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22年前、“300円”で発売された“激安本格ソング” 2人の女性が紡いだ“優しい一曲”

  • 2026.2.11

新しい年が始まって、まだ冷たい風が街を吹き抜けていた2004年1月。マフラーに顔を埋めながら歩く人々の足取りは、どこか少しだけ重く、けれど春への期待を密かに抱いているような、そんな不思議な静けさのある季節だった。

そんな冬の午後に、そっと寄り添うように届けられた一曲がある。

ZuTTO『明日に続く空』(作詞:松本英子・篠原ともえ、作曲:篠原ともえ)――2004年1月28日発売

それは、ただのコラボレーションという言葉では片付けられない、心の深い部分でつながった二人の女性が紡ぎ出した、あまりにも純粋で温かな旋律だった。

重なり合う声が連れてくる、穏やかな冬の午後

このユニット、ZuTTO(ずっと)を組んだのは、透き通るような歌声で多くのリスナーを魅了してきた松本英子と、マルチな才能を発揮し続けていた篠原ともえだ。

彼女たちは、単なる仕事仲間という枠を超えた、公私ともに認め合う無二の親友だった。そんな二人が、自分たちの「今、伝えたいこと」を形にするために選んだのが、この楽曲だったのである。

冬の澄んだ空気感の中、ミディアムテンポで刻まれるリズムは、聴く者の心をゆっくりと解きほぐしていく。そこに乗るのは、二人の個性が溶け合った鮮やかなコーラスワークだ。

松本英子の優しく包み込むような質感と、篠原ともえの芯のある真っ直ぐな響き。対照的でありながら不思議なほどに調和したその歌声は、まるで冷えた指先を温めてくれる一杯の紅茶のように、聴く人の日常に浸透していった。

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篠原ともえ-2003年撮影

ワンコインよりも身近に、誰の手にも届く魔法

この『明日に続く空』という作品を語る上で、避けては通れない大きな特徴がある。それは、メジャーレーベル史上でも極めて異例といえる、「300円」という驚きの発売価格だ。

2004年当時、すでに音楽の楽しみ方は多様化し始めていたが、それでもCDを一枚買うことは、特に若い世代にとっては決して小さな買い物ではなかった。

「お小遣いの少ない子供たちや、CDを買いづらい若年層にも、気軽に手にとってもらいたい」

そんな切実で優しい願いから、制作費を極限まで抑える工夫がなされ、この驚異的な低価格が実現したのである。

低価格だからといって、作品の質が損なわれているわけでは決してない。むしろその逆だ。アレンジャーには、数々の名曲を手がけてきた音楽プロデューサーの武部聡志が名を連ね、音楽的な完成度は極めて高く保たれていた

無駄な装飾を削ぎ落とし、歌とメロディの良さを最大限に引き出す。そのストレートなアプローチこそが、300円という価格設定に込められた「純粋に音楽を届けたい」という彼女たちの熱意と見事に共鳴していたのだ。

飾らない自分に戻れる、透明な旋律の記憶

篠原ともえが作曲を担当し、二人が共同で言葉を紡いだこの曲には、押し付けがましいメッセージは一切ない。ただ、目の前に広がる空を見上げ、明日への小さな希望を信じる。そんな日常の、当たり前だけれど大切な感情が丁寧にすくい上げられている。

2004年という時代は、デジタル化が急速に進み、社会のスピードが加速度的に上がっていった時期でもあった。そんな喧騒の中で、この曲が持つ「素朴な明るさ」は、多くの人々にとって一息つける場所のような役割を果たしていたのかもしれない。

派手な演出や過剰な宣伝に頼るのではなく、ただ良い曲を、必要としている人のもとへ、最も届きやすい形で届ける。その潔い姿勢が、結果としてこの曲を、時代を超えて愛される「名曲」へと押し上げたのだ。

今、改めてこの曲を聴き返してみると、あの頃見上げていた空の色が鮮やかに蘇ってくる。たとえ時代がどれほど変わっても、私たちの心に寄り添う音楽は、いつだって驚くほどシンプルで、温かいものなのだ。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。