群馬県との関係性も今回の対談でより深まった 【撮影=阿部昌也】
同じ発信者として知事の話に耳を傾ける浅野編集長。群馬県との関係性も今回の対談でより深まった 【撮影=阿部昌也】

【山本一太知事】ウォーカープラスとも、もちろん組みたいし、ニコニコとはこれまでもずっと一緒にやってきました。昔はニコニコ動画で番組も持っていましたからね。民間メディアとの連携は、本当に大事だと思っています。

かつて1970年代に、角川春樹という天才が現れましたよね。その頃、日本に初めて「メディアミックス」という言葉が広がった。映画があって、テレビがあって、本があって、それを組み合わせて展開していく。「読んでから見るか、見てから読むか」というキャッチコピーは、まさにその象徴でした。

当時、流行語大賞はなかったですが、もしあったら、当時の角川書店は相当な数のキャッチコピーを生み出していたと思います。

ーーメディアミックスという言葉が流行る前から、みんなの中で自然に共有されていたコンテンツがあったということでもあるかもしれませんね。

【山本一太知事】そうですね。そして今は、間違いなく“新しいメディアミックス”の時代に入っている。雑誌もあれば、ネット番組もあるし、テレビのようなレガシーメディアもある。だからこそ、いろいろなメディアとコラボしながら、さまざまなチャンネルを通じて、必要な人に必要な形で届けていく。それが、これからの発信の在り方だと思っています。

紅白歌合戦を何十年かぶりにちゃんと見たんですよ。正直、かなり感動しました。福山雅治さんのメドレーがあったり、「これで郷ひろみ引退しちゃうのか?」なんて思ったり。かと思えば、久保田利伸さんのメドレーがあって、次は米津玄師さんの曲。最先端のものから、往年のスターまで、本当にてんこ盛りでした。

ーー世代もジャンルも、バラエティ豊かなラインナップでしたよね。

【山本一太知事】そう、全部入ってる。でも、それって何を意味しているかというと、昔みたいに「国民的スター」がひとりで全部を背負う時代じゃなくなった、ということなんですよ。

私が小学生の頃なんて、「紅白見た?」って聞かれて、「見てない」と言ったら、クラスで話についていけなかった。視聴率も7割とかで、紅白を見ていないと人と話ができない。そんな時代でした。でも今は違う。世界は、あの頃とは比べものにならないくらい細かく分かれている。たとえば、井上尚弥選手なんて、神様みたいな存在でしょう。でも職場で「すごいよね」と言ったら、「え?誰ですか?」って返ってくる。それが今の時代です。

ーーひとりのヒーローを、みんなが同時に共有する前提がもうないんですよね。

【山本一太知事】だからこそ、ウォーカープラスじゃないと届かない人たちがいる。あらゆるメディアを使って、その場所、そのニッチに、ちゃんと届ける。それが、これからの発信の在り方です。

今、世界一のポッドキャスターって呼ばれているジョー・ローガンという人がいるんですが、『ジョー・ローガン・エクスペリエンス』という番組を持っていて、私もよく見ています。今の時代、本当に影響力を持っているオピニオンリーダーって、ああいう存在だと思うんですよ。必ずしもテレビに毎日出ているわけじゃない。でも、特定の分野で強い支持を集めている。その発信が、ものすごく効く時代になっている。

ーー行政の発信も、そうした“届く場所”を前提に設計する必要がある、ということですね。

【山本一太知事】そうそう。ウォーカープラスじゃないと届かないところ、というのも確実にある。だから今日も、喜んで話しました。好き勝手にしゃべってしまいましたけどね(笑)。

ーーいえいえ、とても楽しい時間でした。今日はありがとうございました。

群馬県知事の山本一太さん 【撮影=阿部昌也】
群馬県知事の山本一太さん 【撮影=阿部昌也】

対談を終えて

観光地としての魅力づくりにとどまらず、メディアやエンタメ、IP、人材育成までを一本の線でつなぎ、「群馬県という存在そのものをコンテンツとして捉える」。山本一太知事の言葉から感じたのは、行政の枠に収まらない発想と、現場に立ち続ける覚悟。その延長線上で、発信の形も、価値の届け方も今、大きく変わり始めている。リーダーの戦略と行動力のもとで、群馬県は、“選ばれる側”に回っていた。これからの群馬県がさらに楽しみになってきた。

インタビュー・取材=浅野祐介、取材・文=北村康行、撮影=阿部昌也

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