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40年前、再リリースされた“サスペンスドラマ”の主題歌 大人の情熱を刻んだ“張りつめた名曲”

  • 2026.1.26

1986年1月。冬の夜に、どこか張りつめた空気が街を包んでいたことを覚えているだろうか。煌びやかなバラードが並ぶ時代の中で、もっと深く、もっと強く、大人の感情を叩きつけるような楽曲が、静かに存在感を放っていた。

感傷ではなく、ためらいでもない。抑え込まずに燃え上がる感情を、そのまま音にしたような1曲が、あの頃のテレビから流れていた。

高橋真梨子『蜃気楼』(作詞:松井五郎・作曲:亀井登志夫)――1986年1月21日発売

夜の画面に漂った、張りつめた気配

『蜃気楼』は、高橋真梨子にとって12枚目のシングル。前年にリリースされたアルバム『MELLOW LIPS』からのリカットという位置づけでありながら、単なるアルバム曲の再提示では終わらなかった。

フジテレビ系月曜サスペンスシリーズ『夏樹静子サスペンス』の主題歌として起用された本作は、物語性と緊張感を強く求められる枠の中で、その存在感を際立たせていた。

事件、疑念、人間関係の軋み。そうした映像世界を締めくくるように、この曲は甘さや余韻よりも、意志の強さを前面に押し出す必要があったのだろう。

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2001年、埼玉県・川口リリアでコンサートをおこなった高橋真梨子(C)SANKEI

静かではない、しかし派手でもない熱量

一定のリズム感を保ちながら進行するサウンドは、足元を固めるように安定しており、感情だけが先走ることはない。編曲を手がけた奥慶一によるサウンドは、隙のない構築力を感じさせる。

リズムセクションが生む推進力の上で、高橋真梨子のボーカルが、ためらいなく前に出てくる。それは抑制ではなく、覚悟を決めた発声だ。しっとりと語りかけるのではない。かといって、感情を振り回すわけでもない。

この曲での彼女は、感情を真正面から受け止め、その強度を保ったまま歌い切っている。

“大人の歌”が持っていた緊張感

作詞を担当した松井五郎の言葉選びも、この楽曲の空気感を決定づけている。情緒に流れすぎず、説明もしすぎない。その余白が、聴き手に緊張感を残す。

そして作曲の亀井登志夫によるメロディは、耳なじみの良さよりも、内側にじわじわと熱を溜め込む構造を選んでいる。一度聴いただけで解放されるタイプの曲ではない。何度も触れるうちに、その強さが伝わってくるタイプの楽曲だ。

当時すでに円熟期に入りつつあった高橋真梨子だからこそ、この表現は成立した。若さや勢いではなく、経験と確信が、そのまま声に宿っている。

夜に残った、消えない輪郭

1986年という時代は、華やかさと同時に、どこか不安定な空気も孕んでいた。

そんな中で『蜃気楼』は、優しさで包むのではなく、逃げ場のない感情を真正面から差し出すような役割を果たしていたように思える。

ドラマのエンディングで流れるその旋律は、物語を締めくくると同時に、視聴者の胸に緊張を残した。それは慰めではなく、問いかけに近い余韻だったのかもしれない。派手に語られることは少なくても、確かに存在した1曲。

40年経った今でも、『蜃気楼』は、大人の夜にふと立ち上がる、消えない輪郭を持ち続けている。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。