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35年前、従来のアイドル像をくつがえしたワイルドな4人 ロックバンドへ生まれ変わったワケ

  • 2025.12.9

「35年前の冬、ふと耳にしたギターの音に胸が熱くなった瞬間ってある?」

1991年1月。乾いた風がビルの谷間を駆け抜ける夕暮れ、コンビニの明かりがぽつりぽつり灯り始める時間帯。そんな“どこか切なくて前向きな空気”の中で、あるバンドは大きな転機を迎える。

男闘呼組『ANGEL』(作詞:高橋一也・作曲:高橋一也、成田昭次)――1991年1月17日発売

それは彼らにとって6枚目のシングルであり、初めてメンバーが主体となって作り上げたシングルだった。ここから男闘呼組は、与えられた曲を歌うだけではなく、自ら音を紡ぎ、バンドとしての“本当の姿”を歩み始めていく。

静けさの奥で芽生えた“バンドとしての覚悟”

男闘呼組はデビュー当初から、従来のアイドル像とは一線を画していた。ワイルドで不良性が漂うルックスに対し、演奏にも真剣に向き合う姿勢。だが、彼らが本当の意味で“ロックバンド”として踏み出した瞬間がどこかと問われれば、それは『ANGEL』のリリースだと言える。

作詞を手がけたのは、高橋一也(現・高橋和也)。作曲は高橋と成田昭次で、バンド内部の“化学反応”が鮮やかに結実した。

与えられた世界観ではなく、自分たちの衝動を音で表現する。その意志の強さが、この作品には確かに刻まれている。

当時の音楽シーンは、ダンスミュージックやアイドルポップが主流。それでも男闘呼組は、ストレートなバンドサウンドを貫き、存在そのものが異色だった。『ANGEL』はそんな彼らの“核”を示す作品となった。

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1996年、映画『目を閉じて抱いて』会見に出席した高橋和也(C)SANKEI

衝動のままに駆け抜ける、潔いバンドサウンド

『ANGEL』の魅力は、何よりその勢いにある。余計な装飾をまとわず、真っすぐ突き抜けるギター。タイトで力強いリズム。ボーカルは伸びやかでありながらどこか切なく、少年性と大人の入り口が同居している。

ここから男闘呼組は、単なるアイドルバンドという視線を跳ね返すように、音に対する誠実さを示していく。『ANGEL』のリリースは、メンバー自身が音楽的な主導権を持ち始めた象徴であり、その後のライブでの演奏や作品づくりにも確かな変化をもたらした。

バンドとしての土台を固める、静かで大きな一歩だった。また、“メンバーが書いた曲”という事実は、ファンにとっても大きな意味を持つ。彼らの内側から生まれた言葉や音は、よりリアルに響き、「この4人の音楽をもっと見たい」という期待を強くした

35年経っても消えない“青い衝動”の記憶

今聴き返しても、『ANGEL』の疾走感にはまったく古びたところがない。それどころか、当時の空気そのままに、胸の奥が少し熱くなるような感覚すらある。

あの日、街角の空気を震わせたギターの音。夕暮れのビルの間を抜ける風。未来へ踏み出そうとする若さの衝動。その全部が、この1曲に凝縮されている。

大人になる手前で感じる“どうしようもないまっすぐさ”が、この曲を今なお特別なものにしている。『ANGEL』は、ただのシングルではなく、男闘呼組というバンドの物語が大きく動き出した瞬間の証だった。

そして35年経った今でも、その純度の高い衝動は変わらず聴く人の胸の奥を震わせ続けている。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。