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32年前、“魔術師”が仕掛けた“計算された音” “未来のサウンド”が25万超を記録したワケ

  • 2026.2.3

1994年1月は、街中のいたるところに最新のポップミュージックがあふれていた。冷たく澄み渡った空気の中、夜の都会をドライブしたり、自室で深夜ラジオに耳を傾けたりしていたあの頃。デジタル・サウンドが持つ特有の“新しさ”が、私たちの心に最も強く響いていた時期かもしれない。

そんな時代の空気を鮮やかに切り取り、リスナーの胸に突き刺さった一曲がある。

access『夢を見たいから』(作詞・作曲:AXS)――1994年1月26日発売

この楽曲がリリースされたとき、日本の音楽シーンはまさに“デジタルとポップの融合”が極まろうとしていた。緻密に計算された音の粒子が、冬の夜空に解き放たれる。その瞬間、私たちはまだ見ぬ未来への期待に胸を躍らせたのだ。

冬の輪郭をなぞる、電子の鼓動

この楽曲を語る上で欠かせないのは、圧倒的な密度を誇るサウンドの構築美だ。作曲とプロデュースを手がけた浅倉大介は、当時すでにシンセサイザーの魔術師としてその名を馳せていたが、本作ではその手腕がいかんなく発揮されている。

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浅倉大介-1995年撮影(C)SANKEI

冒頭から鳴り響く、鋭くも温かみのあるシンセサイザーの音色は、まるで凍てつく夜の静寂を切り裂く光の矢のようだった。複雑に重なり合うプログラミングの層は、単なる伴奏という枠を超え、一つの意志を持った生き物のように躍動している。その音に触れた瞬間、リスナーの視界には、無機質でありながらどこか美しい都市の夜景が浮かんだはずだ。

こうした高度なデジタル・サウンドが、決して冷たく突き放すような印象を与えなかったのは、そこに血の通ったエモーションが宿っていたからに他ならない。音の隙間に潜む繊細なニュアンスや、ドラマティックに展開する構成は、聴く者の心を自然と高揚させていく。

理知的な計算と、抑えきれない情熱が共存していることこそが、このユニットが放つ音楽の真骨頂といえるだろう。

重なり合う色彩が描いた、光の軌跡

緻密なサウンドのキャンバスに、力強い色彩を添えたのが貴水博之のボーカルだ。彼の持ち味である圧倒的なハイトーンボイスは、この楽曲においてさらなる輝きを放っている

空を突き抜けるような高音域でありながら、決して線の細さを感じさせないその歌声。それは、浅倉大介が生み出す重厚な電子音の波に埋もれることなく、むしろその波を乗りこなすかのように自由に、しなやかに響き渡った。

サビに向かって一気に加速していくメロディラインに対し、一音一音を丁寧に、かつエネルギッシュに紡いでいく歌唱スタイル。それは聴く側に「ここではないどこかへ連れて行ってくれる」という確信を抱かせる。

二人の才能が激しく火花を散らしながら、一つの完璧な調和へと向かっていく過程。そのスリリングなまでの美しさが、多くの人々の心を捉えて離さなかった。

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2013年、舞台「銀河英雄伝説第三章内乱」製作発表会見に出席した貴水博之(C)SANKEI

醒めない夢の続きに、今も揺られて

『夢を見たいから』は、彼らにとって6枚目のシングルとして世に送り出された。前作までのヒットにより、すでに確固たる人気を築いていた彼らだったが、本作はその勢いをさらに加速させる一打となった。最終的には25万枚、いわゆるクォーターミリオンを超えるセールスを叩き出し、彼らの代表曲としての地位を不動のものにした。

リリースから32年が経った今、私たちの周りにある音の環境は劇的に変化した。スマートフォンの画面をなぞれば、あらゆる時代の名曲に一瞬でアクセスできる。それでも、ふとした瞬間にこの『夢を見たいから』のイントロが流れてくると、心は一気にあの1994年の冬へと引き戻される。

それは、この曲が単なるヒット曲という枠を超え、聴いた人の記憶の中に「当時の自分が見ていた夢」や「感じていた熱量」と結びついて深く刻まれているからだろう。

デジタル・サウンドは、時として時間の経過とともに古びてしまうことがある。しかし、この曲に込められた純度の高いクリエイティビティと、二人の求道者がぶつけ合ったパッションは、今もなお瑞々しい輝きを失っていない。

窓の外に広がる冷たい夜景を見つめながら、この旋律に身を委ねる。すると、あの日感じた加速するようなワクワク感が、再び静かに胸の奥で灯り始める。私たちは今も、あの時見せてもらった「金色の夢」の続きの中に生きているのかもしれない。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。