1. トップ
  2. 20年前、「エロかっこいい」全盛期に放った“美しい嘘” 12週連続リリースの“衝撃ダンスチューン”

20年前、「エロかっこいい」全盛期に放った“美しい嘘” 12週連続リリースの“衝撃ダンスチューン”

  • 2026.1.21

新しい年が幕を開けたばかりの2006年。音楽シーンは、ある一人の女性アーティストが仕掛けた空前絶後のプロジェクトに沸いていた。毎週のように届けられる新しいビジュアル、新しいサウンド。その熱っぽさは、冷たい冬の空気を切り裂くような高揚感に満ちていた。前代未聞の「12週連続シングルリリース」という挑戦の真っ只中で、その一曲は産声を上げた。

倖田來未『Lies』(作詞:Kumi Koda・作曲:YANAGIMAN)――2006年1月4日発売

お正月休みの余韻が残る街角で、凛とした強さと、どこか危うい情緒を纏って響いたこの楽曲。それは、快進撃を続ける彼女が放った、鋭くも美しい「偽り」の物語だった。

連続リリースの熱狂が運んできた“冬の火照り”

2005年末から始まったこのプロジェクトは、単なるリリースの連続ではなかった。毎週、世界各国の意匠を凝らしたジャケットデザインが話題を呼び、次はどの国がテーマなのか、どんな歌声を聴かせてくれるのかという期待が、日本中のリスナーを包み込んでいた。

第5弾として発表された今作のモチーフは「中国」。当時の彼女が持っていた圧倒的なカリスマ性と、大人の女性へと脱皮していく瞬間の美しさを完璧に捉えていた。

楽曲を手がけたのは、数々の名曲を世に送り出してきたYANAGIMAN。緻密に構成されたダンサブルなトラックは、耳に残るキャッチーさを持ちながらも、決して軽薄ではない重厚な響きを湛えている。

undefined
2006年撮影、「MTV VIDEO MUSIC AWARDS JAPAN 2006」 歌手・倖田來未(C)SANKEI

旋律の裏側に潜む“静かな拒絶”の美学

『Lies』というタイトルが示す通り、この曲の核心にあるのは「嘘」という普遍的で、かつ残酷なテーマだ。ダンスミュージックとしての躍動感を保ちながら、そこに重なる歌声は、どこか突き放したような冷たさと、震えるような寂しさを同居させている。

当時の彼女は「エロかっこいい」という社会現象的なフレーズで語られることが多かったが、この曲で聴かせた表現は、そうした記号的な言葉だけでは到底収まりきらない。

強がりの裏にある脆さや、信じたいのに信じ切れない葛藤が、一音一音に宿っている。それは、ただ派手なだけのポップスとは一線を画す、表現者としての凄みを感じさせるものだった。

特に、サビに向けてじわじわと感情の温度が上がっていく構成は、聴く者の心を否応なしに掴んでいく。激しいビートに乗せて、出口のない迷路を彷徨うような感覚。その「いびつな疾走感」こそが、この曲が持つ最大の引力といえるだろう

時代の波を乗りこなす“職人たちの共演”

制作陣に目を向けると、この曲の完成度の高さには納得の理由がある。作曲・編曲を担当したYANAGIMANは、ヒップホップやR&Bの要素をJ-POPの文脈へ鮮やかに翻訳することに長けた名手だ。

この時期の音楽シーンは、デジタルサウンドへの移行が加速していた。その中で『Lies』は、最先端のプログラミングを駆使しながらも、どこか人間臭い、生々しい感情の揺らぎを消さずに残している。

そこに彼女自身が綴った言葉が乗ることで、楽曲は単なる「製品」ではなく、血の通った一人の女性の独白へと昇華された。

また、12週連続リリースの各作品は、ミュージックビデオも地続きの物語として制作されていた。視覚と聴覚の両面から執拗なまでに訴えかけてくるプロデュース力。その勢いは、2006年という時代が持っていた、ある種の「攻めの姿勢」を象徴しているかのようだ。

20年という月日が磨いた“孤独の輪郭”

あれから20年。音楽の聴き方は変わり、街の景色も塗り替えられた。けれど、ふとした瞬間にこの曲のイントロが流れてくると、あの冬の、少し刺すような寒さと、テレビや雑誌から溢れ出していた彼女のエネルギーが一気に蘇ってくる。

この曲は単なる過去のヒット作として埋もれることなく、今もなお、夜を彷徨う誰かの孤独にそっと寄り添い続けている。華やかなステージの裏側で、静かに牙を研ぐようなストイックさ。嘘をテーマにしながらも、そこには誰よりも真摯に音楽と向き合う一人の女性の姿があった。あの冬、私たちが目撃したのは、一つの楽曲が時代を象徴するアイコンへと変わっていく、その鮮烈なプロセスだったのかもしれない。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。