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20年前、音楽シーンを揺らした“12の挑戦” 疾走感の中に宿る“後悔しない”意志の輝き

  • 2026.1.25

「20年前、毎週のようにCDショップへ通った記憶、ありませんか?」

2006年という年は、音楽の届け方が劇的に変化しようとしていた過渡期だった。街にはまだCDのパッケージが溢れ、放課後や仕事帰りに新作をチェックすることが、日常のささやかな楽しみとして機能していた時代。

冷え込みが厳しくなった1月、音楽シーンのど真ん中で、ある前代未聞のプロジェクトが佳境を迎えていた。一人の女性アーティストが、12週間連続でシングルをリリースするという、驚異的な挑戦だ。

その第8弾として、冬の寒さを切り裂くように届けられたのがこの一曲だった。

倖田來未『No Regret』(作詞:Toru Watanabe・作曲:h-wonder)――2006年1月25日発売

世の中が彼女の動向に釘付けになっていたあの頃。ただの話題作りではない、表現者としての凄みが、この1枚には凝縮されていた。

時代を駆け抜けた“怒涛の12週間”という熱狂

2005年末から始まった「12週連続シングルリリース」は、当時の音楽業界でも類を見ない大規模な企画だった。毎週、異なるコンセプトやビジュアルが提示され、リスナーは次はどんな世界を見せてくれるのかと、心地よい目眩を覚えるような感覚でその波に乗っていた。

この企画の第8弾として登場した『No Regret』は、プロジェクト全体の中でも、特にエッジの効いたダンスチューンとして異彩を放っていた

前週までの楽曲がバラエティ豊かな色彩を持っていたのに対し、この曲はどこまでも硬派で、ストレートな疾走感に満ちていた。それは、連日のようにメディアを賑わせ、時代のアイコンへと登り詰めていた彼女の、迷いのない足取りを象徴しているかのようでもあった。

楽曲を彩る音像は、デジタルな質感をベースにしながらも、聴く者の体温を直接上げるような、生々しいエネルギーを孕んでいる。

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2007年、「第18回日本ジュエリーベストドレッサー賞」20代部門を受賞した倖田來未(C)SANKEI

“迷わない背中”を映し出す、デジタルと情熱の融合

『No Regret』の最大の魅力は、タイトルが示す通り「後悔しない」という強い意志が、サウンドそのものから溢れ出している点にある。

イントロから全開で鳴り響くビートは、迷っている暇など与えてくれない。そこに重なるのは、彼女ならではの、ハスキーでありながら艶やかなボーカルだ。

当時は、ただ派手なだけではない、地に足の着いた「強さ」が求められていた時代。この曲のボーカルワークは、過剰な装飾を削ぎ落とし、旋律の勢いに身を任せることで、かえって凛とした潔さを際立たせていた

テレビアニメ『うえきの法則』のオープニングテーマとしても起用されたこの曲は、作品が持つ「信念を貫く」というテーマとも深く共鳴し、多くのアニメファンの記憶にも深く刻まれることとなった。

単なるタイアップの枠を超え、楽曲そのものが持つ突破力が、作品の世界観をさらに加速させていた事実は見逃せない。

音の職人たちが仕掛けた“一瞬の爆発力”

この楽曲を支えているのは、緻密に計算された音作りだ。作曲・編曲を手がけたのは、J-POPシーンのヒットメーカーとして名高いh-wonder。

彼の生み出すトラックは、ダンサブルでありながら、メロディの端々にどこか切なさや憂いを忍ばせるのが特徴だ。

『No Regret』においても、疾走感あふれるサビの裏側で、ドラマティックな展開を支えるストリングスやシンセサイザーの使い方が冴え渡っている。これによって、ただの「元気な曲」では終わらない、大人の女性が抱く複雑な情熱が描かれているのだ。

また、カップリングには、3rdアルバムに収録されていた名バラード『Rain』のアンプラグド・ヴァージョンが収められていた。激しいダンスナンバーの後に続く、静謐なピアノと歌声だけの世界。この対比こそが、当時の彼女が持っていた表現の幅の広さを物語っていたし、リスナーはそこに、彼女のアーティストとしての真摯な素顔を感じ取っていた。

20年経っても色褪せない、あの冬の“体温”

今、改めてこの曲を聴き返すと、当時の街の空気感や、自分が何を追いかけていたかが、驚くほど鮮明に蘇ってくる。

2006年は、誰もが「自分らしさ」という言葉を模索し、変化を恐れずに突き進もうとしていた。そんな時代の背中を押していたのは、間違いなくこうしたエネルギッシュな音楽たちだった。

12週連続という過酷な挑戦の最中に放たれたこの曲は、単なるリリース枚数の一つではない。それは、止まれば倒れてしまうような激流の中で、それでも「後悔はしない」と言い切った、一人の女性の決意表明だったのかもしれない。

静かな夜にヘッドフォンを耳に当てれば、あの頃の自分が感じた、言いようのない高揚感が再び胸の奥を熱くさせる。時代は変わっても、この疾走感だけは、決して古びることはないのだ。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。