1. トップ
  2. 「誰かわからなかった!」毛深い姿で“初登場”したシーンに視聴者驚愕… “唯一無二”の存在感を放つ名俳優【金曜ナイトドラマ】

「誰かわからなかった!」毛深い姿で“初登場”したシーンに視聴者驚愕… “唯一無二”の存在感を放つ名俳優【金曜ナイトドラマ】

  • 2026.2.3

金曜の夜、私たちはこんな“適温”を待っていたのかもしれない。
現在放送中の金曜ナイトドラマ『探偵さん、リュック開いてますよ』が、静かな熱狂を呼んでいる。主演・松田龍平×監督・沖田修一。この、胸が躍る黄金タッグがテレビ朝日の連ドラで実現した。

描かれるのは、事件解決よりも“過程のズレ”が愛おしくなるような、不思議な探偵物語。髙橋ひかる、大倉孝二、光石研といった、一癖も二癖もある実力派キャストたちが、西ヶ谷温泉という穏やかな空気流れる町で、ゆるやかでいて目が離せない人間模様を見せている。
観る者の心をじわじわと侵食していく、“得体の知れない心地よさ”の正体とは一体何なのか。これまでのエピソードを振り返りながら、その中毒性に迫ってみたい。

これまでのあらすじ:奇天烈な発明が繋ぐ、町の人々との日常

これまでの物語を振り返ると、日常の延長線上にあるはずの景色が、洋輔の発明品によってどこか不思議な異世界へと塗り替えられていく過程が面白い。

第1話では、温泉旅館に暮らす発明家兼探偵・一ノ瀬洋輔(松田龍平)のもとに、「松茸泥棒を捕まえてほしい」という依頼が舞い込む。のんびりとした温泉街を舞台に、どこか力の抜けた捜査と奇抜な発明品が交錯し、作品のトーンを印象づけるエピソードとなった。

第2話では、町の肉屋で店番をする少年・たいよう(宇陽大輝)から「地底人を探してほしい」という突拍子もない依頼を受ける洋輔。調査を進めるなかで、洋輔はその背後に隠された「父と子のすれ違い」に気づく。洋輔は、またもや奇天烈な発明品を用いながら、親子の関係修復に協力する。

第3話では、町で不可解な連続殺人事件が発生。被害者たちは繭のようなもので窒息死していたのだ。ベテラン刑事の春藤(光石研)は、かつて町で探偵をしていた洋輔の父の面影を彼に重ね、相談に現れる。

日常のようで奇天烈な出来事が巻き起こるドラマに、実力派俳優たちの確かな存在感によって、不思議とクセになる魅力に溢れている。

謎の男「飛猿」の正体は? きたろうが放つ圧倒的な存在感

undefined
きたろう (C)SANKEI

SNSで大きな反響を呼んでいるのが、第1話から登場した「飛猿(とびざる)」というキャラクターだ。 洋輔が共同浴場で、全身が黒い毛で覆われた毛むくじゃらの男に「飛猿さん」と何気なく声をかけると、男は「ああ」と短く返し、当たり前のように隣で湯に浸かる。この説明を一切省いたシュールなやり取りに、ネット上では「誰かわからなかった!」「きたろうだったとは」といった驚きの声が上がった。

公式プロフィールによれば、飛猿は西ヶ谷温泉の常連なようで「とても毛深い、いつも温泉にいる人。その過去は誰も知らない…。」という謎めいた解説のみ。言葉はあまり発しないものの、その佇まいには得体の知れない安心感が漂う。

演じるのは、名優・きたろう。彼は『南極料理人』(2009)の“タイチョー”役をはじめ、『横道世之介』(2013)や『モリのいる場所』(2018)など、沖田作品の常連俳優だ。

代表作『南極料理人』では、在庫が底をつき、長らくお預け状態だった好物のラーメンを念願叶って啜るシーンが語り草となっている。あの場面で見せた、リアリティを超えて“人間のどうしようもない愛おしさ”すら感じさせる演技。いや、その存在感そのものが、本作でも唯一無二のスパイスとして効いている。

松田龍平×沖田修一3度目のタッグ“劇的な成長”ではない日常の揺らぎ

松田と沖田監督のタッグは、本作で3度目となる。 初めてのタッグとなった映画『モヒカン故郷に帰る』(2016)は、バンドマンの息子が父の病を機に家族の絆を見つめ直す姿を、ユーモアと自然体な切り口で描いたヒューマンドラマ。2度目のWOWOWドラマ『0.5の男』(2023)では、実家に引きこもっていた40歳の男が、家族との交流を経て少しずつ外の世界へ踏み出す機微を繊細に描き出した。

過去作に共通しているのは、環境の変化によって主人公の心が緩やかに動いていく様を、温かなユーモアを交えて描く点だ。 本作『探偵さん、リュック開いてますよ』でも、洋輔は温泉旅館という限定されたコミュニティの中で、風変わりな依頼と向き合い続けている。自作の奇妙な発明品たちが、次は何を解決し、彼の心にどんな変化をもたらすのか。あるいは、あえて“もたらさない”のか。

本作は、大きな事件を解決して主人公が劇的に成長するような、ドラマティックな物語ではない。しかし、日々の繰り返しの中でふと生じる心の揺らぎや、他者との何気ない触れ合い。それこそが“人が生きるということだ”と、じんわり感じさせてくれる魅力に満ちている。

放送前の特別映像で、沖田監督はこう語っていた。 「事件が起きて、一生懸命謎を解明しようとするんだけど途中で諦めちゃうとか」「最後に足湯に入ってやっぱり分からなかったって終わる刑事ドラマとか探偵ものがあってもいいなって思っていた」。

“こうあるべき”という既成概念を軽やかにかわす、肩の力が抜けた探偵ドラマ。一ノ瀬洋輔という愛すべき人物が辿り着く“適温”の結末を、ぜひ最後まで見届けたい。


ライター:山田あゆみ
映画コラム、インタビュー記事執筆やオフィシャルライターとして活動。X:@AyumiSand