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「いい医者」かどうかは一発でわかる…「優秀なガン専門医」ほど患者にすすめてくる、治療前の"お節介な提案"

  • 2025.12.11

がん治療で、いい主治医かどうか判断するには、何に注目すればいいのか。藤田医科大学腫瘍医学研究センター長の佐谷秀行さんは「まずは、がんのステージに応じた標準治療をきちんと提案できているかどうかが重要だ。そのほかにも、医師の実力を見抜く問いかけや、優秀な医師が口にするフレーズがある」という――。(第2回)

※本稿は、佐谷秀行『がんが気になったら読む本 生きぬくための最新医学』(毎日新聞出版)の一部を再編集したものです。

ダブレット示しながら患者に説明をする医師
※写真はイメージです
良い腫瘍医は「標準治療は何か」に答えられる

私たちのようにがんを専門にしている者の立場から見た、“良い腫瘍医”、つまり良いがん専門医の5つの条件を考えてみます。

まず何よりも、がんのステージに応じた標準治療を、きちんと提案できるということです。

特定のステージにあるがんの治療に対して、最も有効であると現時点で認められている治療法を、標準治療と呼びます。したがって、それを患者さんに提案するというのは、最も重要な仕事です。したがって、「このがんにおける標準治療は何ですか?」と尋ねられて、きちんと回答できるのが良い腫瘍医です。

ただし、すべてのがんに標準治療があるわけではありません。たとえば、乳がん、肺がん、大腸がん、前立腺がんなどのように、患者さんの数の多いがんは、がんの病理学的および分子生物学的性質やステージによって標準治療が決まっています。しかし、患者さんの数の少ないがんに関しては、標準治療が完全には定まっていないものもあります。

がんによっては、手術を先におこなってから抗がん剤や放射線治療に進むか、逆に抗がん剤や放射線治療を先におこなってから手術に進むか、確定できていないものもあります。そのような選択をおこなう時に、きちんとデータに基づいて患者さんに説明した上で医師自身の見解を伝えることがきわめて重要です。

優秀な専門医は「セカンドオピニオン」をすすめてくる

次に、セカンドオピニオンを尋ねることをむしろ自分から患者さんにすすめるような医師は、きわめて優秀ながん専門医です。

自身の見解に自信を持っていて、自分の考える治療方針が科学的にも臨床的にも最善の方法だと信じながら、さらに新しい考え方や方法がないか謙虚に学びたいという気持ちがあるからこそ、ぜひ他の医師にも尋ねてみてくださいと言えるのです。

もちろん、標準治療が完全に決まっているがんについては、セカンドオピニオンを尋ねる必要がないことも多々あります。しかしながら、がんというのは患者さんご自身の問題です。これから命をかけて治療にのぞむわけです。だから患者さんには、すべて納得し、気持ちの迷いが完全になくなるまで情報を集める権利があります。医師としては、実際問題として必要かどうかにかかわりなく、セカンドオピニオンを尋ねたいという患者さんの意思を尊重するべきなのです。

なお、「セカンドオピニオンを尋ねてもいいですか?」と問いかけた時に機嫌が悪くなるような医師は、ぜったいに避けた方がいいでしょう。くり返しになりますが、そういう意味でも、これは医師を見るためのリトマス試験紙になる質問です。

患者ひとり一人によって「状況」は違う

セカンドオピニオンについて、いくつか補足しておきます。

患者さん1人ひとりによって状況が違うため、手術にはアクシデントがつきものです。私の場合も、手術から1カ月くらい経ったところで発熱が起こり、検査をしてみると体内に感染があることがわかりました。これは、医療行為に問題があったわけではなく、私自身の免疫機能が下がっていたのが原因だろうと考えられるアクシデントでした。

こういう場合に医師は、自分の病院できちんと対処したいと考えます。というのも、セカンドオピニオンを求めるという目的で、こうしたアクシデントを別の病院に持っていってしまうと、そちらでは背景を十分に把握できないまま判断を下さざるを得なくなることが往々にして起こるからです。

もちろん、いかなる場合にも患者さんにはセカンドオピニオンを求める権利があります。しかしながら現実には、こういうケースもあるということを知っておいていただきたいと思います。

そういう意味でも、「今の状況に関して、セカンドオピニオンを聞いてもいいですか?」と医師に尋ねるのがベストなのです。

患者と対面で話す医師
※写真はイメージです
「最近のデータでは」と話す医師は勉強熱心

3つ目は、経験だけに頼らず、新しい知識と技術を身につける努力を常に絶やさないことです。かつて医師の世界では経験に頼るということが非常に多かったのですが、これだけ医療が多様化し、急速な進歩が続いている現在では、もうそれだけではやっていけません。

患者さんへの説明の中に「最近のデータでは〜」というお話が出てくれば、その医師がよく勉強しているという証拠です。自分自身の経験ではなく、新しいデータ、新しい知識によるとこういうことがわかり、こういう治療がおこなわれている。それをきちんと説明できる医師ということですね。

4つ目は、メディカルスタッフ――看護師や別の医師など――が、自分ががんになった時に診てほしいと考える腫瘍医は、間違いなくきわめて優れた医師です。患者さんの立場ではなかなか手に入りにくい情報だと思いますが、この事実を知っておいていただければ、何かひょんなことで参考になる機会があるかもしれません。

5つ目もきわめて重要なのですが、自分の専門、あるいは専門外の医師との交流があり、必要に応じて信頼できる専門医を紹介できるということです。というのも、がんの患者さんであっても、たとえば循環器の問題など、ほかの病気が起こってくる可能性があるからです。その時に、きちんとその分野の専門医を紹介できる医師は、優れていると言えます。他の領域の医師とのコミュニケーションをするという、連携能力も優れた医師の条件です。

「かかりつけ医」が重要である

患者さんの側からもいろいろな質問をして、こうした条件を備えている医師を見つけていくことをおすすめします。これは、がんとの闘いにおいてはきわめて重要な戦略です。

さて、最初の治療、最初にかかる医師、ということを考えていくと、かかりつけ医の重要性が浮かび上がります。自宅近くにクリニック(診療所、医院)などを構えている開業医で、健康のことをいつでも気軽に相談できる医師のことですね(ホームドクター、ファミリードクターとも呼ばれます)。

ちなみに日本では通常、複数の診療科と20以上の病床を持つ医療機関を病院と呼び、クリニックは19床以下の医療機関とされています。

なにしろ、がんという病気は突然やってきます。私自身もそうでした。昨日まではまったく元気で、医者にかかったことがないのが自慢だったのに、ある日突然腫瘍マーカーの値が上がっていて、「あれ?」と思って再検査をしてみると、以前の値よりもさらに上がっている。それで、急に精密検査を受けて……という具合にあれよあれよという間にがん患者になっていったのです。

テーブルの上の聴診器
※写真はイメージです
「相談しやすいかかりつけ医」を探してほしい

私の場合は仕事柄、医師の知り合いは大勢います。その中でも私が相談しやすい先生に話して、急遽診察してもらいました。当時は、私自身にもかかりつけ医がいなかったのです。だからこそ、かかりつけ医がいたらものすごく助かるなあと痛感することになりました。言葉はあまり良くないかもしれませんが、とにかく便利です。いろんなことを相談できるわけですから。

今では私にも、自宅近くにかかりつけ医がいて、いつでも相談できる体制が整っています。私の場合は前立腺がんでしたので、時々、尿が出にくくなることがあります。そういう時に大学病院まで行って対処してもらうのは時間もかかりますし、必ずしもその時に担当医がいるとは限りません。ところが近所にかかりつけ医がいれば、迅速かつ適切に対処してもらうことができます。

このように、かかりつけ医は非常に重要な存在ですが、どうすればもっと多くの人に持ってもらえるのか。それは、現在の日本が抱える課題の1つだと思います。

この点、アメリカの制度はよくできています。最初に患者を診るプライマリ・ケア医、つまりかかりつけ医の診療費は、専門医に比べて低く設定されており、患者にとって経済的な負担が少ないことから、気軽に受診しやすい仕組みとなっています。

“ちょっとした変化”にも気づいてもらえる

一方、日本での医療制度は、“平等”を基本原則としており、大病院でも一般クリニックでも、費用の面では大きな差はありません。そのため、患者がかかりつけ医を経ずに、直接大きな病院を受診する傾向が見られます。とはいえ最近では、大病院を受診するには紹介状が必要となるケースが増えており、まずはかかりつけ医に診てもらうというシステムが徐々に定着しつつあります。

医療の面で、かかりつけ医を持ついちばん良いところは、やはりふだんの状態を把握してもらえることです。体調や検査のちょっとした変化にもきちんと気づいてくれるのです。

現在、がんと闘っている患者さんにとって、定期的に大学病院や大病院で診察を受けることは非常に重要です。しかし、治療が一段落して安定期に入ったら、患者さんの側から、「相談できるかかりつけ医を紹介していただけませんか?」と、専門医に依頼することをおすすめします。なお、病院からかかりつけ医への紹介は、〈逆紹介〉と呼ぶことがあります。

良い開業医を紹介してもらえたら、1回そこを受診してカルテを作ってもらいましょう。そして、「自分はこういう病気になって、この病院で診てもらっていますけれども、万が一、急な症状が出た時には、まず先生に診ていただきたいと思います」ということを伝えるための顔合わせをしておくことをおすすめします。

“大病院の連携先”は、安心である

大学病院や大きな病院には、〈連携室〉と呼ばれる部署があります。ここが、近隣地域にあるクリニックなど、ほかの医療機関と連絡を取り合いながら、スムーズな医療連携をしていけるように調整をしています。

佐谷秀行『がんが気になったら読む本 生きぬくための最新医学』(毎日新聞出版)
佐谷秀行『がんが気になったら読む本 生きぬくための最新医学』(毎日新聞出版)

同時に、実は連携先のクオリティも管理しています。連携した先とのコミュニケーションが良くない場合は患者さんとのトラブルの原因となりかねないため、問題があると判断された医師やクリニックは、連携先の候補から外すこともあると聞いています。

また、専門医療機関――つまり大きな病院から連携してもらったかかりつけ医であれば、万が一の時には元の病院に返してもらうのも非常にスムーズです。

今、病院と連携医療機関との関係は、とても密接なものになっています。たとえば、病院が連携機関に向けた紹介状を発行した場合、患者さんがその機関を受診すると、病院に報告が返ってくるシステムになっています。そこで病院の側は、それぞれの機関からどのくらいの期間をおいて報告が返ってきたという記録を取っています。それがあまりにも長すぎる場合には、病院の側が警告を出します。

一方で開業医としては、評判が落ちると如実に経営状態に響きます。そのため、評判を良くしておくためにも、そして患者の紹介をスムーズにおこなうためにも大病院との連携は良くしておきたいと考えます。こうして、連携というシステムが医療の質を保っているという側面もあるのです。

佐谷 秀行(さや・ひでゆき)
藤田医科大学腫瘍医学研究センター長
1981年に神戸大学医学部を卒業し、1983年まで脳神経外科研修医。その後、神戸大学大学院医学研究科に入学し1987年に博士号(医学)を取得。その後University of California, San Francisco(UCSF)の博士研究員を経て、1988年よりMD Anderson CancerCenterのAssistant Professor。1994年から2006年まで熊本大学医学部教授、2007年より慶應義塾大学医学部教授。2016年より慶應義塾大学病院副院長、臨床研究推進センター長をつとめた。2022年より藤田医科大学腫瘍医学研究センター長。

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