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32年前、人気俳優が放った“40万ヒット” ロングヒットを記録した“激情バラード”

  • 2026.1.26

1994年1月。街には洗練されたポップスが並ぶ一方で、感情を正面から叩きつけるような歌は、少しずつ姿を消し始めていた。そんな空気の中で現れたのが、子役時代から活躍するあの俳優の、あまりにも生々しい声だった。

吉岡秀隆『ラストソング』(作詞・作曲:吉岡秀隆)――1994年1月7日発売

俳優が“歌う”という選択

本作は、吉岡秀隆にとってシンガーソングライターとしてのデビュー作であり、映画『ラストソング』の主題歌として制作された。同作では本木雅弘とW主演を務めており、楽曲は映画と強く結びついた存在でもある。

ただし、この曲は「映画の主題歌だから歌った」という文脈に収まりきらない。自ら作詞作曲を手がけたことが示すように、そこには役を演じるのとは異なる、“個人としての表現欲求”がはっきりと刻まれている。俳優という肩書きを一度脇に置き、言葉とメロディを自分の責任で差し出す。その覚悟が、音の端々から伝わってくる。

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吉岡秀隆-1998年撮影(C)SANKEI

ミディアムテンポに宿る“叫び”

『ラストソング』はミディアムテンポのバラードだ。しかし、その歌声は決して穏やかではない。吉岡秀隆のボーカルは、感情を抑え込むタイプではなく、前に、外に、叩きつけるように放たれる。

この歌唱スタイルは、しばしば尾崎豊の世界観を想起させる。叫ぶようでいて雑ではなく、荒々しいのに芯がある。感情が先に立ち、声がそれを追いかけるのではなく、声そのものが感情の正体になっている。そのため、楽曲全体には強い緊張感が漂う。

編曲を担当した国吉良一のアレンジも、その歌声を際立たせる方向に徹している。音数は抑えられ、リズムも過度に主張しない。すべては、ボーカルが感情を放つための“受け皿”として機能している。

じわじわと届いたロングヒット

『ラストソング』は、初動で爆発的に売れたタイプの楽曲ではない。だが、ランキングでは徐々に順位を上げロングヒット。最終的には40万枚を超えるセールスを記録した。この推移は、話題性よりも“実感”によって支持が広がったことを物語っている。

強い言葉と叫ぶような歌声は、決して万人受けするものではない。それでもこの曲が長く聴かれたのは、感情の輪郭があまりにも正直だったからだろう。一度心に引っかかると、簡単には忘れられない。そういうタイプの楽曲だった。

別れを“感情のまま”残した一曲

『ラストソング』が今も記憶に残る理由は、完成度やセールスだけではない。整理されない感情、言い切れない想い、それでも吐き出さずにはいられない衝動が、そのまま音になっている。

だからこそ、聴くたびに印象が変わる。若い頃は声の強さに引き寄せられ、時間が経つと、その奥にある不器用さや危うさが胸に残る。人生のどこかで、自分の感情と重なってしまう瞬間がある。それが、この曲のいちばんの強さだ。

派手な名曲ではない。だが、静かに忘れられていくタイプでもない。『ラストソング』は、32年経った今もなお、“叫ぶバラード”として、確かな体温を保ち続けている。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。