1. トップ
  2. 恋愛
  3. 「科学を信じない人」がいる理由は科学者が気に食わないから

「科学を信じない人」がいる理由は科学者が気に食わないから

  • 2025.12.21
Credit:canva

ワクチン、安全基準、気候変動など、私たちが直面した多くの社会問題において、世の中には学術的に信頼性の高い報告を信用せず、専門家以外の人が出す不正確な情報を当てにする人々が一定数存在してきました。

これまで世の中では、こうした問題に対して、情報に対する知識や合理的な判断力が不足した人は、科学者の出す情報を理解出来ないから信じないのだろうと考えてきました。

しかし、いくら知識が不足していたとしても、コロナパンデミックのような状況下において、一種の社会現象になるほど多くの人が、科学を信用せず、専門家や科学者のアドバイスと、逆の行動を取った理由は説明がつきません。

そこで米国ロチェスター大学(University of Rochester)の政治学者ジェームズ・ドラックマン(James Druckman)氏らの研究チームは、この問題の背景にあるのは、「知識不足」ではなく、「科学者という人たちが自分たちとあまりに違うため」信用できないだけなのではないかと考え、実際にそのような傾向が世の中に潜んでいるかどうかを大規模なデータを用いて検証しました。

社会心理学では、人は自分と似ていない集団を信頼しにくいことが示されています。当然のことながら科学者は一般の人たちと比較して、高学歴であり、所得水準も高い傾向があります。こうした一般と比べて偏った差が、科学者は自分たちとはまるで別の人間だという感覚を生み出し、その結果、科学自体に不信感を生む原因になっている可能性があるのです。

この研究の詳細は、2025年12月8日付けで科学雑誌『Nature Human Behaviour』に掲載されています。

目次

  • 「科学」とは何を意味するのか?
  • 「科学者が嫌い」な人は生存率まで下がる
  • この研究のネット掲示板風解説

「科学」とは何を意味するのか?

調査を行うと、世の中には一定数の「科学を信じない」という人々が存在します。それがコロナパンデミックの状況下においては、大きな社会的混乱も起こしました。

ではこの「科学を信じない」という人たちはなんなのでしょうか?

この問題を考える前に、まず「科学」とは何か? という点をはっきりさせておきましょう。

科学とはあくまで可能性について論じる世界であり、真実を語ることが目的ではありません。みんなで見つかった事実を報告し合って、現状もっとも真実に近いと考えられる解釈を探すのが目的です。

科学の話をする人はよく「コンセンサス(合意)」という言葉を使いますが、これは多くのコンセンサスを得ている報告ほど、より真実に近いだろうということを意味しています。

そのため現在主流の考え方だけを信じる必要はないのですが、それ故に科学の世界に入れてもらうためには、すべての人が検証できるように自身のアイデアを報告する必要があります。

それは定量的なデータ(客観的な比較が可能な数値化されたデータ)と、どうやってそのデータを手に入れたかの明確な実験方法(他の人が同じ実験を再現するための条件)が示されていることです。

この要件を満たさずに、誰にも確認や検証が出来ない状態で、ただ勝手に新しい理論を展開しているものを疑似科学(似非科学)と呼びます。

たまに科学の世界でも間違った報告が放置されることがありますが、それは興味を持つ人が少なすぎて誰も検証していないからです。逆に言うと非常にホットな話題については、科学の世界でも活発に検証や議論が繰り返されるため、間違った理論ほど排除されやすい自浄作用を生みます。

以前、STAP細胞という研究で捏造したデータが報告されたことがありましたが、その報告はちゃんと比較可能な定量的データが示されており、実験方法もちゃんと示されていたので、「これは本当なのか?」と疑った複数の研究者が再現実験を行った結果、全然報告通りにならないということを示したので否定されました。

そのため「STAP細胞は疑似科学だ」という人がいますが、STAP細胞は間違いではあったものの、きちんと科学の手続きに則って否定されているので、これは科学と呼ぶことができます。このように科学は間違っていた場合、否定が可能であることが絶対の条件です。

きちんと科学のルールに従って報告をしていないので、誰にも否定も同意も出来ない状態のものが科学以外のもの、疑似科学となるのです。

なので、科学とは信じるとか信じないという性質のものではありません。専門的な知識を持った人たちがあらゆる可能性を疑って検証している世界そのものを指すので、そもそも「科学を信じない」という考え方自体があまり意味を成していません。

つまり「科学を信じない」という言葉の裏に潜むのは、「科学に関わっている人たちへの不信感」であり、知識や論理性の問題ではないと考えられるのです。

確かに社会心理学においては、人は自分と似ていない集団を信頼しにくいということが示されています。

そこで今回の研究チームは、こうした心理作用が実際に科学の不信と結びついているかを大きく3つのステップに分けて調査しました。すると非常に興味深い事実が見えてきたのです。

「科学者が嫌い」な人は生存率まで下がる

STEP1:科学者と一般人の属性を比較

まず研究チームは、アメリカ社会全体と、科学者集団の属性を大規模データで比較しました。

その結果、科学者は一般人口と比べて、男性、白人、都市部出身、高学歴家庭出身、非宗教的な人が著しく多いことが確認されました。

たとえばノーベル賞受賞者の構成を見ると、男性が占めており、白人が大多数です。現代の科学者全体でも傾向はやや緩和されているものの、依然として、女性、黒人やヒスパニック、農村部出身者、宗教的な人、社会経済的に不利な背景を持つ人は少数派です。

つまり科学者という「知識がある人の集まり」は、社会的・文化的にかなり偏った集団になっているのです。

では、この偏りは、科学者への信頼と実際関連しているのでしょうか。


STEP2:『科学者に対して感じる心理的距離』が、信頼と行動を左右していた

まず研究チームは、科学者と一般社会との人口構成のずれが、実際に科学者への不信につながっているのかを検証しました。

そのために用いられたのが、1970年代から半世紀以上にわたって継続されてきた全国規模の社会調査データです。

このデータには科学者への信頼(科学者・研究者は正しい対応をすると思うか)に関する調査も含まれていました。

このデータを分析すると、女性、黒人、農村部居住者、宗教的な人、低学歴・低所得層といった、科学者の世界では少数派になりやすい属性の人ほど、科学者を信頼しにくいという傾向が、一貫して確認されました。

重要なのは、この傾向が一時的なものではなく、半世紀以上ほとんど変化せずに維持されていた点です。

つまり科学者への不信は、最近のSNSや政治対立によって生まれたものではなく、社会の中に長く埋め込まれてきた構造的な特徴だと考えられます。

この信頼の差は、個人レベルだけでなく、州ごとにもはっきりとした傾向として現れていました

州によって、農村部居住者が多いか、学歴や所得の分布がどうなっているか、宗教的な人がどれくらいいるかといった人口構成は大きく異なります。

その結果、「科学者を信頼しやすい属性の人が多い州」と「信頼しにくい属性の人が多い州」が、長年にわたって分かれていたのです。

そして研究チームは、この長期的に固定された信頼の差が、コロナパンデミックという非常事態でどのような結果をもたらしたのかを検証しました。

その結果、2020年時点で科学者を強く信頼していた人ほど、翌年にワクチンを接種している確率が高いことが分かりました。この影響は、当時大きく注目されていた政治的立場よりも大きく、科学者への信頼そのものが行動を左右していたことを示しています。

さらに州レベルで見ると、半世紀以上にわたって科学者への信頼が低くなりやすかった州ほど、ワクチン接種率が低く、結果としてCOVID-19による死亡率が高いという関係まで確認されたのです。

これは、パンデミック時の混乱やSNS上の誤情報だけでは説明できません。科学者への信頼の差は、危機が起きるずっと以前から社会の中に組み込まれており、その「構造」が、非常事態において実際の生死を分ける行動の差にまで現れていることをこの研究は示しています。


STEP3:「自分と似た科学者」は、本当に信頼されるのか

最後に研究チームは、「科学者の属性を自分に近づけると科学不信は解消されるのか」という疑問を、実験で検証しました。

参加者には、経歴や背景が異なる2人の架空の科学者が提示され、ワクチンを打つべきかの助言(または主治医として選ぶ医師)について、どちらを選ぶかを回答しました。

科学者のプロフィールには、性別、人種、宗教性、育った地域、社会階層、学歴、研究経験といった要素が組み合わされていました。

その結果、最も重視されたのは研究経験でしたが、それに加えて、自分と属性が重なる科学者は選ばれやすい傾向がありました。

特に顕著だったのは、女性、黒人やヒスパニック、農村部出身者、低い社会階層出身者など、科学界では少数派の属性を持つ人ほど、属性の一致を重視するという点です。

さらに興味深いのは、実在しない架空の科学者であっても、実験の中で「自分と似た属性の科学者」が繰り返し示されたことで、参加者の「科学者という集団そのもの」に対する信頼が実験後に上昇したということです。

これは、科学者の中に「自分と同じ背景を持つ人が存在する」と認識するだけで、科学者という集団そのものへの心理的に距離が縮まり、結果として信頼が高まることを示しています。


心理学が示す「距離と信頼」の関係

この研究が示したのは、「科学を信じない人がいる理由」は、知識や理性の欠如では説明できないという事実です。

多くの場合、その正体は「自分とはあまりにも違う人たちが語っている世界だ」という感覚、つまり科学者という集団への心理的な距離感や違和感なのです。

人が似ている相手を信頼しやすいという傾向は、社会心理学では古くから知られています。これは「主要価値類似性モデル」と呼ばれ、性別や出身地、生活経験などの共通点は、「この人は自分のことを分かってくれそうだ」という感覚を生みやすく、それが信頼につながることがあります。

また、身近に科学者がいるかどうか、たとえば家族や友人に科学者がいるかといった“つながりの近さ”も重要です。

遠い存在に感じる人より、接点がある人の方が話を受け入れやすくなります。これは情報の正確さとは独立した心理的な効果で、すべての情報を自力で判断できない現代社会では合理的な近道と言えます。

たとえば、子どもは大人である親や教師よりも、同年代の友達の言葉を優先してしまうことがありますが、これはこの理論のわかりやすい事例です。「自分のことを分かってくれる」という感覚は、「情報の確かさ」そのものとは別の角度から信頼を左右します。

そのため、研究の報告が報道された際に、女性研究者であるとか、研究者が貧困家庭で育った、などのプロフィールを紹介する必要があるのか、と疑問を感じる人もいるでしょうが、科学界の多様性が可視化されることには、倫理的な正しさ、研究の質を示すのと同じくらいに重要な意味があると考えられます。

また科学の不信の背景には、「なんとなく気が合わない」という感覚だけでなく、過去には、ある集団が研究で不当な扱いを受けたり、逆に研究の対象から外されて必要なデータが不足したりして、「科学が自分たちを十分に扱ってこなかった」という経験の積み重ねも存在していると、論文では指摘されています。

確かに歴史上では、科学者のモラル意識が低かった時代もありました。そうした点が、現在もなお科学の信頼に影響を与えている可能性はあるでしょう。

今回の研究が示したのは、「科学が何を語るか」という問題だけでなく、「科学をより身近に感じさせる工夫」が、情報を伝えるためには重要という事実なのです。

この研究のネット掲示板風解説

この論文の内容を、誰にでもわかりやすいように日本のネット掲示板風にAIに解説してもらいました。わかりにくかった人はこちらをご覧ください。


スレタイ:【研究】科学者の「多様性」が信頼に影響? 自分と似た属性の専門家を信じやすい傾向が判明、ワクチン接種率にも関連

1: 名無しさん@サイエンス

アメリカの研究で面白いのが出てた。 科学者がもっと多様(人種、性別、宗教、出身地など)になれば、科学への信頼が高まって、結果的に公衆衛生も向上するかもしれないって話。
【論文の要約】
お前らどう思う?

2: 名無しさん@実験中

結局、人間は感情で動くってことか。 「何を言ったか」より「誰が言ったか」が重要って、科学的態度の対極にある気がするんだが。

3: 名無しさん@サイエンス

理想論で言えばそうなんだけど、データを見ると無視できない現実があるっぽい。 特に黒人コミュニティとかは、過去に非倫理的な医療実験の対象にされた歴史(タスキギー梅毒実験とか)があるから、白人の科学者が「安全です」って言っても信じられない土壌があるらしい 。 だから「自分たちの代表」が科学界にいることが重要になる。

4: 名無しさん@地方民

これ、田舎(Rural)と宗教(Religious)の視点が含まれてるのが興味深いな 。 都会の上流階級のリベラルな無神論者が、上から目線で「科学的に正しいから従え」って言っても、敬虔なキリスト教徒の農家のおっちゃんには響かないってことだろ? なんとなくわかるわ。日本でも「霞ヶ関のエリートが現場を知らずに」みたいな反発あるし。

5: 名無しさん@論破

でもさ、無理やり属性で選んで能力低い科学者が増えたら本末転倒じゃね? 命に関わる手術とか、自分と同じ人種なだけのヤブ医者より、人種違うけど腕利きの医者にお願いしたいわ。

6: 名無しさん@サイエンス

そこもちゃんと検証されてるぞ。 実験結果によると、信頼を得る要素として一番デカいのは圧倒的に「経験(Experience)」だった 。 経験豊富な科学者かどうかが、選択率を25ポイント近く押し上げる。 人種とか性別の一致効果は数ポイント(人種9.5%、性別4.5%程度)の上乗せに過ぎない 。
ただ、その「数ポイント」が、ワクチン打つかどうかの瀬戸際の人には効くって話じゃないかな。

7: 名無しさん@統計好き

グラフ見たけど、科学者の無神論者率40%越えってすごいな。一般国民は28%とかなのに 。 ここまでの乖離があると、確かに「価値観が違う集団」とみなされても仕方ないかも。

8: 名無しさん@医療従事者

現場にいると実感するよ。 「先生は頭いいから私の気持ちなんてわからないでしょ」って壁を作られることがある。 この論文が言う「社会的距離(Social distance)」ってやつだな 。 自分と同じような背景を持つ人が専門家として説明してくれるだけで、安心感が段違いになる患者さんは実際にいる。

9: 名無しさん@サイエンス

あと、この論文の結論で重要なのは、「科学者は自分たちと似たような人間ばかりを研究対象にしがち」って指摘 。 科学者の層が偏ってると、研究データ自体も偏って、マイノリティや女性に効く薬のデータが不足したりする 。 だから、多様性は単なるポリコレじゃなくて、科学の質(イノベーションやデータの網羅性)を上げるためにも必要ってことだ 。

10: 名無しさん@全力

結局、信頼回復の特効薬はないけど、 「実績あるベテラン」かつ「自分と同じ属性」の科学者が最強ってことか 。 地道にいろんなバックグラウンドの科学者を育成するしかないんだな。

11: 名無しさん@まとめ

日本に置き換えるとどうなるんだろ。 「高学歴エリート vs マイルドヤンキー」とかの対立構造とか、 地元出身の叩き上げ医師とかのほうが信頼されるみたいな話に近いんかな。 いずれにせよ、「正しい情報を流せば伝わる」ってのは科学者の傲慢で、 「誰が伝えるか」をもっと戦略的に考えないと公衆衛生は守れないってことか。勉強になるわ。

参考文献

Trust in science is low among minorities for a reason
https://news.northeastern.edu/2025/12/09/science-representation-northeastern-survey/

元論文

Representation in science and trust in scientists in the USA
https://doi.org/10.1038/s41562-025-02358-4

ライター

相川 葵: 工学出身のライター。歴史やSF作品と絡めた科学の話が好き。イメージしやすい科学の解説をしていくことを目指す。

編集者

ナゾロジー 編集部

元記事で読む
の記事をもっとみる