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27年前、少女の“声”に託された「強さ」 不安な時代を照らした“純度100%の歌声”

  • 2026.1.22

1999年1月。20世紀という大きな時代の区切りを翌年に控え、街の空気はどこかそわそわとした熱を帯びていた。ノストラダムスの予言がまことしやかに囁かれ、得体の知れない不安が漂う一方で、新しいデジタル機器が次々と生まれ、未来への期待が混ざり合う。そんな冬の冷たい風を切り裂くように、凛とした歌声がギターの音に乗って鳴り響いた。

知念里奈『YES』(作詞・作曲:T2ya)――1999年1月13日発売

それは大げさな決意表明ではなく、でも確かに心を前へと動かす一曲だった。次の時代がまだ輪郭を持たないまま、私たちが「強くなること」と「自分であること」の間で揺れていたあの頃。まっすぐで迷いのない響きが、私たちの日常にそっと差し込んだ光のように感じられたのだ。

少女から、表現者へと向かう途中で

知念里奈は1996年にデビューし、澄んだ声質と芯のある歌い口で、同世代の中でも独自の存在感を放ってきた。10代後半という多感な時期を、音楽とともに歩んできた彼女にとって、1999年という年は、表現の質が変わり始める節目でもあった。

『YES』の印象を決定づけているのは、冒頭から鳴り響くギターサウンドだ。歪みすぎない音色が心地よいリズムを刻みながら、曲を力強く前へと運んでいく。派手な装飾を削ぎ落とした分、音の輪郭がはっきりと耳に残り、彼女の「声」という楽器を最大限に引き立てている

そこに重なるボーカルは、力強いのに決して押しつけがましくない高く伸びる声にはどこまでも透明感があり、言葉の一つひとつが濁りなく届いてくる。ロックナンバーでありながら、攻撃性よりも「前向きな推進力」が勝っているそのバランス感覚こそ、当時のリスナーが彼女の歌声に絶対的な信頼を寄せた理由だった。

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知念里奈-1998年撮影(C)SANKEI

1999年という空気の中で鳴った音

1999年の音楽シーンは、多様なスタイルが同時に存在していた過渡期だ。デジタルサウンドが加速し、内省的な歌姫たちが台頭する中で、『YES』はそのどちらにも寄りすぎない、極めてニュートラルで健康的な立ち位置を選んでいる。

この楽曲を手がけたT2yaは、彼女の持つ「凛とした強さ」を見事にメロディへと落とし込んだ。この曲が持つのは、ただ「強くなれ」と背中を叩くメッセージではない。むしろ、迷いながらでも今の自分を肯定していいのだという、静かで深い受容の感覚だ。

だからこそ、聴く側は自分の状況を重ねやすく、何気ない日常の中でふとこの曲を再生したくなった。彼女の歌声が放つエネルギーは、聴き手の心にある小さな不安を、さらりと拭い去ってくれるような不思議な清涼感を持っていた

言葉少なに、でも確かに残る余韻

『YES』は、時代を代表する大ヒット曲として語られることは多くないかもしれない。それでも、耳にすると当時の空気や、自分自身の気持ちがふっと蘇る。そうした「記憶に結びつく力」を持った楽曲だ。

ギターの音、まっすぐな声、その組み合わせが生んだ余韻は、27年経った今も色褪せない。大きな答えを示さなくても、肯定することはできる。その感覚を、静かに教えてくれる一曲として。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。