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正体不明の石板は「1500年前のボードゲーム」だった、AIがルール解明

  • 2026.2.12
正体不明の石板は古代のボードゲームだった / Credit:Walter Crist(Leiden University)et al., Antiquity(2026), CC BY 4.0

電気を使わずに遊べる「ボードゲーム」は今でも根強い人気があり、さまざまなタイプが存在します。

盤の上で駒を動かし、相手の出方を読み合うというシンプルな遊びは、デジタル時代になっても色あせません。

そんな「盤上の戦い」が、実は1500年以上前の古代ローマ帝国の時代(いわゆるローマ時代)にも行われていた可能性が、最新研究で示されました。

オランダ、ライデン大学(Leiden University)の研究チームは、オランダ南部ヘールレンで見つかった正体不明の石板を分析し、人工知能(AI)を用いてそのルールを再構築しました。

この研究は2026年2月11日付の『Antiquity』に掲載されています。

目次

  • 正体不明の石板は「ゲーム盤」かもしれない。AIで分析
  • 浮かび上がった「ブロッキングゲーム」の正体

正体不明の石板は「ゲーム盤」かもしれない。AIで分析

調査の対象となった石は「Object 04433」と呼ばれる白色の石灰岩板です。

サイズはおよそ21センチ×14.5センチで、楕円形に整えられ、上面には長方形の枠と4本の対角線、さらに中央を横切る1本の直線が刻まれていました。

この石は19世紀末から20世紀初頭にかけて、かつてローマ都市コリオウァルムが存在したヘールレンの地中から出土しています。

制作年代はローマ帝国の終わりごろ、約1500〜1700年前と推定されています。

しかし、この幾何学的な模様は既知のローマ時代のゲーム盤とは一致しませんでした。

そのため、これまで建築装飾の一部や舗装石の破片ではないかと考えられてきました。

転機となったのは、石の表面に見られる「摩耗」の存在です。

研究チームは顕微鏡観察と高精度の3Dスキャンを実施。

その結果、刻まれた線の上に沿って不均一な擦り傷が集中していることが判明しました。

特にある対角線では摩耗が顕著で、幅16〜18ミリほどの滑らかな帯状の痕跡が確認されています。

この幅は、同じ遺跡で見つかったローマ時代のガラス製や石製のゲーム駒の最大の直径(約20ミリ)とほぼ一致します。

つまり、駒が線の上を繰り返し「滑らされていた」可能性が高いのです。

単なる装飾や建築のガイド線であれば、このような線に沿った選択的な摩耗は生じにくいと考えられます。

さらに、石の縁が丁寧に仕上げられていることから、未完成品や作業途中の石材ではなく、完成品であったことも示唆されました。

とはいえ、どのようなゲームだったのかは依然として不明です。

そこで研究チームは、マーストリヒト大学(Maastricht University)で開発された「Ludii」という、いろいろなボードゲームをコンピュータ上で再現・解析できるソフトを使いました。

ヨーロッパで遊ばれてきた小さなボードゲームのルールを参考に、この石の盤面に合いそうな遊び方を組み合わせ、130パターンのゲーム案をつくります。

それぞれの案についてAI同士に1000回ずつ対戦させ、どの線の上をどれだけ駒が通ったかを細かく記録しました。

深く摩耗した線は使用頻度が高かったはずであり、摩耗が少ない線はあまり使われなかったはずです。

このようなシミュレーションの結果、この石板は「ブロッキングゲーム」で使われていた可能性が高いことが分かりました。

ブロッキングゲームとはいったいどんなゲームでしょうか。

浮かび上がった「ブロッキングゲーム」の正体

AIシミュレーションの結果、摩耗パターンと一致したルールはすべて「ブロッキングゲーム」と呼ばれるタイプのものでした。

ブロッキングゲームとは、相手の駒の動きを完全に封じることを目的とするゲームです。

駒の動きをAIでシミュレーション。ルールを解明 / Credit:Walter Crist(Leiden University)et al., Antiquity(2026), CC BY 4.0

駒の数は対称ではなく、例えば4対2のように片側が多くの駒を持ちます。多数側が少数側を追い詰め、逃げ場をなくすことで勝利します。

特に有力だったのは、4対2で駒が最初から盤上に配置される構成でした。

このルールでは、特定の対角線が戦略上重要な「通り道」となります。

そして実際に、石板上でもその対角線に強い摩耗が集中していました。

シミュレーションでは、この対角線がほかの線に比べてかなり頻繁に使われることが示されており、実物の傷のつき方とよく対応していたのです。

興味深いのは、ブロッキングゲームはヨーロッパでは中世以降の記録でよく知られているタイプだという点です。

北欧などで伝わる「hare and hounds(ウサギと猟犬)」型のゲームがその例ですが、ローマ時代については、ルールまで分かるはっきりした証拠はほとんどありませんでした。

今回の石板が本当にブロッキングゲームの盤面であれば、このゲームタイプの起源は数百年さかのぼる可能性があります。

もちろん、研究チームは断定していません。

それでも、石に残った傷という物理的な手がかりと、AIシミュレーションを組み合わせれば、「どんなルールならこの傷がつくのか」を筋の通った形で絞り込めることを示した点は、大きな成果だと言えます。

そして今後、ほかの未解読の盤面や遊具の解釈にも応用できる可能性があります。

1500年前のローマ人が盤上で相手を追い詰めていたかもしれないという発見は、時代を超えた「人間の遊び」の本質を感じさせます。

参考文献

Rules of unknown board game from the Roman period revealed
https://phys.org/news/2026-02-unknown-board-game-roman-period.html

With The Rules Lost For 1,500 Years, AI Learns How To Play Board Game From The Roman Empire
https://www.iflscience.com/with-the-rules-lost-for-1500-years-ai-learns-how-to-play-board-game-from-the-roman-empire-82506

元論文

Ludus Coriovalli: using artificial intelligence-driven simulations to identify rules for an ancient board game
https://doi.org/10.15184/aqy.2025.10264

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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