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「死」を具体的に考えるとは—養老孟司先生が語る、がん再発後の心の変化と日常生活

  • 2026.2.6

「死」を具体的に考えるとは—養老孟司先生が語る、がん再発後の心の変化と日常生活

2020年に心筋梗塞、2024年にはがん、そして2025年4月には再発がんが見つかった養老孟司先生。88歳を迎えたいま、治療を受けながら淡々と日々を重ねる姿を、教え子であり医師の中川恵一先生と共に綴った1冊が、いま注目を集めています。『病気と折り合う芸がいる』(養老孟司・中川恵一共著/エクスナレッジ刊)から、一部抜粋してご紹介します。第2回は、おふたりの対談。再発がんがわかったとき——。

小細胞肺がんは転移しやすく手強い。再発がわかってショックでは?

——養老先生は24年5月に小細胞肺がんが見つかりましたが、抗がん剤と放射線治療を受け、見事に回復されました。ところが25年3月、再発がんが見つかったとお聞きしました。現在まだ治療中の養老先生ですが、今日はがん専門医であり主治医のおひとりである中川先生と、がんなどをテーマにいろいろお話しいただければと思っております。

中川 小細胞肺がんは、すべてのがんの中でも手強いがんと言われています。大雑把な数字ですが、がん全体が6割治るところ、小細胞肺がんは1~2割程度とされています。にもかかわらず、養老先生のがんはいったん消えてしまいました。その経緯については、24年に出版された『養老先生、がんになる』にまとめさせていただきました。

しかし、大変残念なことに、今回再発が見つかりました。正直言って状況は楽観できないところもあります。再発と告げられたときのお気持ちについてお話しいただけますでしょうか?

養老 がんに再発は付き物ですし、自分でも完全に治っていたとは思っていませんでしたから、そんなものかなあと……。

中川 でも小細胞肺がんとしては、とてもよい経過だったんです。何がよかったのかというと、小細胞肺がんは転移しやすいのに、それがなかったからです。多くの場合、全身に転移するのが一般的です。

特に脳に転移しやすく、教科書的には脳に予防的に放射線を照射するのが治療の定石となっています。それは検査上、画像に映っていなくても、転移があるかもしれないと考えるからです。

しかし、養老先生の場合、脳はもちろん、他の臓器にも転移がまったく見つかりませんでした。経過がすごくよかったと言ってよいと思います。それなのに、再発された。やっぱりショックだったんじゃないですか?

養老 いや。最初から覚悟していましたからね。それに、昨年の治療が終わってからは、自覚症状があって病院に通っていたわけじゃありません。いわば病院に通わされていたわけです。ドクターから「がんがありますよ」と言われたけど、本人にはわかりません。ショックもなにもありませんよ。

中川 普通の人なら小細胞肺がんと言われただけでも相当ショックですし、再発があったらもっとショックを受けると思います。私も早期の膀胱がんを経験していますが、残りの人生を大切に生きようと思ったからでしょうか、普段飲むワインも今までのものよりも少し値段の高いものにしようと思い、しばらく実行していました。養老先生は、そういった心境や行動の変化はありませんか?

養老 あればいいんだけどね(笑)。いずれダメになると思っていたことが具体的になった、ということくらいですかね。みんな自分が死ぬときのことをあまり具体的に考えていないのが普通ですよね。「誰でもいつか死ぬものだ」と言われたら、「わかってますよ」と答えるでしょう。

その「わかってますよ」というときの具体性が違ってきました。病気が見つかって、放っておいたらまずいとドクターに言われるわけです。そうすると、死というものを具体的に考えるようになります。いつ、どういう形で俺はダメになるのか。具体的というのは、そういうことです。

——若い人や健康な人は、自分が死ぬときのことを考えないのが普通だと思いますが、がんになったら考えるようになると言いますよね?

養老 病気がなければ、自分の死はなかなか具体的なものにはなりません。でも、がんと診断されて治療に入れば考えるでしょう。それは死がより具体的になったからです。

どこかで俺の人生は終わる。そんなの当たり前のことで、ずっと前からわかっていることです。具体的ではないから意識していなかっただけのこと。がんの治療のために病院に通うと、死が目の前に現れる。具体的になってくる。そのときに、人はいろんなことを考えるようになるのでしょう。

Profile

養老孟司(ようろう・たけし)
1937(昭和12)年、神奈川県鎌倉生まれ。解剖学者。東京大学医学部卒。東京大学名誉教授。'89(平成元)年『からだの見方』でサントリー学芸賞受賞。新潮新書『バカの壁』が大ヒット、460万部超えのベストセラーとなる。また新語・流行語大賞、毎日出版文化賞特別賞を受賞した。『養老先生、病院へ行く』『唯脳論』『かけがえのないもの』『手入れという思想』『人生の壁』『まる ありがとう』『ものがわかるということ』など著書多数。

中川恵一(なかがわ・けいいち)
1960年(昭和35)年、東京都月島生まれ。東京大学医学部医学科卒業後、同大学医学部放射線医学教室入局。社会保険中央総合病院放射線科、東京大学医学部放射線医学教室助手、専任講師、准教授を経て、現在、東京大学大学院医学系研究科 特任教授。2003年~2014年、東京大学医学部附属病院緩和ケア診療部長を兼任。共・著書に『医者にがんと言われたら最初に読む本』『養老先生、病院へ行く』『人生を変える健康学がんを学んで元気に100歳』など多数。

この記事は『病気と折り合う芸がいる』養老孟司・中川恵一共著(エクスナレッジ刊)の内容を、ウェブ記事用に再編集したものです。

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