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40年前、“ヒリヒリした青春”を届けた素朴な旋律 ドラマと共鳴した“不器用な誓い”

  • 2026.1.23

1986年の冬。テレビの向こうから飛び出してきたのは、どこか危うくて、やたらと生々しい存在感を放つ若者だった。そんな彼の存在感が、最も素直な形で刻まれた1曲が、このシングルだった。

木村一八『オレたちだけの約束』(作詞:DIAMOND HEADS・作曲:後藤次利)――1986年1月18日発売

横山やすしという破天荒な父を持つ二世という視線を浴びながらも、彼はそれを盾にも逃げ道にもせず、不器用なまま真正面から時代に立っていた俳優だった。

決して整いすぎていない表情、荒削りな言葉遣い。それでも目を離せなかったのは、作られた「アイドル像」ではなく、素の感情がそのまま表に出てしまうような危うさがあったからだ。

ドラマの熱量と現実の空気を背負ったデビュー

『オレたちだけの約束』は、木村一八にとっての歌手デビューシングル。自身の名前「一八」にちなんで、1月18日にリリースされたというエピソードからも、この作品がいかに“彼そのもの”として世に送り出されたかが伝わってくる。

当時の木村一八は、TBS系ドラマ『毎度おさわがせします』で注目を集めていた最中。社会現象と呼ばれるほどの人気を博したこのドラマは、若者の性や家庭の問題を正面から描き、賛否とともに強烈な印象を残した。

そのドラマの挿入歌として流れていたのが、この『オレたちだけの約束』だった。つまりこの曲は、単なる俳優の記念的デビュー作ではなく、ドラマの熱量と現実の空気を背負った状態で世に出た楽曲でもあった。

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木村一八-1985年撮影(C)SANKEI

青春を飾らないメロディの強さ

作曲・編曲を手がけたのは後藤次利。当時すでに数多くのヒット曲を生み出していた彼だが、この楽曲では過度な華やかさを排し、メロディとリズムを極めてシンプルに構築している。派手なイントロも、感情を煽る展開もない。それでも耳に残るのは、どこか無防備で、背伸びしきれない青春の温度だ。

木村一八のボーカルもまた、完成度よりも感情の生々しさが前に出ている。上手く歌おうとするより、言葉を置きにいくような歌唱。その不安定さが、結果的にこの曲を「作られた青春ソング」ではなく、「当事者の声」に近づけていた。

約束という言葉が、希望でもあり不安でもあった時代。この曲が持つ独特の緊張感は、そこから生まれている。

ドラマと現実が重なった瞬間

『毎度おさわがせします』が放っていた空気は、明るさと危うさが同居していた。笑いながらも、どこかヒリヒリする。大人でも子どもでもない世代の、不安定な立ち位置。『オレたちだけの約束』は、そのドラマの世界観と不思議なほど自然に溶け合っていた。

主題歌のように前に出るわけではない。しかし、物語の隙間で流れることで、視聴者の感情を現実へ引き戻す役割を果たしていた。木村一八自身もまた、その狭間に立たされていた存在だった。二世という肩書き、俳優としての期待、そして若さゆえの未完成さ。それらすべてが、この1曲には無理なく滲み出ている。

約束が“思い出”に変わるまで

結果的に、木村一八は音楽活動は長く継続することはなかったが、このシングルは、彼のキャリアにおいても特異な位置づけの作品となっている。1986年という時代の一瞬を封じ込めた音として、今も確かに残っているからだ。

40年経った今だからこそ、あの不器用な声とメロディが、少しだけ優しく響く。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。