1. トップ
  2. 27年前、新人アイドルが放った“50万の衝撃” 無名グループが大ヒットしたワケ

27年前、新人アイドルが放った“50万の衝撃” 無名グループが大ヒットしたワケ

  • 2025.12.10

「27年前、あの秋の街でなにが起きていたんだっけ?」

夕暮れが早まり、アスファルトに落ちる風が少しだけ冷たく感じられた1998年。カラオケ帰りのビルの隙間、放課後の商店街、コンビニの前に立ち止まった瞬間、どこからともなく耳に届いた曲に、思わず胸がざわついた人も多かったはずだ。それが、当時の日本のポップシーンを一気に押し広げた一曲だった。

モーニング娘。『抱いてHOLD ON ME!』(作詞:つんく・作曲:つんく)――1998年9月9日発売

まだテレビの向こうの“新しいグループ”だった彼女たちが、この曲とともに景色を変えていく。その予兆は、もう街の音からはっきりと感じ取れた。

心が一瞬で掴まれた“あのイントロの衝撃”

『抱いてHOLD ON ME!』は、モーニング娘。の3作目のシングル。ランキング初登場1位を記録し、約50万枚の売り上げを達成。さらにこの年、彼女たちはこの曲で『第49回NHK紅白歌合戦』に初出場を果たす。

いわば“本当のスターダム”がここから始まった、と言えるタイミングだった。

冒頭から畳みかけるストリングスの高揚感と、間を置かず飛び込んでくるビートの強さ。つんくのメロディは当時のアイドル像とは一線を画し、恋の焦りやわがまま、衝動の手前にある複雑な温度を、ポップスの中に鋭く刻み込んだ。

その“高密度さ”“息つく間のなさ”が、テレビ越しにもしっかり伝わってきた。

undefined
1999年『第41回日本レコード大賞』に登場したモーニング娘。のプロデューサー・つんく(C)SANKEI

切なさと勢いが同居した“魔法のバランス”

この曲の魅力の核にあるのは、メリハリのある構成だ。勢いよく駆け上がるフレーズと、少し湿度を帯びたメロディラインが交互に現れることで、恋の迷いと衝動が同時に胸に迫ってくる。

強気だけじゃ終われない感情と、弱さを隠したまま突き進むエネルギー、その両方が曲全体に流れており、当時の若い層に限らず幅広いリスナーが自分の青春のどこかと重ねてしまう。声のバラつきさえ魅力に変えてしまう多人数ボーカルの強みも、ここで一気に開花した。

“テレビの中の少女たち”が急速にアイコンへ変わっていく瞬間

モーニング娘。は、楽曲の完成度、パフォーマンスの熱量、そして“群像としての魅力”が揃ったことで、彼女たちは一気に国民的存在へ。

この曲のヒットをきっかけに、モーニング娘。のイメージは“新人アイドル”から“時代を作るグループ”へと変わっていく。

秋の街を歩くと、どこかからサビが聴こえてくる。カラオケボックスでは、友達が順番にパートを取り合う。放課後の教室では、誰かが口ずさんでいる。こうした“小さな共鳴”が日本中のあらゆる場所で同時に起きていた。

結果ではなく“始まり”を象徴した一曲

約50万枚のセールス、ランキング1位、紅白歌合戦出場、数字だけでも華やかだ。だが、『抱いてHOLD ON ME!』の本当の価値は、“ここからモーニング娘。という文化が動き始めた”ことにある。

その後に起きるムーブメントの中心にいつも彼女たちがいた。この曲の高揚感は、まさにあの時代が走り出す音だった。街が少し冷えはじめる季節に流れてきた、熱を帯びたあのポップス。

ふと耳に入るだけで、あの頃の自分や、まだ名前を知らなかった“未来のスターたち”の笑顔が、鮮明に思い出されてしまう。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。