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洪水や猛暑、山火事は止められるのか? “気候危機の現場”アマゾンで開催されたCOP30を現地参加者がレポート

  • 2025.12.5

COP30開催地は森が失われるブラジル・アマゾン

アマゾンは深刻な干ばつ、森林火災の増加、生態系の喪失など気候変動の影響を極端に受けている。
Drought in the Amazonアマゾンは深刻な干ばつ、森林火災の増加、生態系の喪失など気候変動の影響を極端に受けている。

気候変動枠組条約締約国会議(以下、COP)は、毎年10〜12月ごろに2週間かけて開催される。各年の議長国に、約200の締約国の政府代表団をはじめ、企業、NGO、市民団体などが集まり、多数の会合や議論が行われる。そして最終日には、協議の結果を反映した合意文書が作成される。

今年で30回目を迎えるCOP(通称、COP30)は、“アマゾンの玄関口”と呼ばれるブラジル北部の港町・ベレンで開かれた。そこには大きな意義がある。開会初日、ベレン出身の先住民族のユースはこう語った。「なぜアマゾンでCOPを開催するのか。それは自然そのものを感じ、耳を傾けてもらうため。そして、保護が必要なのは自然だけでなく、毎日自然を守っている人々だと気づいてもらうためです」。ブラジルのルラ大統領も本会議を「真実のCOP(True COP)」と位置づけ、先住民族の権利や森林保護を交渉の中心に据える姿勢を強調した。近年のCOPは、エジプトやUAEといった石油・ガス産出国での開催が続き、化石燃料の扱いが政治的な制約を受けやすかった。その流れのなかで迎えたアマゾン開催は、「気候危機の現場」に再び焦点を戻せるのかという点でも注目を集めた。

スコールに見舞われるベレンの様子。
スコールに見舞われるベレンの様子。

実際にベレンでは、宿泊施設の不足や交通アクセスの不便さ、連日のスコールなど、インフラ面での課題が多く見られた。それでもあえて都市部ではなくアマゾンでの開催を選んだ背景には、ルラ大統領の次のような考えがある。「世界にアマゾンの現実を見てほしい。森林破壊を元に戻し、化石燃料への依存を克服する。そのための資源を動員するロードマップが必要です」。彼が繰り返し語ってきたこのメッセージには、COPを「交渉の場」から「実行の場」へと転換しようとする意志が込められている。

過去最多の先住民族が参加。セキュリティ突破が示した“怒り”

COP30期間中のベレンで開催された気候マーチにて、訴えを行う先住民族のコミュニティ。
1115マーチ.JPGCOP30期間中のベレンで開催された気候マーチにて、訴えを行う先住民族のコミュニティ。

COP30の大きな特徴は、世界中から先住民族コミュニティが参加したことだ。その人数は過去最多。アマゾンに暮らす先住民族だけでなく、北米、太平洋の島嶼国、アジアからも、多様な声が会場に響いた。

「アマゾンの土地は売り物ではありません。化石燃料は私たちの生存を脅かす大きな脅威です」アマゾンの先住民族・ムラ族の首長はそう語った。先住民族が気候変動の議論で重要視される理由として、以下が挙げられる。

1. 森林管理や生態系保全の知識を世代を超えて受け継いできたこと

2. 地球規模の炭素吸収源の中心地に暮らしていること

3. 土地や水資源の権利が侵害されやすく、気候危機によってその被害がさらに深刻化していること

COP30期間中のベレンで開催された気候マーチにて、訴えを行う先住民族のコミュニティ。
COP30期間中のベレンで開催された気候マーチにて、訴えを行う先住民族のコミュニティ。

2日目の夜には、一部の先住民族グループと支援者がセキュリティを突破して会場内に突入。「先住民族の権利や森林保護を掲げながら、実際には交渉の場から私たちの声が排除されている」と報道陣に訴えた。5日目には、ベレンの街で数万人規模の気候マーチが行われ、環境団体、若者、そしてルラ大統領の支持基盤である労働党の人々まで幅広く参加した。「カシュヤナ族とトゥナヤナ族の土地を先住民保護区に承認して」と書かれたバナーを掲げる先住民族グループの姿もあった。

こうした抗議や市民の要請を受け、11月18日、ルラ大統領は「カシュヤナ‐トゥナヤナ先住民保護区」を含む4つの先住民保護区を新たに承認。正式な保護区指定により土地権が守られ、違法伐採や採掘を防ぐことができ、アマゾンの森林保全にも直接的につながる。市民の声が具体的な政治的成果を生んだ象徴的な出来事となった。

COP30期間中のベレンで開催された気候マーチにて、訴えを行う先住民族のコミュニティ。
COP30期間中のベレンで開催された気候マーチにて、訴えを行う先住民族のコミュニティ。

しかし“先住民族”という言葉で一括りにすることには注意が必要だ。COP30には、国連の認証バッジを得て会場内で発言機会を持つ人もいれば、バッジが得られず会場外で抗議する人もいた。意思表示の方法も多様で、COP会場の床に伝統的なアクセサリーや工芸品を広げる人もいた。こうした複雑な現実を平板化せず、それぞれの声に丁寧に耳を傾ける姿勢が求められる。

気候災害が止まらないグローバルサウスからの切実な叫び

COP30会場内でアクションを行う団体の様子。
COP30会場内でアクションを行う団体の様子。

市民団体による抗議の中心テーマになっていたのは、グローバルサウス(南半球に多い新興国・途上国)からの強い訴えだ。「負債を払うべきなのは私たちではない。汚染者だ」。11月下旬にはインドネシア・スマトラ島で大洪水が発生し、死者数は700人を超えた。この原因は森林破壊にある、と地元住民は話す。土砂崩れ、台風、猛暑、山火事──。気候災害によって生活が破壊される現実は続いており、今後さらに悪化することが見込まれる。

「私たちはすでに年間平均20個の台風と闘っているのに、損失と損害に対する基金を得るにも無数の要件を課される。これを『気候の不正義(Climate Injustice)』と言わずして何と言うのでしょうか?」と、ある参加者は語った。

COP30会場内にて、「健康問題の会議であれば、タバコ産業のロビイストは招待しないはず」というバナーを掲げ抗議を行う団体。
COP30会場内にて、「健康問題の会議であれば、タバコ産業のロビイストは招待しないはず」というバナーを掲げ抗議を行う団体。

一方で、COP30には化石燃料産業に関わるロビイストが約1,600人参加していたと指摘されている。「健康問題の会議でタバコ産業のロビイストは招待しないはずでは?」という皮肉まじりのアクションも。気候変動の根本原因に近い人々が、その解決を目指す重要な決定の場に介入している状況に、連日怒りの声があがった。

日本はどんな立場で参加するのか──加害国としての自覚

気候変動対策を妨げる国に贈られる「化石賞」を日本は今年も受賞。2021〜2023年までも連続受賞していた。
気候変動対策を妨げる国に贈られる「化石賞」を日本は今年も受賞。2021〜2023年までも連続受賞していた。

グローバルサウスによる訴えのなかでは、「日本の加害」を指摘する声も少なくなかった。日本は世界最大級のLNG(液化天然ガス)輸入国であり、アジアを中心とした多くのガス火力発電事業やガスインフラ開発に資金を供給している。そのため国際社会、とくに被害を受けている東南アジアの国々からは、日本は主要な加害国と見られている。

会場内で行われた市民アクションの「SAYONARA DIRTY ENERGY PLANS(さよなら、汚いエネルギー計画)」には、日本の官民が関わる発電事業によって健康被害や環境破壊を受けている市民が参加した。「フィリピンには“海の熱帯雨林”と呼ばれるレッドアイランド海峡があります。世界最大の海洋生物多様性ホットスポットの一部です。そんな海峡での建設を日本は後押ししています」

COP会場内では特定の国名を出して批判することが禁止されているため、かれらは日本語のメッセージや日本のキャラクターの着ぐるみを使い、“誰に向けられた訴えか”を示していた。

日本を代表するキャラクターのピカチュウ、そして富士山のイラストとともに、日本への抗議を行う参加者たち。
日本を代表するキャラクターのピカチュウ、そして富士山のイラストとともに、日本への抗議を行う参加者たち。

この制約のなかで、化石燃料依存を続け、気候変動対策を妨げる国をあえて“称賛する”形で名指しする「化石賞」がある。日本はここ数年常連国であり、今年も例年通り受賞した。

受賞理由は、化石燃料の延命策を続ける政策、ガス火力や水素・アンモニア混焼を「クリーン」と位置づける姿勢、そして先住民族の権利を侵害している点などだ。日本の対外エネルギー政策が、人々の生活・健康・権利に具体的影響を与えていると国際社会が認識している表れと言えるだろう。

曖昧な合意のまま閉幕へ。広がった落胆の声

議長国ブラジルが掲げた「真実のCOP」に多くの市民が期待を寄せた。しかし最終合意文書では、中心的争点であった「化石燃料の段階的廃止」の明記は実現しなかった。83カ国が支持したものの、産油国やガス産出国、化石燃料依存度の高い国々の強い反対によって、文言は再び曖昧な表現へと押し戻された。最終文書からは、「化石燃料」という言葉そのものさえも消えてしまった。

COP30会場内にて、適応資金の拡充を求めるアクション。
COP30会場内にて、適応資金の拡充を求めるアクション。

アマゾンという象徴的な地での開催を思えば、多くの落胆が広がったのは自然なことだ。しかし、すべてが後退したわけではない。適応資金の拡充やロス&ダメージ基金の具体化など、市民の粘り強い声がなければ実現しなかった進展もあった。そして、こうした“前進”を積み重ねられるかどうかは政治交渉だけでなく、私たち一人ひとりの選択にもかかっている。化石燃料への依存度が高い日本では、その選択がすでに多くの地域と人々の暮らしに影響を与えてきた。ブラジル・アマゾンで見聞きしたすべては、日本に暮らす市民としての責任と可能性を改めて突きつけるものだった。

COP30会場内で「化石燃料の段階的廃止」を求めるアクションを行うユース団体の姿。
COP30会場内で「化石燃料の段階的廃止」を求めるアクションを行うユース団体の姿。

Photos & Text: Mutsumi Kurobe Editor: Nanami Kobayashi

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