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20年前、怒濤の12週連続リリースで放った“愛のうた” “渇望”と“尊さ”をつづった“歌姫の素顔”

  • 2026.1.23

「20年前の冬、街を彩っていたあの鮮烈な歌声を覚えてる?」

2006年という年。携帯電話の画面はまだ小さく、けれどそこから流れる情報のスピードは加速し、誰もが何かに急かされるように恋をして、夢を追いかけていた。冷たく澄んだ冬の風が吹く12週連続というかつてない挑戦の渦中で、その歌声はふっと体温を宿して、私たちの隣に降り立った。

倖田來未『feel』(作詞:Kumi Koda、Hitoshi Shimono・作曲:Hitoshi Shimono)――2006年1月11日発売

派手な演出や強気なパフォーマンスが注目されていた彼女が、ふと見せた“素顔の静寂”。そんな繊細な空気感を纏ったこの曲は、多くのリスナーの胸に、消えない余熱を残していった。

連続リリースの熱狂の中で見つけた“静寂”

2005年末から始まった12週連続シングルリリースというプロジェクトは、当時のエンターテインメント界において、まさに“事件”だった。毎週、新しい彼女に出会える。その期待感で日本中が湧き立つ中、第6弾として届けられたのが、この『feel』という楽曲だった。

煌びやかなダンスナンバーや切ないバラードが並ぶラインナップにおいて、この曲が放っていたのは、どこか都会的で洗練されたR&Bの香り。それでいて、聴く者の肩の力を抜いてくれるような、不思議な包容力に満ちていた

作詞・作曲には、ブラックミュージックの素養を深く持ち、彼女の音楽的支柱の一人でもあった下野ヒトシが参加。倖田來未本人も作詞に名を連ね、当時の彼女が感じていたであろう、等身大の「愛への渇望」や「触れ合うことの尊さ」が、瑞々しい言葉で綴られている。

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「第39回オリコン年間ランキング2006」表彰式。アーティストのトータルセールス1位に輝き表彰された倖田來未(C)SANKEI

情感のゆらぎが描く“愛の温度”

この楽曲の最大の魅力は、なんといっても倖田來未のボーカル表現にある。圧倒的な声量を誇る彼女が、あえて声を張り上げず、囁くようなウィスパーボイスや、吐息を混ぜたようなフェイクを多用している。それはまるで、大切な人の耳元で独り言をつぶやくような、密やかな親密さを感じさせる。

低音域の深みから、高音へ抜ける際のはかなさ。その一音一音に込められたニュアンスが、ただのラブソングを超えた「体温」を伝えてくるのだ

サウンド面でも、生楽器の温かみを感じさせるアレンジが、ボーカルの艶をいっそう引き立てている。シンプルでありながら贅沢な音作り。そこに彼女の歌声が重なることで、部屋で一人、静かに自分と向き合う時間に寄り添ってくれるような、極上の安らぎが生まれていた。

20年経っても色褪せない“心の栞”

2006年という時代が遠ざかっても、この曲が持つ魔法は解けることがない。季節が巡り、再び冷たい風が街を通り抜けるとき。ふとした瞬間に、あのイントロが頭の中で鳴り始める。

それは、かつて誰かを想って眠れなかった夜や、冷えた指先を温め合った記憶の栞。今、改めてこの曲に耳を傾けると、当時の熱狂を知る世代には懐かしく、初めて聴く世代には、かえって新鮮な「大人の余裕」として響くはずだ。

派手な光を浴び続けるスターが、一瞬だけ見せた静かな情熱の輝き。『feel』は、ただのヒット曲という枠を超えて、聴く人の心の中で今も静かに、けれど確かに、脈を打ち続けているのだ。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。