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VOGUEエディターが「服を1年間買わない」生活に挑戦。ワードローブは蘇るのか?

  • 2025.12.25

ファッション業界で約20年にわたりキャリアを積み、その大半を『Vogue』で過ごしてきた私は、服が持つ変容の力を強く信じてきたひとりだ。けれど近年、ファッション産業が地球環境に与える多大な影響を実感するようになり、同時に、かつての自分がいかに多くの服を買ってきたかを思い、少なからず気恥ずかしさを覚えるようになった。

そこで私は、1年間、新しい服やファッション小物を一切買わず、すでに持っているものを修復やお直しによって活かすという決断をした。虫食いのあるステラ マッカートニーSTELLA McCARTNEY)のジャンプスーツは直せるのか。裏地が破れてからクローゼットの奥で眠っているジミー チュウJIMMY CHOO)のニーハイブーツは、再び履けるようになるのか。亡き父のものだったスーツを自分のサイズに仕立て直したり、イニシャルを入れてパーソナライズすることは可能なのか……。

スタイリストのエリザベス・サルツマンが『Vanity Fair』のファッション・ディレクターだった頃は、彼女の助言を頼りにサイズ調整をしてもらうことはあったが、今回の試みには、それ以上の覚悟が必要だった。

ラグジュアリーを考えるうえで、「修復」という視点は欠かせない。上質なアイテムは一生ものとして作られているとはいえ、年月とともにお手入れや修復は不可欠になる。エルメスHERMÈS)やシャネルCHANEL)、バーバリーBURBERRY)、マルベリーMULBERRY)といったブランドは長年にわたり、顧客との関係性を育む一環としてアフターケアサービスを提供してきた。近年では、NET-A-PORTERがリペアプラットフォーム「The Seam」と提携し、イギリスの百貨店セルフリッジズも「Sojo」と組んで、自宅集荷・配送による修理やお直しサービスを展開している。

自分のサイズに仕立て直した、亡き父のリチャード・ジェームスのスーツを着て。
自分のサイズに仕立て直した、亡き父のリチャード・ジェームスのスーツを着て。

ラグジュアリーに限らず、パタゴニアPATAGONIA)やザ・ノース・フェイスTHE NORTH FACE)といったパフォーマンスウェアブランドも自社で修理サービスを行っており、スニーカーブランドのヴェジャ(VEJA)はロンドンを含む多くの店舗で、他ブランドの靴の修理まで引き受けている。

サステナビリティの観点から正しいだけでなく、ブランド側にもメリットがある。ロロ・ピアーナLORO PIANA)やマージュMAJE)といったブランドとも連携するアフターケア・プラットフォーム「Save Your Wardrobe」の共同創業者ハスナ・クルダは、「ブランドを通じて修理ができると、顧客との信頼関係がより強まる」と語る。

このチャレンジを始めた当初、ワードローブを修復・再生するという行為は、まさに未知の領域だった。ボタン付けや裾上げさえ自信がなかったが、今ではどちらもできるようになった。ただ、一昔前までは当たり前だったこうしたスキルは、もはや多くの人に受け継がれていない。新しいものを買うほうが、ずっと簡単だからだ。

改めてワードローブを見直してみると、持っていることすら忘れていた服、サイズが合わなくなった服、修復待ちのまま放置していた服が20点以上も見つかった。裾がほつれたパンツ4本は、修復とクリーニング代を合わせて58ポンド(約12,000円)。ボタンが緩んだジョゼフJOSEPH)のベージュのドレスは、クリーニング込みで20ポンド(約4,000円)だった。さらに、数多くの小さな虫食い穴は、1点あたり10ポンド(約2,000円)でテーラーに修復してもらった。

修復前のシャネルのフラットシューズ。
修復前のシャネルのフラットシューズ。
クリーニングと染め直しを経た、修復後のシューズ。
クリーニングと染め直しを経た、修復後のシューズ。

靴も4足、60年の歴史を持つ北ロンドンの専門店「Classic Shoe Repair」に依頼した。シャネルのバレエシューズはクリーニングと染め直しで80ポンド(約17,000円)、同じくシャネルのスエードブーツはクリーニングとサテンのトゥ交換で120ポンド(約25,000円)、アイデ(AEYDE)のアンクルブーツはヒール交換で30ポンド(約6,300円)。そして、特に愛用してきたジミー チュウのブーツは、裏地修理に240英ポンド。高額ではあるが、定価1,300ポンド(約274,000円)、10年履き込み、これからも履き続けることを考えれば妥当だ。同じようなブーツを新調すれば1,800ポンド(約379,000円)近くかかる。ドライクリーニング代をためらわないのなら、修復費も“ファッションの車検”だと考えることにした。

お直しでは、8年前に購入したものの丈が長すぎたステラ マッカートニーのツイードトレンチを、60ポンド(約12,000円)で調整。また、亡き父のものだったリチャード・ジェームス(RICHARD JAMES)のスーツ数着にも手を入れた。クローゼットに眠らせつつ、時折ジャケットを羽織って父を思い出していたが、この機会にパンツを直し、スーツとして着ることにした。近所のクリーニング店のテーラー(意外と優秀なことが多い)に60ポンド(約12,000円)で依頼。新しくリチャード・ジェームスのスーツを買うよりもずっと手が届きやすい。ジャケット単体で着るのもいいが、上下で着ると、それは“記憶を纏う”ような感覚になる。

修復前のジミー チュウのブーツ。
修復前のジミー チュウのブーツ。
修復を終えた、同じブーツ。
修復を終えた、同じブーツ。

既存の服の寿命を延ばすことは、新しい服を買う以上に想像力を必要とする。年間5点しか服を買わないと決めているティファニー・ダークも、リペアという行為に喜びを見出しているひとりだ。彼女はSave Your Wardrobeを通じて、破れたデニムを刺し子という日本の刺繍技法で修復したという。「何を買い、どうケアするかを意識することは、とてもクリエイティブな行為」と語る。

正直なところ、1年間まったく新しいものを買わずに過ごすのは、もっと難しいだろうと思っていた。けれど実際には、驚くほどシンプルだった。余計なノイズが削ぎ落とされ、「本当に必要?」と自分に問いかける軸が、くっきりと浮かび上がったのだ。その答えは、少なくとも今の時点では、はっきりとした「ノー」。

代わりに、長く袖を通していなかった服を修復し、サイズの合わないものを仕立て直すという選択は、手持ちのワードローブを蘇らせ、新しい価値を見出すことに繋がった。

1年が終わろうとする今、再び買い物をすることを考える。慎重に、少しずつだろうか。今では購入前に必ずブランドの修理ポリシーを確認し、定期的にワードローブの見直しもしている。厳選した一着を迎える高揚感は変わらない。けれど、使い込んだお気に入りを蘇らせる喜びも、それに劣らず満たされるものだと、今は知っている。

Text: EMILY ZAK Adaptation: Emika Ohta Seger, Saori Yoshida

From: VOGUE.UK

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