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35年前、白いTシャツが輝きを放った“青年”の歌声 汗を飛ばしながら全力で歌う“勝利への序曲”

  • 2026.2.3

「35年前、あなたは誰の背中に『夢』を重ねていただろう?」

世の中が「形ある贅沢」から「自分らしい生き方」へと視線を移し始めていた1991年。街にはまだ華やかなネオンが溢れていたけれど、若者たちの心には、どこか渇いた、でも熱い風が吹き抜けていた。

そんな時代の象徴として、白いTシャツとジーンズだけで圧倒的な輝きを放っていた一人の青年がいた。彼の放つ真っ直ぐな言葉と、飾らない情熱に、私たちは自分自身の明日を投影していたのかもしれない。

吉田栄作『V -ヴィクトリー-』(作詞:森浩美・作曲:歌川和彦・若狭義之)――1991年2月20日発売

早春の澄んだ空気に響き渡ったこの一曲は、単なるヒット曲という枠を超え、何かに立ち向かおうとするすべての人への、静かで力強い宣誓のように届いたのだ。

白いTシャツが象徴した、飾らない「強さ」

1991年当時の吉田栄作といえば、加勢大周、織田裕二とともに「平成御三家」と呼ばれ、その中でもどこか野性的で、自らの信念を曲げない孤高のイメージをまとっていた。彼がステージで見せる、汗を飛ばしながら全力で歌う姿。それは、スマートに生きることが美徳とされ始めた時代に対する、一つのアンチテーゼのようにも見えた。

『V -ヴィクトリー-』は、そんな彼のパブリックイメージと見事に共鳴した楽曲だ。タイトルに冠された「V」の文字。それは単に勝敗を決する「勝利」だけを意味するのではない。何度も壁にぶつかりながらも、自分自身に打ち勝とうとする「意志」そのものを指していた。

その歌声は、決して計算されたテクニックに裏打ちされたものではないかもしれない。けれど、一音一音に込められた「本気」が、聴く者の心の奥底にある、忘れかけていた熱い感情を揺さぶったのである。

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1991年、「ベストジーニスト'91」に選ばれた吉田栄作(C)SANKEI

音の粒が弾ける、洗練された「疾走感」

この楽曲の音楽的な深みを支えているのは、今や世界的な音楽家として知られる梁邦彦による緻密な編曲だ。1991年という時代背景を映し出した、どこか都会的で洗練されたサウンドスケープ。そこに、疾走感溢れるビートが重なることで、楽曲に独特の立体感が生まれている。

この時期、セブン-イレブンの「バレンタイン&ホワイトデー」CMソングとしても連日テレビから流れていたことを記憶している人も多いだろう。バレンタインという、どこか甘く、そして少しだけ勇気が必要なイベント。その背景で流れるこの曲は、恋に臆病になりそうな背中を、力強く、でも優しく押し出す役割を果たしていた。

「頑張れ」という言葉を直接投げかけるのではなく、ひたむきに走る姿を見せることで勇気を与える。 そんな、彼らしいエールの形がそこにはあった。

作詞を手がけたのは、数々のヒット曲を生み出してきた森浩美。彼が描く言葉の数々は、吉田栄作というフィルターを通すことで、より生々しく、リアリティを持って響いた。夢を追いかけることの厳しさと、その先にある景色。その両面を見据えた言葉選びが、この曲を単なる「応援歌」以上の存在に押し上げていた。

冬の寒さを溶かす、真っ直ぐな「エール」

35年という月日が流れ、私たちの生活も、音楽の聴き方も大きく変わった。けれど、今改めて『V -ヴィクトリー-』を聴き返すと、当時の瑞々しい空気感が鮮烈に蘇ってくる。

それは、未来に対して根拠のない自信を持てた時代の輝きかもしれないし、あるいは、ただひたすらに前だけを向いていた自分自身の記憶かもしれない。

「V」というサインに込められた、泥臭くも美しい情熱。 それは、効率や合理性が優先される現代において、私たちがどこかに置き忘れてきてしまった「大切な何か」を思い出させてくれる。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。